「てくてくまっち」カードの種類
「てくてくまっち」は先にお話ししたとおり、神奈川区役所の子ども家庭支援科と横浜市立大学の私共の研究室とまち保育を一緒に研究する研究者チームの協働で発行しているのですが、現在は非売品でして、横浜市神奈川区内の幼稚園や保育園の一部にはお手元に届いているところもあると思います。また、「てくてくまっち」についてどのような意図で作成したのか、カードの意味や遊び方ガイドなどを記載した副読本を作成しました。こちらの副読本については、大学のホームページから無料で見る事ができますので、ぜひ「てくてくまっち」と検索していただければと思います。
防災に特化したものだけではなく、ちょっと変わったカードもいくつか入っています。例えば、「まちのおじさん・おばさん」のカードは、日頃の関係性の中で、いざという時には助け合える存在という意味で、「あなたにとっていつも声をかけてくれるおじさん・おばさんは誰かな?」「パン屋の○○さん」とこども達がその存在に気付くきっかけになります。
また、「生け垣」のカード。生け垣は地に根を生やしていますので、災害時にも倒れにくく、炎症防止にもなります。また、きれいな生け垣を守ってくれているお家はまちの景観にも寄与してくれていますし、頑張って手入れをしてくれてありがとうという気付きになります。
そして「匂い」のカードもあります。街の中にはいろんな匂いがありますね。お散歩中などに「焼き鳥屋さんのいい匂い」というように、ここを通るとこんな匂いがすると記憶することもありますが、例えば雨の匂い、川が増水してくるぞという匂いなど、環境の変化の匂いもあります。歩きながら、「あれ、ちょっと雨の匂いがしてきたね」と言語化することによって、こども達がこのような変化を理解していくというきっかけにもなります。
日常生活の中でも防災や災害への視野がどう存在しているのかということを気付いてもらいたいという思いがあってカード化しているのも特徴だと思います。
こどもと一緒に防災を考える
これまで、こどもとまちとの関わりについてお話しさせていただきました。実は私、内閣府の学術会議の「こどもの生育環境分科会」で座長をしているのですが、防災学術連携体という活動をしています。どうしても大人の難しい話が多いのですが、やはりこどもの視点で、こどもの主体性の中で、いきなり発災時に自ら声を上げて動き出すということは難しく、急に出来る事ではありませんし、大人もそれを許容しなければなりません。
こどもの可能性をちゃんと理解しましょうということや、最初に申し上げていたような、こどもを主に考えると、こどもを客体に捉えない見せ方はどんな分野でも大事なことであるということなどを学術者として提唱しています。
大人に上から言われてしまうと、こどもはかしこまってしまうところがあるのですが、発災時に、怖かったり不安だったりすることを大人の顔色を見て伝える事を止めてしまい静かにしていることがあります。能登半島地震の際にもその傾向が強かったと言われていますので、こどもと同じ目線に立って、対話をしながら一緒にいざという時の備えなどを考えることが大切です。
それは未就学児からでも育むことが出来ますし、保育士さんや学校の先生などを含むこどもに近い関係者と、あまりこどもと接触していないような大人も全部丸ごとこどもと対話をしながらまちが成熟していく。まさにまちで育てることはまちが育つことだということが、災害や防災に対しても役立つのではないかと思っていますし、ぜひ皆さんにも気付いていただきたいと思っています。
やはり、防災は地域のコミュニティが大事ですので、こどもの頃から地域とのかかわり方を身につけておけば、将来、防災教育も発展するのではないかと思います。その時に一緒に考えるというスタンスで、大人がこどもに問いかけてこどもの声がちゃんと届くコミュニティ体制の中で、発災時の行動などが考えられるようになっていくといいなと思っています。