実際に被災地を見て、聞いて、感じて、開発された災害時支援物資を紹介する。
避難所でも気が抜けない
株式会社吾妻商会は「災害時要援護者」に着目し、あるスリッパを開発した。
阪神淡路大震災(1995年)や新潟県中越地震(2004年)などを振り返ると、多くの人々が避難所での生活を送るという状況の中、介護や援護が必要となるいわゆる「災害時要援護者」への対策の必要性が浮き彫りになった。
日常生活とは大きく違う避難所生活では体育館などの壁に手すりが十分に備わっていないことがあり、滑りやすい床や階段での歩行が困難なために転倒や転落などの事故が起こってしまうことがあった。
さらに転倒・転落の原因となる履物として、スリッパ、サンダル等の底面が滑りやすくて足から抜けて脱げやすい形状の履物しかない場合が多く、要援護者にとって安心して歩行できる環境を整えることができず、危険が多く潜んでいた。
そこで吾妻商会では、これらの転倒・転落事故を未然に防ぐため、かかとを包みこみ裏面にほどよいすべり止めのグリップをつけた、安全な歩行のサポートが可能となるケア商品「まもる」を開発した。
歩行をしっかりサポート!

「エスパド」と「カウンタールームシューズ」の2種類があり、それぞれの特長を以下に紹介する。
【エスパド】
体育館などの避難所に避難してきた状況で、大人数で共有して履くスリッパ代わりに、多くの人が安心して履ける商品となっている。
・甲をはじめ足全体を心地よいニットのフィット感で包み込む
・ほどよいすべり止めで歩行をサポート
・足入れしやすいデザイン
・ソフトなゴムでサイズを調整
【カウンタールームシューズ】
かかとを包みこむ「かかとカウンター」が、歩行をしっかりサポート。足が不自由な高齢者の方や要援護者の方に安心の商品。サイズバリエーションも豊富なので、自分に合ったものを選べる。
・安定した履き心地を作り出すゴムベルト付き、マジックテープで着脱可能
・ベルトの先端は長さ調節可能
・全体にダブルメッシュ素材を採用。通気性がよく軽量。
被災地に届けて感じた「まもる」の必要性 (株式会社吾妻商会 加治さんのお話)

新潟県中越沖地震(2007年)が発生してから4日後の7月19日。担当者の加治さんは、ケアシューズ「まもる」200足を車に積んで、被災地である柏崎市に向かった。
支援物資を受け入れる現地担当者と会い、指示を受けて向かった先は、避難所となっていた柏崎市役所から500mほどにある多目的公民館「元気館」だった。
早速「まもる」を200足届けた。この時、「数ある支援物資の中でも、ニーズに合った本当に必要な物を直接届けてくれて有難い」という感謝の言葉をもらい、食糧などの供給は時間経過とともに急速に改善していくのに対し、スリッパのような避難直後に最低限必要とされる物は、やはり事前に準備しておかなければいけないということを改めて強く感じ、この商品の必要性を実感できたと加治さんは言う。
「まもる」というネーミングは、「災害時に要援護者を護ってあげてください」という気持ちを込めて決めたということである。
また、市販されているケアシューズと違い、自治体等備蓄のための商品として考えているそうだ。まだ必要性を自治体に訴えている最中であり、問題意識が高い担当者は必要性に頷いてくれているが、今までにない提案故にまだまだ普及までには時間がかかると感じているという。
要援護者対策の必要性
災害発生後、避難所では早急に物品の手配や人の受け入れ準備など運営準備に追われるため、次々に届くあらゆる種類の支援物資の中でも、要援護者にスポットを当てた物資の確保は難しいのではないだろうか。
さらに、冬季の場合を考えると屋内外の避難所対策について、要介護者を含めた災害時要援護者への対策も強化していく必要性があるということである。
実際に避難所の様子を見て、体育館などの施設では滑りやすい床面や手すりなどが備わっていないなど、避難してきた要援護者の安全を確保するためには今後も様々な対策が必要だと感じたとのこと。
求められていること
一般的な防災対策に加えて、介護、援護を必要とする「災害時要援護者」のニーズを視野に入れて、災害発生時に情報が確実に回せる仕組みづくりや、安否の確認、避難所までの誘導、医療的な対応の確保など、専門的な知識と共に、災害時の地域での救援体制の整備や、備蓄の確保を進めることが、求められている。
(監修:レスキューナウ 文・国際ボランティア学生協会 小野槙子)
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