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防災コラムVol.123

日本列島の降雪を考える(後編 太平洋側の降雪について)| 防災コラム

公開月:2006年5月

この冬は記録的な暖冬となり、雪の少なさも報道されている。春の訪れが早いとの気象庁の見解もあるが、この春先こそが太平洋側の雪のシーズンであり、2009年3月3日~4日未明にかけては、関東地方などの広い範囲で降雪を観測した。雪に不慣れな地域でもあり、降雪の要因を理解しつつ、早めの情報収集で注意を払っておきたい。

春先に多い太平洋側の雪

忠臣蔵として名高い赤穂浪士の討ち入り、幕末に時の大老井伊直弼が暗殺された桜田門外の変、政府首脳や政府機関が多数襲撃された2・26事件、これら江戸・東京を舞台にした歴史上の大きな事件に共通する天候はいずれも「雪」である。

では、こうした雪はいつ頃降ったのだろうか。先ほどの3つの事件が起こった日をすべて新暦で表してみると、赤穂浪士の討ち入りが1703年1月30日、桜田門外の変が1860年3月24日、そして2・26事件が1936年2月26日となり、暦の上では真冬ではなく、いずれも冬の終わりから春先にかけてであることが分かる。

このような傾向は統計上からも読み取れる。例えば、『理科年表』で雪日数の月別平均値を比べると、札幌、新潟、松江などの日本海側では1月が最も多くなるのに対し、東京、大阪、高知などの太平洋側では2月が最も多くなっている。

2つのタイプがある太平洋側の降雪

太平洋側の雪のシーズンは2月~3月頃

2月のコラムでは、日本海側の降雪のメカニズムとして、ユーラシア大陸に位置する高気圧から吹き出す冷たく乾いた北西季節風が、暖流の流れる日本海上空で温められて雲を発生させ、さらに本州の脊梁山脈を吹き上がることで上昇気流を起こし、雲が発達して降雪がもたらされるとした。

これに対して、太平洋側の降雪には、日本海側の降雪と同じ要因の場合と異なる要因の場合との2つのタイプがある。

まず、日本海側と同じ要因の場合であるが、本来であれば、日本海側に降雪をもたらした雪雲は山脈を越える時に日本海側に雪を降らせてしまうので、そこで雲はなくなって太平洋側には乾いた風がもたらされ、晴天となるはずである。しかし、脊梁山脈が低く雪雲を堰き止めきれない地域、日本海と太平洋の間の陸地の幅が狭く、雪雲が太平洋側まで吹き抜けてしまうような地域では、いわゆる「西高東低の冬型」と言われる日本海側に降雪をもたらす気圧配置の下でも雪を見ることがある。

この要因による降雪は地形的な条件によるところが大きいので、降る地域も概ね決まっている。典型的な例は名古屋市周辺の伊勢湾岸地域である。北西季節風の風向とも一致する若狭湾から伊勢湾を北西から南東に結ぶラインは本州で最も幅の狭いところで、日本海と太平洋の距離はわずか100kmほどである。加えて、この付近は脊梁山脈が途切れており、雪雲が太平洋側にも流入しやすい地域である。この脊梁山脈が途切れたところが岐阜・滋賀県境の関ヶ原付近であり、冬に東海道新幹線がこの付近での徐行運転が多いのも、まさにこの地域での降雪の影響を受けるからである。

一方、日本海側と異なる要因は、日本海側の降雪の要因となる「西高東低の冬型の気圧配置」が緩んで本州南岸を低気圧が東へ進む時である。このような気圧配置は一年中見られるものであり通常は雨となるが、冬は気温が低いため、平野部でも雪になる可能性が高くなる。

2月から3月にかけての春先は、冬型の気圧配置が長続きしなくなって本州南岸を低気圧が通過することが多くなる上に、気温が低いことから太平洋側でも雪になりやすく、このことから太平洋側では2月に降雪日数のピークを迎える地点が多くなるのである。

湿った雪がもたらす被害に注意

主要道路の通行止めは様々な方面に影響を及ぼす

豪雪地帯である日本海側や北日本に比べて、関東から西の太平洋側では雪に不慣れであり、わずかな積雪でも思わぬ被害を広範囲にもたらすことがある。雪道での転倒はその典型的な例であるが、雪質の違いがもたらす被害にも注目してみたい。

1986年3月、本州南岸を低気圧が発達しながら通過し、東京の積雪量が10cmに達するなど関東地方は大雪に見舞われた。この際に、雪と強風によって神奈川県厚木市内にある東京電力の鉄塔6本が倒壊し数百万世帯が停電、復旧までに丸2日かかった。当時、筆者は小学生であったが、停電に加え、浄水場の機能が停電によって停止したことによる断水にも見舞われ、非常に不自由な思いをした記憶が残っている。

このように鉄塔を倒壊させる気象条件として、強風とともに雪質の重さがあげられる。太平洋側で降る雪は「ぼたん雪」と呼ばれる湿った重たい雪が多く、その雪の重みが送電線に大きく負荷をかけるのである。

こうした湿った雪の降る可能性は、「着雪注意報」の発表によって事前に知ることができる。着雪注意報の基準は各地域によって異なるが、概ね気温が0度前後で降雪の可能性がある場合に発表されることが多い。この気温の下で降る雪は水分が多く、送電線や樹木に付着して切断等の被害を引き起こすおそれがある。送電線の切断はライフラインにも深刻な影響をもたらすため、着雪注意報が発表された場合には、家庭・職場それぞれにおいて停電の可能性も念頭に置いた準備を検討しておきたい。

(文・レスキューナウ危機管理情報センター専門員 水上 崇)

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