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防災インタビューVol.219

感染症危機管理の強化と災害に強い社会に向けて

放送月:2023年11月
公開月:2024年5月

平川 幸子 氏

株式会社三菱総合研究所 ヘルスケア事業本部 主席研究員

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

プロフィール

三菱総合研究所というシンクタンクに勤めております。シンクタンクの業務というのはイメージが付きにくいと思いますが、私は主に、官公庁から委託を請けて調査をしたり、ガイドラインや行動計画を作ったり、という業務をしています。現在は、感染症危機管理の業務を主に行っています。今回は私自身の経験から危機管理についての思いをお話したいと思います。

私はもともと、1995年の阪神・淡路大震災以来、防災に関わるようになりました。阪神・淡路大震災は当時、それまで準備していた想定外の出来事で、その後地域防災計画やBCPガイドライン等の業務に携わるようになりました。その後、紆余曲折を経て、2009年の新型インフルエンザのあたりから感染症に関わり、2020年の新型コロナについても感染症対策に関わるようになりました。現在は、感染症危機管理の業務の中でも「感染症予防計画」や「健康危機対処計画」づくりのお手伝いをしています。

新たな危機に備える~感染症パンデミック~

阪神・淡路大震災から10年後の2005年に世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザという新しい感染症が世界的に流行するので加盟国に「行動計画を作るように」と呼びかけました。それを受けて日本でも2005年「新型インフルエンザ対策行動計画」を作成しています。これは今発生している新型コロナ対策の大本になるものと思ってよいかもしれません。

2005年に行動計画を作ったのはいいけれど、それに実現性を持たせるためにはガイドラインや業務継続計画、BCPが必要になってきました。そのために厚生労働省が2008年に「新型インフルエンザ対策推進室」を立ち上げて準備を始めました。

私は2008年から2010年まで、厚生労働省に出向する形で、会社を離れて「官民交流制度」という制度のもと、「新型インフルエンザ対策」の政府行動計画やガイドラインの作成にあたりました。私の主な役割は、「感染症に関わるBCPの作成を推進すること」でした。2008年当時は防災分野やIT分野ではBCPは普及してきていましたが、「感染症のBCPって何?」という状況でした。地震で被害を受けて建物が倒壊し、道路が分断され、水や電気などのインフラが使えないといった状況ならともかく、感染症にかかっても建物は無事、インフラも問題が無いため「なぜBCPが必要なの?」という状態です。

新型コロナによって医療機関や高齢者施設でクラスターが発生し、医療や介護の機能が崩壊する、業務継続のための仕組みを考えなければと、今では当然となっていますが、20年前では理解を得るのが難しい状態でした。

自然災害をベースに感染症対策を考える

新型インフルエンザのBCP作成について、自然災害のBCPというお手本があったので、「自然災害と感染症ではどのように違うのか」ということにフォーカスしてBCPの説明をしていくようにしました。

例えば、自然災害では全国的に被害が及ぶことはないので相互に助け合うことが可能である、と考えていましたが、感染症の場合、全国が被害をうけるので互助は難しいのではないか、といった議論をしました。そのため感染症対策時の「受援体制」については事前にあまり考えられていませんでした。

結果的には、新型コロナが全国的に流行しても、関西が大流行しているときに首都圏では落ち着いている、などの波があり「受援体制」が重要になりました。

なぜ2009年新型インフルエンザで学べなかったか

新型インフルエンザについて、ちょうど行動計画・ガイドラインを作った直後の2009年に豚由来の「新型インフルエンザ」が流行しました。今こそ、行動計画、BCPの出番だと思いましたが、実際には発生した「新型インフルエンザ」は強い病原性のものではなかったため、BCPは活用されず「不要ではないか」というイメージすらついてしまいました。それが、その後、次の感染症に向けた準備ができなかった理由の一つだと思います。

新型インフルエンザでの反省点で、特に今回も問題になったのは、実はコロナでもあまりうまくいかなかった点です。

1点目は、自然災害でも同じですが、「自分事化」できなかったというところです。2009年の新型インフルエンザは、医療機関や保健所などの現場では苦労しましたが、実社会ではあまり影響がなく、社会も通常どおり機能しました。一般の方は全く「自分事化」できないままでした。

2点目は「コミュニケーションの不備」です。先ほどからご紹介しているように、感染症発生前から、国では行動計画・ガイドラインを作成している状態でしたが、それが自治体や医療機関には伝わっていませんでした。「作っていることが知られていない計画は作っていないことと同じ」などとも言われました。

また、伝達方法としては、役所が発信する「通達・事務連絡」という形で日々情報発信されていましたが、自治体側からすると通知だけが次々に伝達されてくる、という状況でした。国が発信した業務連絡の上に、自治体の頭紙がつけられて、医療機関や福祉施設、学校に転送されるという状況です。しかも、役所の文章はもれなく正しく記載する、ということをモットーにしているので、とても分かりにくいです。

今回も同じ問題が起きています。実際、厚生労働省の計画は現場の医療機関や自治体に伝わらず、分断を生んだように思いました。これも新型コロナのときもあまり大きくは変わっていません。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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