健康危機管理の拠点・住民との接点であり公衆衛生の最前線
健康危機管理は住民のためにあり、住民と共にあると思います。保健所は健康危機管理の最前線とされていますけれども、これからは想定外にも備える仕組みが必要だと思います。健康危機管理は、以前にもお話ししましたが、原因が何であれ、国民の生命、健康の安全を脅かす事態に対して行われる健康被害の発生予防、拡大防止、治療などに関する業務であって、厚生労働省の所管に属するものを言います。
知識や技術、コミュニケーションによって個人を守ること、家庭を守ること、社会を守ること、これは大変大切なことであると同時に、新たな技術も続々と生まれています。新たな技術の導入をいかに進めるかというようなことも大切だと思います。保健所は感染症の最前線。現代における感染症との闘い方・付き合い方、これを一緒に考えていくことが大切ではないでしょうか。ICTの活用、AIなども視野に入ってきています。ワクチン、感染症の新薬、これら専門家から住民の皆さん、保健所の活用最前線までどのようにつないでいくかということを考えて実行したいと思います。
一方で、人材育成のことですが、保健所にも人員の制限があり、無制限には業務を行うことができない事情があります。危機発生時にいかに人員を増やすのか、いかに業務の質を高めるのかというのも、非常に大きな課題になっています。
健康や命を脅かす危機に対して、その準備や計画はとても大切です。いくら計画しても、それでも想定外の危機は常にありうるのではないでしょうか。これまでに遭遇した危機のことを考えても「まさか」というものが多く、いくら準備しても間に合わないかもしれません。ですので、そのような「想定外の危機」が起きた時にどうするのかという「想定外を想定する」という心構えや準備などもこれから必要ではないかと私は考えています。
ウイルスとどう向き合うか
ウイルスは哺乳類の胎盤形成にも関与したそうです。これは驚きですよね。健康な人の体の中にもウイルスは潜んでいるそうです。これは全く未知の領域で、まだ研究途上にあるそうなのですが、私たちが生まれるよりはるか昔からの抗うことのできないウイルスの大きな影響、人類との強い関係性があるのも感じます。
スペインのインフルエンザは第1次世界大戦中に起きています。総戦死者の6割(約1000万人)が戦病死で、その3分の1はインフルエンザが原因とされているそうです。そして、戦争の終結を早めたと言われています。わが国でも感染症流行の最中に自然災害が発生することもあります。コロナ禍の間でも、水害や地震などいろいろ起きました。このような複合災害、避難所における感染症対策も大変重要です。致死率が1%でも2%でも低いと感じられるかもしれませんが、感染者数が爆発的に増えるとたくさんの人が亡くなります。
交通の発達した現代では感染症の伝わるスピードも格段に早まりました。一方で、薬剤やワクチンの開発、情報ネットワークなど戦うツールも急速に発展させました。人類は今後、感染症とどのように向き合っていくのでしょうか。その中でいかに個人が生き抜くか、集団が生き抜くか。これは総力戦だと思います。行政の力だけでは乗り切れません。個人の予防や社会の防護の仕組みが共に求められています。それには、皆さんの一人一人の考えや行動、お互いのコミュニケーションが大きく関わることになります。
感染は人から人へと拡大します。誰でも自分は感染症には罹りたくありません。でも、自分一人だけ逃れることはできません。常に社会全体の流れに左右され、特にグローバル化の現在では世界中の感染症がすぐ身近にやってくる時代です。個人の予防は常に社会の防護と共にあります。皆さんには社会の防護にもぜひ関心を持っていただきたいと思います。