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防災コラムVol.67

韓国沖原油流出事故 現地レポート(前編)

公開月:2006年3月

2007年12月に韓国の沖合で発生した原油流出事故をフリーカメラマンが現地から2回に分けて報告する。

ドラム缶5万本分の原油

浜を埋め尽くす吸着シート

今年(2007年)はもう大きな事件事故はないよなあ、思えば今年はでかい災害が多かったなあ、などと少しのんびりした気分になっていた12月7日20時前。フィンランドに海上交通システムの研究に行っている海洋汚染が専門の沢野伸浩氏から第一報が入った。
「まだ、国際的な報道は行われていませんが、韓国で大きな原油流出事故が発生しました。黄海に面した忠清南道沖で、発生地点は沿岸8キロ、流出量は1万500キロリットル(kl)、原油とのことです」

この時、原油1万klということの意味が理解できなかった。しかし200l入るドラム缶52500本分だ。高さがJIS規格で90cmと決まっているから、縦に積むと47250mになる。要するに約47km。東京駅からだと直線で青梅市までに匹敵する長さ。しかも原油である。ナホトカ号による日本海重油流出事故(1997年)の時は重油であった。重油は火をつけても簡単には燃えないが、原油は揮発成分が含まれていて、つまりそれはガソリンの成分なワケだ。ガソリンの成分が多いほどよい原油ということになる。危険の度合いは重油の比ではない。

入らない現地情報

波打ち際からバケツリレーで原油回収タンクローリーまで運ぶ

取材に行こうと決心した。早速グーグルアースで現地を確認しようと思ってがくぜんとした。韓国の国内地図は公開されていないのだ。韓国と北朝鮮は今でも軍事的に対立していて、つまり戦争状態だという現実を見る思いがした。幸い沢野氏が最近現地に行った経験があり、ある程度以上の情報をもらえた。こうなったらもう突っ込んで行くしかない。情報がないから自分で行くのだ。某社編集部に連絡した。反応は芳しくなかったが、とにかく行ってくれということ。9日の朝だった。

しかし、すぐに出発しなかった。なぜか。仕事で行く以上、海外の災害や事件事故の取材の場合、絶対に失敗できないのだ。失敗できないというのは、つまり「いい絵」が撮れなければ失敗とみなされるからだ。原油が確実に浜に流れ着いたことを確認するまでじりじりと時間が過ぎて行った。9日の14時過ぎ。朝鮮日報のWEBサイトに原油漂着の一報が載った。それを確認した次の瞬間飛行機を予約し、あたふたと荷造りして、数箇所に電話を入れ不在を通知し、翌10日朝、飛行機に乗った。

同業者がたくさんいるだろうなと思っていたけれど、成田空港にそれらしき人は誰もいなかった。大きな災害や事故現場に向かう時、必ず飛行場で行き会うような同業者がいないという理由は二つに一つである。その事件事故が取材する価値がないか、重要性が認識されていないかだ。今回の場合、結論を先に書くが、重要性が過小評価されている。通信社でまともな写真を出しているのは仏AFP通信の現地カメラマンだけだ。

拍子抜け

マリポの浜は韓国有数の海水浴場である。海鮮レストランや海の家、刺身の食堂が建ち並ぶ

現地に宿は取れなかったので、10kmほど離れた牙山(アサン)という温泉町に宿を取った。仁川(インチョン)空港からバスで2時間ほどの距離。普段だったら事前に地図や衛星写真を見て位置関係を頭に叩きこんで出かけるので、おおよその見当はついているのだけれど、今回はほとんど現地の位置関係が頭に入っていない。この状態で動き回っても取材にはならないので、はやる気持ちを抑えつつ、フロントで韓国国内向けの地図を借りる。それをコピーしてもらって取材計画を立てる。この時もう16時を過ぎていたので、外は暗くなっており、写真は無理と判断して、部屋でパソコンをインターネットに接続。日本では田舎の温泉ホテルにはLANがないことがほとんどだけれど、さすが日本よりインターネットの普及率が高い韓国だ。すぐにつながった。ただ、プロバイダーによって強烈にフィルタリングされており、参加しているメーリングリストへの送受信は全くできなかった。こういうこともあろうかと、グーグルメールにアカウントを作って配信登録をしておいたのは正解であった。相変わらずフィンランドの沢野氏からの情報が一番早い。パソコン用IP電話のスカイプをつなぎっ放しにして最新情報と原油流出のレクチャーを受ける。

萬里浦(マリポ)という海水浴場の沖合8kmで発生した事故である。とにかく明日はタクシーを1日チャーターして現地に行こうとフロントに頼んだ。「英語か日本語のできる運転手を」と確実にお願いした。翌朝がくぜんとするのであるが、この時は安心してキムチと焼肉を食って寝てしまった。

英語も日本語も通じないドライバー

ドライバーの名誉のために言っておくが、やつは実に正しくいい人物であった。友人にするには最適な好人物である。しかし、言葉が通じない。まったく通じない。英語はワン、ツー、スリーくらいしか通じない。rightもleftも通じない。通じないったら通じないのだ。地図を指し示し、「ここに行け」、肩をたたいて指で「右行け左行け」というしかない。料金は信じられないが8時間拘束昼飯付で15万ウォン(約18000円)。日本の4分の1である。だからまあ仕方がないなあ。日本のタクシードライバーの一体何人がこの運転手より英語ができるかなあと考えたら、まあ似たようなものだと諦めた。誤解のないように確認しておくが、私が英語がうまいと言っているのではない。「あそこ行け」「腹減った」「水くれ」「これ三つくれ」「お姉さん美人だね」くらいしか言えないわけだ。まあ、これだけ話せれば生活上の不自由はほとんど感じない。
宿から30分で現場に着く。

ヤバイ現場

沖合にうっすら見えるのが今回事故を起こしたタンカー。8km先というのは目と鼻の先である

現場にはすでにたくさんの動員された人々が回収作業に当たっていた。韓国国内のカメラマンやテレビクルーもたくさん来ていた。今朝の新聞やテレビもかなりの時間を使って報道し始めたところだ。とにかく油臭い。クラクラ来るような揮発成分の強い臭いだ。走るようにしてマリポ浜に向かう。周辺には海鮮食堂や海の家が建ち並んでいる。ここは韓国有数の海水浴場であり、リゾートでもあるのだ。浜に出た。

沖合8kmという数字は一般的には理解しにくい。しかし、目で見る8kmはいかにも近いのだ。ほんの目と鼻の先、東京でいえばお台場から羽田空港くらいの距離である。つまり東京湾のど真ん中でタンカーにクレーン船が突っ込み1万klの原油が流れ出したのだ。人海戦術でしか回収できないのが原油流出事故である。使える機械は限られる。日本海重油に負けるな!のような声も聞かれる。韓民族の結束力を示せ!のような声も聞かれる。時あたかも大統領選挙の最終盤であった。

(監修:レスキューナウ 文:ジャーナリスト 冨田きよむ)

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