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防災コラムVol.153

2年ぶりに上陸した2009年台風18号

公開月:2006年6月

2009年10月、2年ぶりに日本に上陸し本州を縦断した台風18号。台風接近に際し、当初大きな被害の発生が懸念された高潮について考える。

本州を縦断した台風18号の被害

伊勢湾台風の際、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)下流域のゼロメートル地帯では浸水被害が発生し、大きな被害が出た(撮影場所 国営木曽三川公園)

2009年10月8日早朝に愛知県知多半島に上陸し、東日本から北日本を縦断した台風18号は、大雨・強風・高波などによって各地に被害をもたらした。

今回の台風18号は、四国から東海地方にかけての沿岸に上陸し本州を縦断する進路が予想されていたこと、四国沖でも中心気圧が950hPa前後と勢力をあまり弱めることなく本州に接近してきたことから、2004年10月に日本列島を縦断し、死者・行方不明者98人という平成以降では最大の被害をもたらした台風23号との類似性が指摘されていた。気象庁も記者会見で避難の準備など台風への早めの対応を呼びかけたことから、台風の進路に当たる自治体では、台風の直接の影響が出る前から避難所の開設等が行われたほか、JR各社が台風通過時の運転見合わせや運休の可能性を事前に発表するなど従来よりも広範囲の地域で台風への態勢が早くから整えられた。

このようなことと、台風が速い速度で通過したこと、降水量が当初の予想を下回ったこともあって広範囲での深刻な被害は抑えられ、総務省消防庁(2009年10月13日現在)によると、この台風による人的被害は死者5人にとどまっている。しかし、台風の接近時に大気の状態が不安定になったことにより、千葉県や茨城県では竜巻と見られる突風が相次いで発生し、負傷者や家屋損壊の被害が多数出るなど局地的には大きな被害も発生した。台風の上陸は2年ぶりであったが、こうした被害を目の当たりにし、台風の持つエネルギーの大きさを私たちに改めて実感させられることになった。

伊勢湾台風との類似性も指摘される

今回の台風18号の接近時に、2004年の台風23号とともに進路・強さの類似性が指摘されていた台風として、ちょうど50年前の1959年(昭和34年)9月に日本列島を襲った伊勢湾台風がある。この台風における死者・行方不明者は5098人にのぼり、気象災害としては戦後最悪の死者・行方不明者となった

伊勢湾台風における人的被害を都道府県別にみると、全体の約90%が愛知県と三重県に集中している一方、気象災害の要素別にみると全体の約70%が高潮によるものとなっている。このように、この台風では愛知県と三重県の伊勢湾岸で記録的な高潮が発生し、これによって多くの犠牲者が出ている。

今回の台風でも、伊勢湾台風によって大きな被害を受けた伊勢湾岸の自治体では、台風の接近に備えて防潮扉を閉めたり、沿岸部の住民に避難勧告を発表するなどの対応が早い段階から行われた。その結果、住宅地においては大きな被害はみられなかったが、三河港(愛知県)では、積出中のコンテナが高潮によって横転する被害も報告されている。

高潮とその被害の大きさ

防潮扉や防潮堤の建設など高潮への対策も進みつつあるが、その一方で、台風の進路や強さが高潮の発生に大きく影響していることも考えておきたい。

高潮とは、海面の高さが平常の潮位の変化を遥かに上回って高くなることである。

台風の接近時には、気圧が急激に下がることによって吸い上げられて海面が高くなる(吸い上げ効果)。この吸い上げ効果は気圧が1hPa低下するごとに約1cm海面が上昇するとされている。また、沖合から海岸に向かって風が吹くと、海水が海岸部に吹き寄せられて海面の上昇を促す(吹き寄せ効果)。こうした吸い上げ効果と吹き寄せ効果による海面上昇は湾の奥のように海域が狭まってくるような地形では一層強くなり、広い範囲に高潮の被害を発生させる要因となる。

日本の三大都市である東京、大阪、名古屋はいずれも東京湾、大阪湾、伊勢湾の最奥部に位置し、これまで述べたような高潮の被害を受けやすい立地条件が揃っている。実際、伊勢湾台風以外にも、東京湾では1917年(大正6年)の台風、大阪湾では1934年(昭和9年)の室戸台風でそれぞれ平均海水面比3~4mの高潮が発生して市街地の広範囲が浸水し、1000人以上の死者・行方不明者が出ている。また、全国的にみると、1999年(平成11年)9月の台風18号において、熊本県八代海で高潮が発生し12人が死亡するなど、最近になっても高潮による大きな被害が発生していることが分かる。

高潮被害の危険性は減らず

川面より低い位置に住宅が建てられている(撮影場所 国営木曽三川公園)

今回の台風18号は、上陸時の中心気圧が伊勢湾台風と比べて20hPa以上高かったこと、台風の西側に伊勢湾が入ったことから、南向きに開いた伊勢湾に対し北~西寄りの風が吹いたことなど、吸い上げ効果、吹き寄せ効果がともに弱かったことから、当初懸念された大きな高潮は発生しなかった。

国内では伊勢湾台風以降、三大都市が高潮により大きな被害を受けた事例はない。しかし、伊勢湾台風以降の高度経済成長期にこれらの大都市部では急激な地下水のくみ上げに伴う地盤沈下が進み、いわゆる「ゼロメートル地帯」と呼ばれる、標高としては海面下に位置するような土地が大きく拡大することになった。そして、そのような場所にも住宅や工場、オフィスなどが立錐(りっすい)の余地もないほど建てられている。防潮堤の建設など高潮に備える施策は進められているが、むしろ以前と比べて高潮による被害の危険性はより高まっているとも考えるべきであろう。

奇しくも、半世紀の時を越えて予想進路や勢力の比較対象となった伊勢湾台風について、その被害の甚大さ、そしてその被害を生んだ高潮が改めて注目されるようになった。一人ひとりが正しい知識と最新の情報を学び、来るべき次の台風に備える契機としたい。

(文:レスキューナウ危機管理情報センター 水上 崇)

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