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防災コラムVol.245

「脱原発」-危機管理の視点から

公開月:2011年10月

2011年10月12日

東日本大震災による東京電力の原発事故を踏まえ、危機管理の視点から「脱原発」について考えてみる。

危機管理という視点から検証

渋谷で行われた脱原発デモの様子(2011年9月24日撮影)

日本にはおよそ50基の原発が稼動している。再び大津波が襲ったとしても今回の東京電力のような原発事故を繰り返してはいけない。今回は、震災後における世界の原発政策を振り返るとともに、当時の菅首相が「脱原発」を打ち出したことで、市民レベルでも脱原発の機運が高まった。このような中、「脱原発」がリスクの軽減につながるのかを危機管理の立場から検証した。

震災後、世界の原子力開発は

IAEA(国際原子力機関)など海外の関係機関が発表する情報も確認しよう

震災後、イタリアでは国民投票によって原発建設計画を放棄することになった。ドイツでは国内での原発推進の方針を転換し、国内のすべての原子炉の停止を発表した。その一方、日本の近隣諸国である韓国・中国、そしてインドでは原発の運転再開や新規建設に反対する市民レベルの運動が発生したものの、各国政府は自国の原発の安全性を強調し、現在も原発を推進している。背景として、アジアで発展を続ける国々は、ほぼ共通して電力不足に悩まされており、国内の電力事情を安定させるため原発の導入に前向きとなっているためだ。日本もそのような国に対して原発技術の輸出を計画しており、震災前にベトナム向けの契約を取り交わし、震災後も契約を保持している。なお、震災後に原発推進を撤回したドイツは数日後にアジア3位の経済大国であるインドでの原発建設を受注している。

日本周辺には30基以上の原発と原子力を利用した兵器が存在する

日本の近隣に位置する韓国には既に20基、中国には11基の原発が存在する。今後、両国合わせてさらに30基の原発の建設が計画されている。また、原発とは異なるが、日本の港には頻繁にアメリカの原子力潜水艦や原子力空母が寄航するほか、中国の潜水艦が日本近海を航行する事例が繰り返し報告されており、新規の空母建設計画があるなど中国では兵器の近代化を押し進めている。中国が原子力潜水艦や原子力空母を持つ日も遠くはない。さらに、北朝鮮では現在も核開発を継続しているとみられている。1998年にインドとパキスタンで相次いで核実験が行われており、アジアでは原子力発電だけでなく、核兵器開発の動きも広がっている。

脱原発は防災につながるか

震災後、脱原発の機運は高まった。日本から原発がなくなれば、事故による直接の被ばくや避難などのリスクはなくなる。しかしながら、停止した原発の核燃料を冷温状態で貯蔵し、災害やテロから守っていかなければならないことに変わりはない。また、日本周辺には各国の原子力関連施設が増え続け、原子力を利用した兵器は日本の港に寄港する。原子力潜水艦の寄港を拒否することは難しく、周辺各国に脱原発を広められる公算もない。ひとたび大規模な事故が起きれば、放射性物質が大気中に拡散し、日本国内に降り注ぎ、それを体内に取り込む内部被ばくのリスクは防ぐことはできない。今回の事故と同様、放射性物質が検出された地域では、人体に影響がないとされるレベルであっても水、米、肉、魚、野菜などの出荷が停止されることになりかねない。

情報発信・うわさ・不安・パニック

今回の事故で問題になった政府による原発事故の発表方法、当事者である東京電力の発表方法、それを伝えるマスコミ報道のあり方に対する疑問は、国民に多くの不安と流言を生む一因となった。原発事故に関する情報発信は発生国の危機管理能力や対応方針に左右され、どんなにうまく情報を発信しても、受け取る側が不安を感じたり、情報を隠しているのではないかと疑心暗鬼になれば、コンビニやスーパーからペットボトルの水がなくなったり、簡易食品が品切れになる。昨今のSNSの発達は根拠のない情報を瞬く間に拡散させてしまう場合もあり、多くの人が誤った認識を持つことにもつながる。不安に駆られた人々の行動を防ぐ方法はない。

震災の教訓を世界に伝えることが日本を守ることになる

視野を国内までに広げてみると、日本だけが脱原発を進めても、周囲の国は開発をやめない以上、私たちを取り巻く原発事故のリスクはなくならないとも言える。しかし、事故の教訓から原発が津波災害に対応するために必要な要件をまとめ、各国に発信して対策を取り入れてもらうことはできるはずだ。また、もし日本が原発を輸出することになった場合も、震災の教訓が活かされていない原発を輸出することはゆるされない。今後、国内の原発の安全対策を進める上で得たノウハウとともに、世界に発信することが当事者としての責任ではないだろうか。

 

(文・レスキューナウ危機管理情報センター 大脇桂)

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