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防災インタビューVol.219

感染症危機管理の強化と災害に強い社会に向けて

放送月:2023年11月
公開月:2024年5月

平川 幸子 氏

株式会社三菱総合研究所 ヘルスケア事業本部 主席研究員

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

危機に強い社会を作る

まず危機に強い社会とは何かということを考えます。社会の弱いところが被害を受けるのは感染症も自然災害も類似点があります。災害でも感染症でも、高齢者や疾患のある方、非正規雇用者などがまず影響を受けます。とすると、災害に強い社会というのは、平時から脆弱な部分を互いに支えることができる社会ではないかと思います。

感染症はまた近いうちに必ず発生します。特に感染症は皆が経験したとおり、指数関数的に患者が増えて、通常の医療や行政サービスレベルが下がるという状況にもなります。

行政サービスに頼れないとすると、どうするか。そこでは「共助」「互助」が力を発揮します。企業やNPO、ボランティア団体による「共助」、隣近所・地域社会や家族による「互助」が必要となります。

新型コロナでは企業や学校がその機能を大きく果たしました。特に、企業や学校がワクチンの集団接種等を率先して進めたことが、日本のワクチン接種率の向上につなげました。また、地域社会やボランティア団体による食料配布等を行った例もありました。

分断が共助を阻害する

新型コロナの発生当初は、共助・互助による食料配布が進まなかったようです。それは「感染が怖い」からです。感染患者の家に行くなどもってのほかという状態でした。しかし、だんだん新型コロナの状況もわかり、玄関の外に置くなど、患者さんと直接接触しなければ感染するものではないとわかり、共助・互助がよみがえってきました。

振り返ると、患者が住んでいる家の外に行くのを恐れるのはばかばかしいと思いますが、新型コロナ発生当初はそのような空気でした。十分に情報がなかったことが原因です。情報不足による分断が生じて、それが共助や互助を阻害するというのは問題です。

リスクコミュニケーションの目的とは

そう考えると、災害時のリスクコミュニケーションはとても重要です。私がいつも心にとめている寺田寅彦の一文があります。「怖がらなさ過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい」。「正しく怖がる」ことがこれほどまでに難しいとは、と実感させられます。

リスクコミュニケーションの目的は「自分で理解して行動するための」情報共有だと思います。新型コロナの性状、どうやったら感染するかなどを学び、自分で考えて行動する。

災害時は「避難してください」などのシンプルな情報発信が有効であるとして、様々な工夫がされています。そこには「理解する」よりも「行動を起こしてもらう」ことを重視していると考えられます。新型コロナの発生初期も「Stay HOME」等のメッセージは有効だったように思いますが、3年間はそれでは立ち行きません。ちゃんと理解したうえで、自分で考えて行動することが重要になります。

自分で考えるというのは、「皆がマスクをするからマスクをする」のではなく、人が多いから、または、病院など弱い方がいるから、この場ではマスクをした方が良い、と考えて行動することです。そうした「自分で考える力」を身に着けていただくのがリスクコミュニケーションの究極の目的であるといえます。

想像力の醸成と考える力

感染症の被害は自然災害のように目に見えないところが、皆の思考停止の原因になる場合もあるのではないでしょうか。

今回の新型コロナは若い人は軽症者が多いので、ワクチンを打つよりむしろワクチンを打たずに感染した方がいいのではないか、という風潮もありました。これはとても危険なことです。自分が感染してみたらということだけでなく、自分の親や祖父母が感染したらどうなるか。自分の子供が感染したらどうなるか。ということを考えるのが重要です。

災害対策というより、人間力のような話になってしまいましたが、これは自然災害でも似たことがあります。自然災害でも、自分の住んでいる地域がハザードマップで何か注意が出ていないか、今いるこの場所で津波が起きたらどうなるのか、どこに逃げればよいのか、日ごろから考えていないと、緊急時に行動できません。

日ごろから、危機に対する感度を高め、自ら情報を集め、自ら考え想像するということが、危機に対する基本的ですが、重要な特効薬になります。

認め合う社会へ

感染症危機・自然災害を含め、危機を拡大するのが様々な形の分断です。過去の様々な危機でも誹謗中傷などが発生しましたが、新型コロナでも様々な誹謗中傷がありました。

最初は感染した事業所、業態への非難、次は医療従事者やその家族への差別。患者を受け入れる医療機関から離職する動きも多くありました。経営者がいくら患者を受け入れる決意をしても、働いている看護師さんが離れていってしまう、という状況です。

今回はSNSでの誹謗中傷が多くみられました。総務省の情報通信白書によると、世界の情報伝達力は1918年のスペインインフルエンザ流行時を1とした場合、新型インフルエンザは17万倍、新型コロナが流行した2020年は約150万倍になっているそうです。インターネット、SNSの普及がその情報量の急増につながっていると考えられます。SNSの情報は暴力にもなります。批判の矛先は感染症の専門家にも向けられ、政府の専門家会議の専門家は殺害予告までされました。

医療従事者や感染症の専門家、という危機対応に必要不可欠な人まで攻撃してしまい、自分自身が患者になったときに露頭に迷う、というおかしな循環ができる懸念すらありました。危機時、不安なときほど、冷静な判断力が必要となります。

災害に対する情報の感度をあげると同時に、それぞれの立場の方を思いやり、認めあうことが、危機を拡大せずに被害を最小化することにつながるのではないかと考えています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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