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防災インタビューVol.233

こどもをまちづくりの主役に ~「まち保育」と防災~

放送月:2025年1月
公開月:2025年9月

三輪 律江 氏

横浜市立大学 国際教養学部 都市学系 教授
地域貢献センター長

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

「まち保育」という考え

「まち保育」とは、私が提唱している「まちでこどもが育っていく土壌づくりをして、こどもの成長をまちそのもので支援していこう」という方法論で、「まちで育てることはまちが育つこと」という発想です。これに至ったのは、幼稚園、保育園などの園外活動に注目した調査研究がきっかけです。

まちで良くお散歩をされている保育園の方々を見かけると思います。まちに出て「今日はここの花が咲いたね」「ここのお家は入口に可愛いものが置いてあるね」などとまちの遷移変化がランドマークになっていて、変化について会話をしたり、発見をしたりすることで、年齢に関係なく社会性が培われてこども達が成長していきます、しかし、まち側からすると、こどもの成長にまちが使われていることに対して、あまり知られていないということが調査研究の結果で判明しました。

保育士さんや幼稚園の先生は、こどもにとってまちがどんな存在なのかということを良く分かっています。例えば、お散歩の時にこども達にとってのホットスポットになるような「綺麗な花が咲いている」ことや「路地の軒先の小さな変化」などにも敏感です。

しかし、保育園や幼稚園は声がうるさいなどの理由から迷惑施設問題などがあり、こんなにまちを利用してこどもの育ちに寄与しているのに、まち側がそれを認識していないという齟齬が生じることに疑問を持ち、調査研究でも課題として挙げています。

私の方でいくつかの保育園に伴走し、園児のお散歩を通じて地域の方と対話をしながら関係性を深めていくプロジェクトに3年程取り組みました。それが「まち保育」という考え方のベースになっています。

この3、4年の伴走により「まちで育てる、まちで育つ、まちが育てる、まちが育つ」という4つのステージが見えてきました。保育園などが積極的にまちの中で育てるということを実際に行っているので、それらを可視化することによってまち側を巻き込み、結果的にまちそのものも醸成されていくというプロセスがあるのですが、このような発想を提唱するために書籍を作り、保育園だけではなくディベロッパーの方々など、様々な立場の方に同じようなお話をさせていただきながら、こどもの育ちにまちを開こうということを一生懸命伝えています。

「まち保育」の具体例

こども達のお散歩をする範囲はとても狭いです。大人とは違いますので、そんなに遠くまで行くことはありませんし、乳幼児の生活圏は300メートルぐらいの範囲だと思っています。特に、自分で歩きたい年齢になってくると、バギーには乗ってくれないので、ゆっくりゆっくり歩きます。そのゆっくりさが、大人よりもずっと濃く街を見ることになるわけです。

それをヒントに、キッズカメラマンというワークショップをやっています。小学校の時のまち探検の未就学児版のようなイメージで、「気になったものを写真に撮ってきてごらん」とカメラを渡します。実際に、目的地化しないまちの中のお散歩をしながら、こども達が気になったものを写真に撮ってきます。写真に撮ったものを、帰ってきてから保育園の先生が「どこで、誰が、何を見つけたのか」情報を追記して写真とセットでドキュメントにまとめる作業を学生たちと協力しながら行います。そうすると、お迎えに来た保護者の方にこども自身が「これは誰々ちゃんがどこで何を見つけた」ということを説明したり「わたしが撮ったんだよ」と自慢したりします。

そして帰り道にお散歩をしたときに知り合ったおばちゃんと偶然お家の庭先で会って「○○ちゃん、バイバイ」と声を掛けてもらったり、こどもが手を振ったりします。保護者の方はこのような関係性を知らないけれども、こどもから「あのおばちゃんはいつも何々してくれるんだよ」と話をして、保護者の方は「あの方はうちの子に関わってくれているのだな」と知ることができます。

また、お散歩コース上にトトロのぬいぐるみを飾っているお家があり、こども達にも大好きなランドマークになってキッズカメラマンの撮影対象にもなっていました。道路側からはトトロの背中しか見えていませんが、シルエットでトトロのぬいぐるみであるとこども達もわかっていました。

キッズカメラマンとセットで、いつも楽しませてくれてありがとうという意味を込めた「ありがとうカード」を配るというワークショップを行った際に、そのトトロのぬいぐるみを飾っているお家にも届けに行きました。住人の方は、自分のために置いているトトロのぬいぐるみがこども達のホットスポットになっているとは知らなかったのですが、その後お散歩で通った時に、トトロのぬいぐるみの正面が窓の外を向くように置かれていました。

そのお家の住人の方にとってみれば、自分のテリトリー領域である自宅の敷地の中で楽しんでいたものが、相手にとっても楽しいのだと分かったことでぬいぐるみを反対に向けたのですが、これが道路と塀、玄関までの狭い空間がまちに開いた状態になります。これが連鎖していくと、まちの景観やまちの連続性のようなものを生み出すような、特に計画住宅地などが多いのですが、そのようなきっかけをこども達が作ったということになります。それから、保育士さんと住民の方々との接触が増えていくので、保育士の方も安心していきます。ビクビクしながらお散歩していたのが、みんなに声をかけられるようになる。まさに「まちで育てる、まちで育つ、まちが育てる、まちが育つ」とステージが上がっていく様子を実現したエピソードです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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