こどもの主体性の育み
どうしても「まちづくり」においては、こどもに何かしてあげる、こどもに何かしておいてあげた方がいいのではないかというような話題が出ることが多いと思います。中高生でさえもやっと大人側が、まちづくりなどのまちに関わるようなチャンスを与えるようになってきたのですが、未就学児や学童期の前半のこどもは、やはりどうしても「何かをしてあげる」客体的な視点が多いと思います。
まち保育の中でこどもたちが発見したものがまちに変化を与えるとお話ししましたが、まさにこども自身が自分たちのまちを楽しんだり、それを保護者や保育者、外部の人たちが気づいたり楽しんだりすることでまちが変わっていくので、やり方によっては、こどもが主体性を持ってまちに変化を与えていくことができるのだと思います。
小さい子は「こうしたい」「ああしたい」という声を発することは当然できませんが、「ここが楽しい」「ここが綺麗だから写真を撮ってみる」「この公園が好き」ということは声を発することが出来なくても表情などで伝わりますし、彼らの感性の中ではすごく大事なインフラになっています。これはまさに彼らにとって主体性を持ってまちに関わっているアクションの1つです。それらを拾い上げていくと、まさにこども自身がまちとの関わりを持っていくということになると考えています。
どうしても大人は「ああしなさい、こうしなさい、こうするべきだ」と言いたくなってしまうのですが、こどもは自分で獲得して発見していきます。少し話が変わりますが、実は防災教育でも、危険なことを伝え、避難方法についても「こうするといいよ」と上から教えるよりも、自分で理解して学んでいくというプロセスがとても大事だと思います。なので、まち保育のワークショップの中でも防災をテーマにしたワークショップも行っています。
もちろん世の中にはこういうものがあるんだよということを少しは教えます。こどもと一緒に大人も学び、ヒントを与えたりすることによって理解しようと考えるので、1から10まで手取り足取り教えなくても、こどもは必ず理解していきます。そのきっかけ作りに、まち保育のお散歩の時に、「あーだよね、こうだよね」と話しながらお散歩するのは、0歳からはじめてもいいのではないかと思います。
「まち保育」と防災
未就学時からでも、防災のことを日常のお散歩の中で知ることはできると思います。それについて神奈川区役所と保育士さんの研修の一環で行った授業があります。これは、まち保育の視点からの防災共助力を高める共同事業です。
保育園の先生方が保育の研修を受けながら、保育園の周りで考えられるリスクについて理解していただきます。お散歩の範囲は小さくても、保育園の周りの環境によってはすごく傾斜が多いところ、海が近いところなどの事情によってリスクが異なります。それぞれのリスクを先生方もゼロベースから理解していかなければいけないのですが、それと並行して避難訓練だけではなく、日常の保育活動の中で、地域の方々といざという時にSOSが出せる関係になる、あるいは逆に手伝ってあげるという日常の延長線で育んでいくことをお散歩のワークショップを通じ、防災のキーワードで繋がっていくことが必要です。
例えば、防災拠点の方々や、消防団の方々など、毎日の普通のお散歩では接触できませんが、時々防災をキーワードにしたお散歩をすると、そのまちの防災に関わるスポットを巡るコースを選んだり、まちの標識や防災に関係するマークを探してみる、小学校に立ち寄ってみて近隣の防災拠点の方々と偶発的に出会えるようなセッティングしてみるなど、防災を意識したものにすることによって、こども自身が防災訓練だけじゃない、防災への意識みたいなものを育むことができるのではないかと考え、研修を行ってきました。
「てくてくまっち」
研修をしている中で、参加している保育士さんから「こども達が歩き出してからお散歩をするけれど、そうじゃないとなかなか自発的に動き回れない。カードみたいなものを使って園の中でも出来れば0歳児でもわかるのではないか」と発案がありました。保育士さんが私の研究室の学生たちと1年半くらいかけて自発的に制作されたのが「てくてくまっち」というカードゲームです。
「てくてくまっち」はカルタのような文字が一切入っていない絵だけのカードです。どんな物があって、それがどういう風に防災に役立つのか、なんでそれがこのまちに存在しているのかなどが学べるようになっています。実際にこどもたちにも遊んでもらったりしながら開発したのですが、実は先日、イッツコム主催のあおばキッズ防災フェアというイベントで来場者のみなさんに試しに遊んでいただきましたが、すごく面白く遊んでいただきました。絵柄のカードだけで神経衰弱や、説明が書かれた文字のカードと一緒に使用してカルタなど、様々な遊び方が出来るカードなのですが、イベント会場が部屋の中でしたのでそのようなゲーム形式で遊んでいただきました。
保育士さんの要望でカードの隅に穴が開いていて、その穴に紐やリングなどを通すとお散歩に持って出かけられます。「今日はこのカードの絵柄のものを見つけにお散歩に行こう」と目標を立てて、どこにあるかなと探しながらお散歩にいくと、こどもは喜んで参加します。例えば最近は数が少なくなっている公衆電話や、災害時に使用できる自動販売機、実のなる木、イチョウ並木などのカードもあります。実はイチョウ並木は炎症防止になるのですが、保育士さんも知らなかったことを知るきっかけになりますし、こども同士で学び合いながら楽しめる特徴があります。