阪神・淡路大震災が残した宿題 ①事前防災
阪神・淡路大震災が1995年に発生して、まだ復興途上だった2001年に内閣府が発足し、2002年に防災担当が出来ました。これも阪神・淡路大震災を契機にして作られたのですが、私自身、2002年に内閣府防災担当の企画官になりました。その時に、実は阪神・淡路大震災が残した2つの大きな宿題というのがあります。この2つの大きな宿題について、私が2年間内閣府にいた時に決着をつけましたので、お話させていただきます。
1つ目は、事前防災という考え方です。阪神・淡路大震災の最大の教訓は「地震は不意打ちで来る」ということです。当時、「関西に地震は来ない」という何の根拠もない思い込みがあったためまさに不意打ちだったわけです。
歴史上、東海地震というものが定期的に起きるのですが、東海地震は予知ができるということで気象庁が体積歪計という観測装置を使用し、体積歪計を設置した内の3か所で異常があると気象庁が地震予知情報を発表します。それを受けて政府が警戒宣言をします。一定の年齢以上の方は覚えていらっしゃると思うのですが、政府がこの東海地震の警戒宣言を発したらみんなで逃げるというのが地震対策の基本であり、それ以外の地震はいつどこで起きるかわからないから備えてもしょうがないという考えでした。
しかし、これには2つ問題がありまして、東海地震も本当に予知できるかわからない。予知できるかもしれませんが、むしろそうじゃない場合の方が多いのではないかと疑問視されていました。そして、東海地震以外のあちらこちらで地震が起きているのにそれに対して何にも備えをしていないのはおかしいのではないかという点です。
水害や河川の氾濫については、河川管理者がどのくらいの雨でどのような氾濫が発生するのかという事をきちんと推定してハザードマップを作ります。それを基に危ないところは堤防を強化したりダムを作ったり災害の被害を減らすような事前の努力をします。それが防災対策の基本のはずなのですが、なぜか地震についてはいつどこで起きるかわからないからということで十分な備えが出来ていないのはおかしいだろうと思い、私が内閣府に入って、地震についても事前防災という考え方をちゃんとやるべきであると進言しました。
まずは東海地震や首都直下型地震などの、規模が大きく確実に来ることが分かっている地震について被害想定を出し、その被害想定を公表した上でその被害を減らすために事前に対策できることを洗い出します。先にお話した住宅の耐震改修や、ご近所の共助につながるネットワークを強化することなどいろんな対策があるのですが、これをちゃんと事前対策として計画を立てて実行していこうということで、2002年に政府として初めて大規模地震災害に備える事前防災の対策を確立しました。ですから、地震災害について事前防災という考え方が出来てまだ30年経っていません。
事前防災に向けた動き
最初は東海地震の防災対策を作ったのですが、その時の被害想定で「東海地震が起きたら何千人の死者が出ます」と、これを公表していいものかどうかということで政府の中で随分議論がありました。しかし、これは公表するべきだろうと、公表した上でこうすれば被害を減らせますということをきちんとお知らせすれば、国民の皆さんにも必要性が伝わり、住宅の耐震化などそれぞれが対応しないと進まないものについても理解を得ることができます。正しい情報を国民に伝えることが大事なのではないかと、ようやくそのような雰囲気になってきたということだと思います。
最初に東海地震の防災戦略を立てましたがその後、首都直下地震や東海地震、南海地震と当時は静岡沖から四国沖までを3つのブロックに分けて地震を推定していました。今では南海トラフ地震と呼んでいるのですが、静岡沖から宮崎沖までのエリアがまとめて動くという巨大地震が歴史的に起きることがありました。この南海トラフの巨大地震を想定すると、30万人以上の方が亡くなるという大規模な被害が想定されるのですが、この被害を減らすためにどうしたらいいのか。住宅の耐震化だけではなく、津波も想定されますから海沿いで逃げ遅れる人がいないように事前に高台に家屋を移転してもらうなどの対策も現在議論されているところです。
2024年12月20日に石破総理が防災立国推進閣僚会議というものを開催され、その時に石破総理が本気の事前防災を推進するため、防災庁設置に向けた準備を進めるとお話されていて、30年近く前に我々が事前防災の必要性を一生懸命伝えてきことが、ようやく政府の中核的な考えになったということはすごく嬉しいことだと思います。
ただ、予算や人員を増やしたからと言って、例えば南海トラフの巨大地震のように大きな災害が発生した場合、内閣府の体制を100人から200人にしたからといって、とてもじゃありませんが足りません。2011年の東日本大震災の時も政府全体で対応する必要がありました。私は防災庁などの組織を作ることも大事ですけれども、そこにいる職員だけではなく、政府の全職員が防災担当職員だという認識を持ち、普段から防災の知識を蓄えていざという時に役に立たせるべきだと思います。いざという時には、防災と全く関係の無い部署にいる方でも復旧復興担当になる事があります。そういう教育や経験をつけてもらうというのはとても大事だと思っています。
現場を知っているか知っていないか、この違いはとても大きい差です。国土交通省や消防庁などの職員はもちろん現場についてよく知っていますが、そうではない部署にいる人、あるいは国土交通省でも担当ではない人たちなど、災害の現場に行くという経験はみんながみんな持っているわけではありません。ましてや地方公共団体の方々についても、自分の地域で災害が起きるなんて頻繁にあることではないので、大きな災害があったらなるべく多くの職員が現場に行って経験を積むということをやっていただきたいと思います。


