プロフィール
2023年9月に、倉敷市真備町箭田地区で取組んでいるヘルプカードのお話をさせていただきました。障がいや病気などのあるなしにかかわらず、住民みんなで自分の避難情報をまとめておこうという取組みですが、もともとこのような取組みを始めたのは、重度の知的障がいがある次男がきっかけです。彼も今年で29歳になりました。そのご縁で、現在も大阪府の特別支援学校の防災に関わることができています。今は、大阪府教育庁の学校防災アドバイザーの特別支援学校担当として、毎年5校から6校の防災計画の改定や、教職員向けの訓練指導などを行っています。
また、特別支援学校だけではなく、福祉防災コミュニティ協会の理事兼福祉防災上級コーチとして、高齢者や障がい者向けの福祉施設の事業継続計画(BCP)の策定のお手伝いや、訓練指導なども行っています。
特別支援学校は、様々な障がいのある子どもたちがたくさん集まっているところですが、 この特別支援学校が防災に強くなることで、地域全体が強くなるのではないかと考え取り組んでいるところです。5年の時間をかけて、この度やっとその取組みを博士論文としてまとめることができました。たくさんの皆さまのお力を頂いたおかげです。今回は、その中から、特別支援学校は災害に弱いだけでなく、実は強みもあるんだということをお話ししたいと思います。
特別支援学校だからこそできること
特別支援学校は全国で約1150校あります。もともと、聴覚支援、視覚支援、肢体不自由、知的障がいなど、障がい種別に応じて学校がつくられていましたが、現在は総合支援学校として、全ての障がい種別に対応した教育を行う学校もあります。幼稚部がある学校もありますが、多くは7歳から18歳までの学齢期の教育を担います。一般の学校と同様に、国語や算数などの教科がありますが、その児童生徒の障がい特性に応じた教育方法がとられています。それを特別支援教育といいます。そのための特別な免許を持った教員が指導に当たります。
特別支援教育とは、障がいのある児童生徒の自立や社会参加に向けて、自ら主体的に関わろうとするときに、何に困るから、何を学べばよいか、ひとり一人に応じた適切な指導及び必要な支援を行うものです。つまり、すべてはひとり一人の社会的なつながりをよりよく持てるための考え方や生活上のスキルを身に着ける、それも子どもだけではなく保護者も一緒に学んでいく教育だと思います。もちろん、卒業後も続いていて、まさに生涯学習です。
特別支援学校に入学する要件としては障害者手帳を持っていることで、在籍児童生徒はすべて生活上で何らかの支援が必要な子どもたちです。では、特別支援学校が防災に取り組むということはどのようなことなのかをご説明したいと思います。
ひとり一人の異なる困り事
私の息子は小さい頃から言葉が話せませんでした。程度的には非常に重い知的障がいで、知的のレベルや社会性のレベルでは1歳児ぐらいです。例えば、右手に1つ左手に2つのものを持つということができません。右手に1つ持って、左手には1つしか持てないという非常に困った困り事があります。具体的には、棒付きの飴を食べながら、カバンを持って傘を差すということができません。また、走る時の右足と左足を交互に出して走るという動作も難しい状態です。
知的障がいと言っても非常に幅が広く、私の息子のように上手に歩いたり走ったりすることができない重い程度の人から、普通に計算はできるけど国語の能力が非常に低く、全体的に言うと知的レベルが落ちてしまうという方も中にはおられます。また、発達障がいと言われている人たちの中には、勉強はできるけど人付き合いが苦手でどうしても人とお話ができにくいという方もおられます。特別支援教育の中では、例えば国語の文章を読むときに、上手に上から下に読めない人たちがいるので、例えば定規をさしてあげて、今読んでいる場所を示すような手助けをしていきます。
では、その特別支援教育と防災というのはどういうことを掛け合わせるとできるのかなというと、大きな災害が起きた時に必ずしも保護者や先生たちがそばにいてくれるというわけにはいかないので、少なくとも自分で「助けて」と言えるようにしておきたいというのが私たち親の思いでもあります。私の息子のように言葉で「助けて」と言えない子はどうするのかというと、自分が持っているヘルプカードをぱっと掲げて「助けて欲しい」ということを表す動作ができるように一生懸命教え込んでいます。ひとり一人の困り事が異なり、項目が決まっているような一律な様式では書ききれないことがあるため、特別支援学校のヘルプカードは、その子に応じた困り事の対処法などを書き込めるようになっています。