特別支援学校に内在する減災の仕組み①
前項で、過去の災害では特別支援学校も被災したり、十分に準備をしていない中で地域の避難所となったり、また、障がいのある子どもたちが地震で犠牲になってしまったことをお話ししました。では、特別支援学校は災害に対して全く無力のままなのか。そうではないはず、ということで、その強みについて調べてみることにしました。まずは、障がいのある児童生徒についてです。
日本では、障がいのある子どもが生まれると、学齢期までは療育計画、学校では個別の教育支援計画、卒業後は個別の支援計画、そして、介護保険に移行してからはケアプランといったように、生まれてからその生涯において、生活を何らかの「計画」で規定されています。学校に所属している期間には、個別の教育支援計画をつくります。
これは3年の期間で教育目標を設定する計画です。例えば、特別支援学校の高等部に入学したお子さんがいます。彼には3年後の卒業の時までには、簡単な漢字を書けるようになっていてほしい、という風に、日頃の様子をよく知る保護者が計画の素案をつくります。
その素案をもとに、担任の先生と本人と保護者の三者面談で何を勉強するか、具体的にどんな目標を立てて、どんな方法で勉強や訓練を行うのかということを、全ての教科で確認をします。担任の先生はこれらの情報をもとに、一年間の各教科の個別の指導計画案をつくります。個別の教育支援計画には、障がい特性についての項目もあります。例えば、知的障がいが重いとか、文字は読めないけれど挨拶はできるとか、発語はないけれども文字は読める、手話ができるなどの情報と同時に、薬が必要なのか、医療的ケアにどういうことが必要なのか、どのようなことが苦手で好きなことは何なのか、得意なことは何なのか、個人の特性情報も加味し、学校と家庭で実践をして、年度末に3者で評価をし、積み残しは次年度に取組むという、計画、実行、確認、改善というサイクルで運用されています。
特別支援学校に内在する減災の仕組み②
この個別の教育支援計画を防災に活用している学校が出てきました。大阪のある肢体不自由教育校では、この個別の教育支援計画に防災情報を載せて、学校と家庭で管理しています。この事例についてお話しいたします。
この学校は、一級河川のすぐそばにある2階建ての学校で、水害ハザードマップ上の氾濫流域にもあたっています。そこで、避難確保計画という学校から安全な2次避難先に移動する計画を丁寧に作りました。教員を合わせ300人ほどが一度に避難するのも難しいので、通学バスルートごとに、4つの避難先を確保しました。これを拠点地避難と呼んでいます。しかし、通学域も広域で、保護者のお迎えがすぐにあるとは限りません。つまり、先生方と子どもたちだけで数日間を過ごすことを想定しました。
まずは、薬の準備です。医療的ケアの必要な児童生徒もいることから、個別の教育支援計画の中の情報をもとに、薬の情報シートをまとめました。災害時に対応するものなので、より詳細な情報、つまり、日中だけでなく夜間の薬やケアの方法などもまとめてあります。薬の情報は非常にデリケートで、体調に合わせ、処方が変わるたびに書き換えを行いますが、少なくとも学期ごとに見直しが必要になります。
また、二次避難が行われた後に、お迎えに来る保護者の情報も個別の教育支援計画の中でまとめることにしました。まずは、保護者の自宅のハザードと避難先を確認するために、ハザードマップのコピーを配布し、自宅と3か所の避難先を地図上に示してもらうことにしました。これらの情報は担任の先生との三者面談で確認されます。「あれ、お母さん、避難先は一般の小学校の体育館だけど、上手に過ごせるかな? 少し遠いけど、日ごろ通っている事業所が福祉避難所になっているので、この方が良いのでは?」など先生と一緒に相談して避難先を決めていきます。そのためには、先生にはハザードマップを読み解く力も必要になりますし、保護者も自宅や避難先の確認を行うことができます。
二次避難先に迎えに来た保護者には、避難先を確認したうえでお子さんを引き継ぐことにしています。大規模な水害や南海トラフ地震など大地震では、基本的には自宅には返さず、各種の警報が解除されるまで一緒に安全な避難先で過ごすことも検討しています。
このように、特別支援学校の既存の仕組みである個別の教育支援計画の中で防災情報の確認をすると、先生方の防災力を上げることにもつながり、家庭と上手に防災対策の確認をすることができます。昨年から、拠点地避難の図上訓練も始まりました。特別支援学校の中に既に防災力を上げるための仕組みがある、減災力があるということだと考えています。