みんなで助かるために
4回にわたって特別支援学校の取組みと個別避難計画についてお話してきました。これらが5年かかってやっとまとめることができた博士論文の中身になります。最後の今日は少しだけ個人的なことや思いをお話ししたいと思います。
私は、特別支援学校の研究を通して、障がいのある子どもと過ごす親の立場に感謝できるようになりました。自分の子どもの障がいを理解し、受け入れることは凄まじい経験でした。まず、何となく想像していた理想の子どもがいなくなる、喪のプロセスを通ります。そして、子どもの障がいは自分のせいだと、いや、他の誰かのせいだと、悲しみと怒りに満ちた時間が続きました。しかし、人は誰しも心の強い時、弱い時を繰り返します。心の強い時には、どんなにハチャメチャでも愛しく美しいわが子だと思い、心が弱ると嘆き悲しみますが、時間が経つにつれて段々と、本当に少しずつですけれども現実を受け入れていけるようになります。更に、この一連の経験を通じて社会活動に進んでいく仲間も多くいることが分かりました。特別支援学校のPTAは一般校と比べ、とても熱心に子どもの教育環境について先生方と一緒に取組んでいる学校が多くあるように感じます。
これらの経験から、障がい名や程度ではなく、相手が何に困っているのかを考えることができるようになります。個別性を大切にするということです。障がいのある我が子がいるおかげで、たくさんの方の優しさに触れ、お手伝いを受けることができています。そうすると、人にも同じことを返そうと、福祉防災を目指す仲間も増えてきました。
さいごに
この記事をご覧になっている皆さまの中にも、障がいや病気があったり、家族が認知症になったり、中途障がいになったり、思い描いていた日常とは違う生活を送っておられる方も多くあると思います。中には、南海トラフ地震や首都直下地震が起きても、もう逃げられないと考えておられる方があるかもしれません。
でも、決して諦めることはありません。取組みは始まったばかりですが、個別避難計画はみんなで助かるための、地域全体で考え、地域全体で助かるための計画です。まずは、自分自身や家族が要支援者名簿に掲載されているか確認をして、ひとりで防災に取組むのではなく、いつもそばにいてくれるヘルパーさんや特別支援学校の先生に防災についても相談してみていただきたいと思います。皆さんの問いかけが、ヘルパーさんや先生の防災力を上げることにもつながります。
みんなで一緒に助かるために、特別な対策ではなく、もうすでに身近にあるものを使って、防災をなるべく特別なことにしないことが大切だと思っています。障がいはその個人ではなく、周りの社会の問題です。災害による影響は障がいのあるなしにかかわらず、等しくみんなに降りかかるのですから、誰かが優先されることもなく、誰かが虐げられることもなく、みんなで少しずつ、我慢と対話を重ねて、誰もがよりよく生きる関係性を創りあげる、地域共生社会の実現に向けて、特別支援学校の防災減災の研究が少しでも役に立ってくれたらとても嬉しいなと思います。