防災と災害
防災という言葉ですが、これは1961年に制定された災害対策基本法という法律の中で「災害」と「防災」についての定義がなされています。この法律は、1959年に発生した伊勢湾台風で5,000人程度の死者が出るという大変大きな被害を受け、それを契機に制定されました。防災基本計画あるいは地域防災計画、防災中央会議や地方・地域の防災会議などを設定し災害に対して対策を立てなければいけないということなど、本格的な形で防災に関する法律ができたのはこれが原点だと思っております。
ちなみに、建築基準法というのは、1950年、戦後5年後にできたものを何度も改正されて現在に至っています。防災というのは、台風や地震などの自然災害がありますが、基本的には復旧、あるいは復興に至るまでの色々な事柄が記載されているということで、まずはそれが基本であるということ。それから、2023年はちょうど関東大震災から100年ということで、2024年1月に発生した能登半島地震も含めて、過去から学ばなければいけないということを感じているところです。
普段から「防災」と「災害」という言葉そのものを使っていますが、法律的な原点は古い時代のものがベースになっているということを知っておいていただきたいと思い、お話しました。
今では、災害の姿もだんだん変化し、都市型災害あるいは複合的な災害も増えてきています。私自身も大学にいる頃、南極での風と雪の研究をしていて、例えば雪国で雪が降っている時期に地震が来た時にどのように避難したら良いかなどの研究をしていましたが、今は津波が来たり、土砂崩れがあったり、液状化があったり、皆さんもご存知のように本当に多様な災害が同時多発的に発生する時代になってきました。建物などは自然災害以外にも、人為的な災害が非常に増えているということで、災害に対する防災は自然災害のみならず、特に人為的な災害というのは管理の問題だと言われることが多くなってきているかと思います。
マンション管理の現状と課題
マンションというのは、一般の戸建て住宅と比べると安全だとよく言われているかと思いますが、マンションには既存不適格建物という以前の法律には適合していたけれども、新しく改正された法律には適合していないという建物が非常に多くあります。
1981年以前の建物は耐震安全上、既存不適格建物になりますが、千代田区のマンション防災協会での調査でも現存するマンション全体の中でも既存不適格のものがかなりのパーセンテージを占めているということが分かっております。法律には適合していませんが存在が許されているので、現在も多くの建物が建ったままになっているのです。お金もかかりますし時間もかかってしまうため、なかなか対策が進んでいないというのが現状です。
公共の建物については、耐震診断をして耐震補強などを行い少しずつカバー出来ているのですが、耐震性を上げなければハード的に建物の安全が担保できないというのが現状だと思います。
マンション防災協会では、マンションを災害時などに避難場所として逃げ込むことができる安全な建物にしたいと思い活動をしています。既存の建物でも、新築の場合は新しい法律に則って作られているので比較的良いのですが、新しい法律に合わせて作ったものでも災害発生時にはかなり壊れているというようなことが言われています。
阪神・淡路大震災の発生について学会で調査を行った時も、震度7の揺れを観測した地域では、全壊した住宅が多いという結果も出ていますので、まず耐震性を高めるというのが1つです。
そして最後に、マンションも人間も高齢化が進んでいます。マンションも高経年と言われる、非常に高齢化したマンションが増えてきていて劣化も始まっています。また、住んでいる居住者も高齢化しているということもあり、管理組合の運営の問題もありますし、それから建て替えの問題、修繕の問題等々、合意形成も当然取るのも大変です。居住者あるいは建物の高齢化、それから管理の人手不足あるいは高齢化というようなことも課題として言われてきています。建物の安全を担保するには、このような課題に対しても取り組んでいかなければいけないだろうという風に思っております。