生成AIガイドラインの目的・必要性は?策定方法や事例を徹底解説
目次
生成AIを業務に取り入れる企業が増える一方で、「どこまで許容すべきか」「情報漏えいのリスクはないか」といった不安から、明確なルール作りに踏み切れないケースも少なくありません。
そこで本記事では、企業が安全かつ効果的にAI活用を進めるために欠かせない「生成AIガイドライン」の考え方と基本構成、策定時に押さえておくべきポイントを解説します。省庁・自治体・法人による生成AIガイドラインも参考に、自社の業務実態に合ったルールを策定し、実効性の高い生成AI活用基盤を構築しましょう。
生成AIガイドラインとは?策定の目的と必要性

生成AIガイドラインとは、ChatGPTなどの生成AIを安全・公正かつ効果的に活用するための基本方針を示した文書です。国・自治体・企業などが作成し、利用者がトラブルやリスクを避けて生成AIを使えるように定めます。
生成AIガイドラインの目的は、次のような課題に対応することです。
- 情報の正確性の確保:生成AIの出力には誤り(いわゆる「ハルシネーション」)が含まれることがあるため、人の確認・検証を前提とするルールを設ける
- 著作権・知的財産の保護:生成物が他者の著作物や商標を侵害しないよう注意を促す
- 個人情報・機密情報の管理:入力データに個人情報や社外秘データを含めないよう明示する
- 倫理・法令順守:差別的・攻撃的・虚偽的な内容を生成・拡散しないよう定める
- 業務利用のルール化:利用範囲、承認プロセス、責任の所在などを明確にする
このように生成AIガイドラインは、法令・倫理・情報セキュリティの観点から、組織や個人を守りつつAI活用を促進する上で重要な位置付けとなるものです。
企業が生成AIガイドラインを策定・運用するための6ステップ

生成AIガイドラインを策定・運用するには、事前準備として現状把握と目的の明確化、部門横断的な運用体制の構築が必要です。生成AI特有のリスクを整理して草案を作成したら、承認フローを経て最終稿を周知します。運用を開始したら定期的な見直しも必要です。
ここでは策定・運用の流れを6ステップで詳しく解説します。
STEP1:現状把握と目的の明確化
まず、「なぜ生成AIガイドラインを策定するのか」を明確にしましょう。現場での生成AI利用状況や課題を把握し、目的を整理します。主な作業内容は以下の通りです。
- 従業員の生成AI利用実態を把握:ヒアリングやアンケートなどを通じ、ChatGPT・Copilot・Midjourney・Claudeなど、どの生成AIをどのような業務に使用しているかを確認
- 想定されるリスクを洗い出す:情報漏えい、誤情報拡散、著作権侵害など
- ガイドライン策定の目的を定義:「安心してAIを活用できる環境を整える」など、組織として必要なルールブックの指針を明確化
STEP2:体制の確立と担当部門の決定
生成AIガイドラインは、法務文書として形式的に整っているだけでなく、実際に活用できるルールであることが重要です。以下のような部門が協力し、役割分担ができる横断的なチームを立ち上げましょう。
- 情報システム部門:技術的観点(セキュリティ・アクセス制御など
- 法務部門:法令・著作権・契約上のリスク管理
- 人事・総務部門:従業員教育・ルールの周知
- 広報・マーケティング部門:生成物の対外発信管理
- 経営企画部門:全社方針との整合性や承認フローの設定
STEP3:リスク分析と基本方針の策定
生成AI特有のリスクを整理し、それに対応する原則を定めます。主なリスクと対応の考え方は以下の通りです。
- シャドーAI:企業が公式に承認・管理していない生成AIサービスの利用禁止
- 機密情報の入力:個人情報や社外秘の情報は入力禁止
- 誤情報の生成:重要な判断はAI出力を鵜呑みにせず人が確認する
- 著作権侵害:商用利用時は生成物の出典や利用条件を確認
- 品質・倫理問題:差別的・攻撃的内容は生成・共有しない
これらのリスクを整理した上で、「利用の原則(正確性・透明性・責任)」などの基本理念を設定します。
STEP4:ガイドライン文書の設計・草案作成
実際のガイドライン文書を作成します。ゼロから作成すると抜け漏れが生じやすいため、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)などが公開するひな形を参考にするのがおすすめです。許可・禁止事項といった重要項目を明文化し、従業員が理解しやすく実践しやすい構成に整えましょう。構成例は以下の通りです。
| 章タイトル例 | 記載すべき内容例 |
|---|---|
| 1.目的・適用範囲 | 策定の背景・目的、対象範囲や使用可能な生成AIサービス |
| 2.利用に当たっての基本方針・原則 | 正確性・透明性・責任や倫理・法令順守などについての原則 |
| 3.利用禁止事項・注意事項 | 個人情報・社外秘データの入力禁止、虚偽情報・誤解を招く表現・著作権侵害の恐れがある内容の出力禁止、法令違反・誹謗中傷・宗教・政治的主張に利用しないなど |
| 4.入力データに関するルール | 入力禁止データの具体例、機密情報の取り扱い方、ベンダーへのデータ送信リスクの理解など |
| 5.出力結果(生成物)の扱いと確認手順 | 出力結果は必ず人間が内容確認・修正を行う、生成物の誤り・偏り・虚偽情報の確認方法、商用利用の際の注意(著作権・商標・肖像権)など |
| 6.業務活用ルール・承認プロセス | 機密度に応じた生成AIの利用可否、対外的発信・顧客対応時の承認フロー、管理者・責任者の設置など |
| 7.教育・啓発・相談体制 | 研修・eラーニングの実施、よくある誤用例・トラブル事例の共有、問い合わせ窓口・相談フローなど |
| 8.法令・規範との整合性 | 個人情報保護法や著作権法など関連法規と企業倫理の明示 |
STEP5:社内レビュー・承認と従業員への周知・教育
ガイドラインの草案ができたら、関係部門や経営層によるレビューを経て最終稿を仕上げます。法務・情報システム・人事など各部門の確認を受け、経営会議やリスク管理会議で承認を得ましょう。
各部門や経営層からの意見や懸念点を反映してガイドラインを完成させた後は、全従業員への周知と教育を行います。単なる告知にとどめず、eラーニングや説明会、社内ポータルでの配布などを通じて理解と定着を図ることが重要です。生成AI活用に関する相談窓口も設け、全員が組織のビジョンを共有しやすい環境を整えましょう。
STEP6:運用・定期的な見直し
生成AIガイドラインの運用を開始した後は、定期的に内容を見直すことが欠かせません。生成AI技術は進歩が速く、関連法規も時代に応じて変化する可能性があります。より安全で効率的な生成AI活用を目指す組織にとって、最新のAI環境に合わないガイドラインは足かせとなり得ます。
AI技術の動向や関連法規の改正、政府機関が公開するガイドラインの更新などに注意を払い、常に組織にとって最適な内容へとアップデートしていきましょう。
省庁・自治体・法人による生成AIガイドライン策定の事例

生成AIガイドラインは政府機関(省庁)・自治体・法人が自組織向けに策定しており、Web上で公開されているものもあります。自社のガイドライン策定・運用に役立つ内容も豊富です。
ここでは、生成AIガイドラインの例を、策定主体・タイトル・対象者・内容を整理して紹介します。
政府機関(省庁)による生成AIガイドライン例
経済産業省やデジタル庁などの政府機関(省庁)は、公的機関や一般事業者向けに、次のような生成AIガイドラインを策定・公開しています。
| 策定主体 | タイトル | 対象者 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 経済産業省と総務省 | AI事業者ガイドライン | AI活用(AI開発・提供・利用)に取り組む全ての事業者 (政府・自治体などの公的機関を含む) | 「人間中心のAI社会原則」に基づき、総務省主導で策定・公表されてきた「AI開発ガイドライン」「AI利活用ガイドライン」「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」を統合・見直し、諸外国の動向や新技術の台頭も踏まえて策定したガイドライン |
| デジタル庁 | 行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン | 政府職員など | 生成AIの利活用推進とリスク管理を一体的に進めるため、「AI事業者ガイドライン」「政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群」など既存ガイドラインや諸外国政府のルール動向を踏まえ、政府におけるAIガバナンスおよび各府省庁での調達・利活用時のルールを定めたガイドライン |
| 文部科学省 初等中等教育局 | 初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン | 主に教職員や教育委員会などの学校教育関係者 | 学校現場における生成AIの適切な利活用を実現するため、利活用時の基本的な考え方や押さえるべきポイントをまとめたガイドライン |
| 文化庁著作権課 | AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス (「第1部 AI開発・提供・利用のチェックリスト」と「第2部 権利者のためのガイダンス」の2部構成) | ・第1部:主にAIシステム・サービスの開発・提供・利用者 ・第2部:主に著作権者 | ・第1部:AIの開発・提供・利用に伴うリスク低減に役立つ方策 ・第2部:生成AIに自らの著作物がどのように利用されるか、侵害への対抗措置、権利保護や対価還元の確保 |
(参考: 『「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめました|経済産業省』)
(参考: 『「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を策定しました|デジタル庁』)
(参考: 『生成AIの利用について|文部科学省』)
(参考: 『AIと著作権について|文化庁』)
自治体による生成AIガイドライン例
自治体は、次のような生成AIガイドラインを策定・公開しています。安全性と信頼性を重視する行政サービスの提供を前提とした内容であり、目的設定やリスク管理の考え方は参考になります。
| 策定主体 | タイトル | 対象者 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 東京都 デジタルサービス局 | 文章生成AI利活用ガイドライン | 全ての東京都職員 | 文章生成AI(ChatGPT)を都庁全局で正しく活用し、行政サービスの質を高め、都政のQOS(Quality of Service)向上につなげるためのガイドライン。併せて「都職員のアイデアが詰まった文章生成AI活用事例集」も作成・公表 |
| 大阪市 デジタル統括室 | 大阪市生成AI利用ガイドライン | 大阪市の情報システム整備・運用やDX推進に関わる部局など | 生成AIを活用して業務の効率化と質の向上を実現するため、Azure OpenAI Serviceで構築したAIアシスタント「Oasis」の利用ルールや活用事例を解説・紹介するもの |
| 愛知県と名古屋 (県と 政令市で共通化) | 生成AIの利用に関するガイドライン | 知事部局・地方公営企業・各種行政委員(会)・教育委員会・議会事務局 | 生成AIの危険性を回避し、持続可能な形で行政サービスを提供するため、生成AIの活用方策と利用条件、有効なプロンプト例などを解説・紹介するもの |
(参考: 『文章生成AI利活用ガイドライン・活用事例集|東京都 デジタルサービス局』)
(参考: 『大阪市生成AI利用ガイドライン|大阪市』)
(参考: 『生成AIの利用に関するガイドライン|愛知県』)
法人による生成AIガイドライン例
業界団体や生成AIサービスのベンダー、ユーザー企業など、さまざまな法人も生成AIガイドラインを策定・公開しています。JDLAによるひな形など、自社ガイドラインに適用できる内容も多いでしょう。
| 策定主体 | タイトル | 対象者 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 一般社団法人 日本ディープラーニング協会 (JDLA) | 生成AI開発契約ガイドライン | 生成AI開発契約の委託者(ユーザー)と受託者(ベンダー) | 従来型AIの開発と既存生成AIのカスタマイズとしての開発の違い、その違いを契約にどのように落とし込む必要があるか。開発契約のひな形(「資料編」) |
| 生成AIの利用ガイドライン | 生成AIの導入を考えている組織 | 生成AIの活用を考える組織がスムーズに導入するための、利用ガイドラインのひな形 | |
| 一般社団法人 金融データ活用推進協会 (FDUA) 生成AIワーキンググループ (生成AIWG) | 金融生成AIガイドライン | FDUA会員企業や関係省庁など | 金融業界における生成AIのイノベーティブかつ健全な活用促進を目的とし、生成AI活用時に生じるリスクの種類やレベルおよび対策の具体化と共有を目指すガイドライン |
| アドビ株式会社 | Adobe生成AIユーザーガイドライン | Adobe製品ユーザー | Adobeのサービス・ソフトウェアにおいて生成AI機能を利用する場合に適用される、許可・禁止される使用方法などの留意事項を定めたガイドライン |
| 富士通グループ | Fujitsu 生成AI利活用ガイドライン | 富士通グループ従業員および全てのステークホルダー | 技術部門・事業部門など実際に生成AIを利活用する人々の意見を取り入れ、特に倫理的または法的観点から、生成AIの持つ一般的なリスクと対策例を解説したガイドライン |
(参考: 『資料室|一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)』)
(参考: 『[PRTIMES]生成AIWG「金融生成AIガイドライン(第1.1版)」および「FDUA生成AI活用アシスタント」リリースのお知らせ|一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)』)
(参考: 『Adobe生成AIユーザーガイドライン|アドビ株式会社』)
(参考: 『「生成AI利活用ガイドライン」を一般公開|富士通株式会社』)
イッツコムのAI活用コラムでガイドライン策定のヒントを

生成AIのビジネス活用が急速に広がる中、「社内でどのように使うべきか」「リスクをどう管理するか」といった指針作りが求められています。
イッツコムでは、AI導入を検討する企業に向け、実務に即した視点でAI・生成AIの最新動向や導入ノウハウを発信しています。
以下の3記事は、生成AIガイドライン策定の参考資料としても活用しやすい内容です。
生成AIの基本概要と実務で役立つ活用法を知りたい方へ
「生成AIとは何か」「従来のAIと何が違うのか」といった基本的な理解が社内で共有されていない場合、議論がかみ合わず、ガイドラインを作成しても実務に結び付きにくくなります。
以下の記事では、生成AIの仕組みや従来型AIとの違いを分かりやすく整理し、テキスト・画像・音声などの生成分野を実例とともに解説しています。策定担当者の基礎資料としてはもちろん、「目的・適用範囲」「基本原則」を検討する際の社内教育や啓発資料にも活用できます。
【関連記事:生成AIとは?簡単に理解できる基本概要と実務で役立つ活用方法】
生成AIの活用事例から課題解決のヒントを知りたい方へ
生成AIの必要性を感じていても、「どの業務で生かせるか」「どの程度の効果が期待できるか」がイメージしにくいことがあります。現場ごとに導入目的が異なるため、ガイドラインの適用範囲を決めにくいケースもあるでしょう。
以下の記事では、国内企業の事例をもとに生成AIによる業務改善の取り組みを紹介しています。文章作成・画像生成・顧客対応など幅広い活用パターンに加え、導入時の注意点や通信環境の重要性も解説しています。「どの業務で生成AIを使うか」を検討する段階や、「業務活用ルール」「承認プロセス」を策定する際に役立つ内容です。
【関連記事:生成AIの活用事例7選!生産性向上などビジネス課題解決のヒント】
AI導入のパターンや流れ、失敗を避けるためのポイントを知りたい方へ
生成AIを導入した後、「誰が管理するのか」「成果をどう評価するのか」「運用をどう継続するのか」といった点が曖昧になり、ガイドラインを作っても運用や見直しが追いつかず形骸化するケースもあります。
以下の記事では、AI導入の進め方を3つのパターンに分けて解説し、導入時に起こりやすい課題と回避策を紹介しています。単なるツールの導入にとどまらず、「組織としての運用体制構築」まで踏み込んだ視点が得られるため、ガイドライン策定後の「運用・見直し体制」や「承認・教育プロセス」を設計する際の参考になります。
【関連記事:AI導入のパターンや流れを徹底解説!失敗を避けるためのポイントも】
まとめ

生成AIガイドラインの整備は、単なる利用ルールの作成にとどまらず、企業が安心してAI活用を拡大していくための基盤づくりに直結します。情報漏えい防止や品質管理、著作権トラブルの回避など、想定されるリスクを最小限に抑えつつ社内で安全に運用するための基準を明確にすることで、担当者の迷いを減らし、社内展開のスピードと精度を高めることができます。自社の業務実態に合わせてガイドラインを継続的に見直し、実効性の高いAI活用体制を築き上げていく姿勢が求められます。
イッツコムでは、AI活用に役立つコラムを複数配信しています。「生成AIについてさらに詳しく知りたい」「生成AIのビジネス活用についてさらに知りたい」といった企業様は、ぜひイッツコムの他記事も参照してみてください。
イッツコムでは、AI活用に役立つコラム記事に加え、活用基盤となる高品質な通信サービスやAI搭載型クラウドサービスも提供しています。「自社にどのようなガイドラインが適しているか知りたい」「導入や運用に不安がある」といった企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。貴社の状況に応じて、最適な進め方をご提案します。
