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防災インタビューVol.6

防災力のある街づくりのために

放送月:2004年7月
公開月:2007年1月

中林 一樹 氏

東京都立大学 教授

「安全な街」づくり

私は大学で勉強したのは「建築」なのですが、現在は「防災」をキーワードに、街づくりや都市づくりが研究のテーマになっています。私が防災を始めたきっかけというのは、昭和51(1976)年10月末に山形県酒田市で起きた火災です。この火災によって、一晩で25ヘクタールほどもの中心市街地が焼け落ちてしまいました。それまではどんなに快適な街をつくるか、あるいは美しい街をつくるかということを考えていたのですが、一晩で街が消えてしまいました。火事の翌日の夜に現場に入ったものですから非常に大きな衝撃を受け、やはり都市づくりの基本には「安全」ということがなくてはいけない、そういうふうに考えたのがきっかけです。ですから、もう30年間ですが、安全というものをキーワードに街づくりを考えてきました。

都市を襲う地震災害

いろいろな災害が都市を襲いますが、私が一番興味を持ってテーマにしてきたのは、やはり都市の地震災害というものです。

地震災害

南関東あるいは関東地方は最も地震がよく起きる地域です。しかしこの80年間、実は地震は起きていないのです。関東大震災が神奈川県や東京に大きな被害を及ぼしたのも、もう83年前、1923年です。その地震から80年たっていますので、そろそろ東京あるいは神奈川で地震が起きるのではないかと言われだしました。ところが10年前になりますが、心配されていた東京で地震が起きないで、阪神で大地震が起きました。阪神淡路大震災です。神戸市を中心に都市の真下で大きな地震(マグニチュード7.3)が発生したので、たくさんの家が壊れて、直後で約5500人ぐらいが亡くなりました。この地震では揺れによって建物が壊れて、それによって人が死ぬということが、非常に大きな課題として取り上げられました。

しかし83年前の関東大震災(マグニチュード7.9)は、横浜でも東京でも揺れによって家も壊れたのですが、強い風が吹いている気象条件の下で火災が発生し、家が燃えて6万人以上の人が命を落とすということになりました。この違いは何なのでしょうか。

同じ地震なのに、火災が起きたり起きなかったりしますが、これはどういう季節に、どういう時間帯で、どのような気象条件の下で地震が発生するかによって、被害の出方が大きく変わってしまうということです。地震に備えるには次の地震がいつ起きるのかということが分かるといいのですが、実際はいつ起きるか分からない。ですから、阪神大震災だけが地震ではなくて、いろいろなケースを考えて、いろいろな側面から都市をどうやって安全にしていったらいいを考えておかないといけないわけで、それが私のテーマです。

地震と火災

日本の建物は木造が多く、今でも都市の大部分の建物は実は木造です。地震による家の壊れ方は2つあって、1つは揺れによって壊れる。もう1つは火災が発生して燃えてしまう。この2つが建物の被害です。

揺れによって壊れるというのは、時間による差とか、季節による差はありません。つまり、昼と夜で建物の構造が変わるわけではないですから、構造がしっかりしているものは、朝でも夜でも冬でも夏でも強いわけです。しかし火災というのは、火の元になるものがあります。これは実は時間とか季節によって違います。冬ですと、どうしても暖房を使いますから、火をよく使います。朝と夕方で比べると、夕方というのは家でも食事の準備をしたり、街の中ではレストランとかお店がみんな火を使って料理を作る準備をする。そういうことを考えますと、冬の夕方というのは最も火災が発生しやすい時間帯ということになります。従って、阪神大震災はどういう時間帯に起きたかというと、同じ冬なのですが、早朝5時46分でした。1月の朝の5時46分というと、私の家もそうですが、たぶん大部分のサラリーマンの家ではまだ寝ていると思います。つまり、まだ火が使われていない。ところがこれが12時間遅くて夕方の5時46分、夕方の6時ごろに地震が起きると、それぞれの家で火を使って料理の準備をしたり、お店も準備をしていますから、もっともっと火災がたくさん発生して、もっと大惨事になった可能性があります。

阪神大震災の後、建物を揺れに強くする(耐震性を高める)ということが、非常に大きな課題になりました。それは地震対策の基本です。家が揺れで壊れると火災が発生しやすいのも事実です。しかし、もう1つ、出た火が燃え広がるか燃え広がらないかということは、建物が燃えにくいか、燃えやすいかということです。揺れによって建物が壊れないような街づくりをすると同時に、火災が出ても大きく燃え広がらないような街づくりが、実は地震に強い街づくりとしては重要になのです。

燃えにくい建物を造るためには、全部の木造建物を鉄筋コンクリートに建て替えてしまえば、それでもいいのですが、日本の文化とか日本の気候風土からいくと、やはり木造の家というのは住みやすいです。ですので、木造でなおかつ燃えにくくする、あるいは火が出てもすぐ消せるようにする。それは人の力になるのです。例えば日常で考えても、火が出てすぐ火を消すこと(初期消火)ができれば、大きな火事にはなりません。消防車が来て火を消してくれればもっと良いのですが、同時に消防車の台数以上に沢山の火災が発生する可能性があります。さらに阪神大震災で大きな被害を受けた地域というのは狭い道路しかなく、日常でも消防車がすぐには近づけない、そういう密集した市街地でした。そうした脆弱な市街地が日本には25,000ヘクタール以上もありますから、建物を耐震化すると同時に街全体を少しずつ造り替えて(修復して)安全にしていく。そしてそれがまた日常の生活の快適さにもつながっていく、そんな街づくりをいろいろな地域で展開していきたいと思っています。

もし東京に大地震が起きたとしたら

いつ地震が発生するか分からないのですが、関東大震災から80年以上を過ぎて、そろそろ被害が出るような大きな地震が東京に起きても不思議ではないと言われています。その中でも、最も起きるのではないかと言われているのが、実は「直下の地震」とか「直下型地震」と呼ばれるもので、関東大震災よりは少し地震は小さいM7クラスの地震なのですが、都市の真下で起きる地震です。従って地震は小さいけれども、被害は決して小さくないのではないかと考えられています。

日本に多い、木造建築の家

東京都で被害想定(1997)をやりまして、私もそのお手伝いをしているのですが、次の地震がきたらどれくらい被害が出るかという想定をします。それは阪神大震災が起きる前後に実は想定をしていました。阪神大震災と同じマグニチュード7.2として地震で、東京にどれくらい被害が出るかを想定していました。その結果はなんと、阪神大震災の倍以上の被害が出る可能性があるということになりました。その中でも特に火災の発生が、実は非常に大きな課題になります。

地震の発生時刻などの設定ですが、朝あるいは深夜の地震と、夕方の地震では被害の様子が違います。この被害想定では、「冬の夕方に風速6mの風の中で地震がきたらどういう被害になるか」という想定をしました。多くの被害のうち、特に火災によってたくさんの家が燃える可能性があるということが、この被害想定でも明らかになっています。どれくらい燃えるかというと37万8千棟。ちょっとピンときませんが、東京の環6~環7というような山手線の外側には木造の密集した市街地がたくさんあります。そこには木造のアパートなども、まだまだたくさん残っています。そういう所で火災が発生して燃え広がるという想定がなされました。棟数でいうと37万8千棟ですが、火災以外でも10万棟あまりの被害が出ますから、あわせて50万棟あまりです。世帯数でいうと、たぶん90万世帯もの人が、揺れと火災によって地震の後、家を失う可能性があるということでした。この数字とは、阪神大震災で燃えたり壊れたりした家の5倍近い数字です。またこの地震によって死者が7200人ぐらい出ると想定されていますが、そのうちの5千人ぐらいが火災によって逃げられなくて命を落とす人になるのではないかと想定されています。

なぜこんなに火災が出るのか。火が出たらすぐ消せばいいではないか、ということなのですが、この被害が集中する場所というのは、いわゆる木造住宅密集市街地といって、実は都市計画を一度もしないで家だけが建て込んでしまったという、そういう市街地です。ですから道路がない、広場がない、家だけは無秩序に建て込んでいる。従って、火が出て消防車が来て消すということも非常に困難です。また道路が狭い、あるいは地震によってブロック塀や場合によっては建物が道路に倒れ込んでくると逃げるのも大変です。逃げ遅れて火にまかれて死者が出る可能性があることを、実はこの被害想定という数字が示しているのです。ですから、東京での防災街づくりでは、この都心・副都心をぐるりと取り巻いている環7前後の密集市街地をどれだけ強くするかということが非常に大事な課題です。

※今回のインタビュー記事は、東急電鉄の協力のもと、「FM salus」が過去に放送した『東急建設 presents 「サロン・ド・防災」』の内容を、一部改定して掲載しています。