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防災インタビューVol.6

防災力のある街づくりのために

放送月:2004年7月
公開月:2007年1月

中林 一樹 氏

東京都立大学 教授

修復型の街づくり

今から30年前に東京で地震防災を考え始めたときには、こういう危険な密集市街地を再開発して木造建物を全部壊して、全部を鉄筋コンクリートの高層ビルに建て替えてしまえば安全だと言われ、実際そのような計画も考えらました。ところが、そういう大規模な再開発というのは、なかなか簡単には進みません。結果として30年たった今でも、木造密集市街地はたくさん残ってしまっているということです。

用賀の町並み

では、これからまた頑張って再開発しようかということになるのですが、現在は、日本の都市づくりとか街づくりは今大きな曲がり角にあります。それはどういうことかというと、少子高齢化ということが福祉だけではなく、これは都市づくりにも大きな影響を与えています。再開発事業で大きなビルを造って、住宅をたくさん造っても、入居する人が実は増えないのです。日本の人口はこれから減ると言われています。そうすると、今まで50戸だったところを再開発事業で200戸に増やして事業の費用をまかなうのですが、これからは家族数は4倍に増えない。だから、長い時間をかけて大規模な再開発をしても、空き家がどんどん増えていくだけになってしまう。つまり再開発型の整備で、6千ヘクタール~7千ヘクタールと言われる密集市街地をすべて改善するということは、もうできないという時代に入ってきています。

ではどうするかということですが、「修復型の街づくり」が必要であるということになります。大きく大胆につくり替えることはできないけれども、少しずつ必要な整備をしていって、少しずつ安全にしていく。そんな街づくりのやり方が大事になってきているのです。少しずつというのがどういうことかというと、木造の密集市街地というのは前述のように、道路が整備されていなくて消防車も入りにくい、救急車も来ないかもしれません。そうすると道路を少し広げて、6メートルとか8メートルという道路を地区の中に1本、2本造って、最低限必要な消防とか救急とか、あるいは地震の後のさまざまな救助活動、あるいは避難ができるような道路を整備していこうということです。全部取り壊さなくても、みんなで少しずつ土地を融通しあって、ミニ区画整理のような形で道路を広げることもできると思います。そうすれば木造をすべて不燃化しなくても、安全になっていきます。

敷地が狭かったり道路に接していなくても、共同で建て替えたりして、少しずつ建物を新しくしていくことで、揺れに対しても強いし火災に対しても強い街につくり替えていく。もっと大事なのは、実はそういう街づくり活動を通して、人と人がもう一度、地域でコミュニティーをつくっていくということです。つまり、人と人が助け合うということは防災の原点ですから、この修復型の街づくりというのはコミュニティーづくりにもつながっていて、私はここが一番大事なところだと思っています。

宅地造成地域の地震災害

地震ということで考えると、東京の木造密集市街地に比べると、田園都市線沿線というのは非常に密度が低くて、緑が多くて住みやすい街と言えると思います。しかし、もし地震が発生したときに、この多摩丘陵を含む田園都市沿線で被害が出るとしたら、実は宅地造成に伴う被害というのが一番特徴的なものではないかと思っています。

昔、丘陵、山があって谷があった所が、今開発されて街になっていますが、多くの場合に山を削って谷を埋めて宅地を造るということをしてきます。そうしますと、実は同じ宅地造成の団地の中に、非常に性質の違う2つの宅地が発生します。山を削ってできた宅地というのは「切り土」と言います。これはどちらかというと地盤が固い。ところが切った土で谷を埋めて造った宅地は、「盛り土」と言いますが地盤が軟らかい。そうすると、地震というのは地面の中の揺れが地上に伝わってきて、それが建物に伝わって被害が出るわけですが、揺れ方に非常に大きな差が出ます。多くの木造建物というのは、揺れ方が大きくゆっくり揺れるという特徴を持っていますから、地盤が軟らかいと非常に大きくゆっくり揺れやすくなります。従って同じ木造住宅でも、切土と盛土の上の住宅を比べると、地震のときには盛土の上の方が被害が出やすいということが言えます。

地震災害

もう1つは、宅地・住宅団地の中に水道とかガスが入っていますね。これは道路の下に入っているわけですが、これが実は盛り土から切り土、切り土から盛り土とつながっています。そうすると切り土の部分と盛り土の部分で揺れ方が違いますから、その境目でガス管が切れたり、水道管が切れたりしやすい。

実は1978年に宮城沖地震というのがありまして、仙台でたくさん被害が出ました。その中で最も顕著な被害は2つあり、1つはブロック塀が倒れてたくさん人が死んだということです。それ以来、ブロック塀を安全にしようということが全国で取り組まれてきました。もう1つは丘陵地の造成地でガス、その他が切れて、建物も壊れたけれども、建物が壊れなかった家でも水が来ない、ガスが来ないということで、生活が非常に大変になったということがあります。従って、造成地の多い多摩田園都市の一帯では、宅地造成に伴う地盤の差が生み出す被害というのに注意する必要があります。

「盛土」と「切土」の防災対策

造成地には「盛土」と「切土」の土地がありますが、それらはどのようにすれば区別がつくのかというと、工事中を見ているとすぐ分かりますが、出来上がってしまうとなかなか分かりません。それを見つける1つの方法というのは、開発される前の古い地図を探してきて、それと現在を比べると、だいたいどこが昔は谷だったのか、どこが埋め立てられたのかという予想がつきます。1つ1つの家の敷地を少し掘ってみたりしないと厳密には分かりませんが、大まかには昔の地形と比べることによって、地図を頼りに知ることができます。

これから新しく家を買う場合には、「なるべく切土のほうを買いましょう」とか、あるいは「盛土でも、あまり厚くない盛土を買いましょう」ということになりますが、もう既に住んでいる場合には、何らかの対策を考える必要があります。一番大事なのは、今の状態がどれくらい危険なのか、安心できるのかというチェックです。盛土が、大規模な盛土、厚い盛土になりますと、擁壁というのが必ず出てきます。つまり土を留める壁ですが、この擁壁が高い場合には、頑丈な擁壁かどうかというのが、まず最も基本です。古い石を積んだだけの擁壁ですと、非常に不安定な場合があります。また横から見たときに、真ん中が膨らんでいるような状態になっているのも、やはり不安定ですから、専門家に見てもらったほうがいいかもしれません。そうでなければ次のステップということになりますが、これは耐震診断です。建物がどれくらい揺れに強いかを確かめる必要があります。その中でも、特に、基礎をしっかり造っておくということが大事になってくるかと思います。少しぐらい地震で地面が動いても、基礎がしっかりしていれば全壊は免れます。少しぐらい傾いても全壊しないということで止まりますから、基礎をきっちり造っておくということが、次の対策としては大事になると思います。

同時に、切土だからといって安心してはいけないわけで、防災対策としては切土も盛土も、ガス管が切れてガスが来ないとか、水道管が壊れて水が来ないということもあります。あるいは電気も止まる可能性があります。そのときには家が大丈夫でも生活が大変になりますから、水とか電気に代わる照明器具や、あるいは自宅でお湯が沸かせるようなポータブルのコンロですとか、非常時のグッズが役に立ちます。

ですから丘陵地に住む、あるいは宅地造成地に住むということは、盛土の人は自分の家が大丈夫か、あるいは自分の敷地がどういう状況にあるのかチェックする必要がありますが、切土の人も同時に、地震の後には非常に生活が困難になる可能性があることを十分に自覚して、そのための備えをしておくということが大事になります。家が壊れなくても生活が保障されるかと言われると、必ずしもそうではない。これが都市の生活の特徴だと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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