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防災インタビューVol.6

防災力のある街づくりのために

放送月:2004年7月
公開月:2007年1月

中林 一樹 氏

東京都立大学 教授

防災力の向上のために

ハード面での防災のためには「地域の物的防災力の向上」が必要だと考えています。つまり、施設とか物を造って、空間を整備して災害に強い街にする、これを物的防災力の向上というふうに考えています。もう少し具体的に言うと、建物を災害に強くする。揺れても壊れない、火が出ても燃えない、そういう耐震化・不燃化の「建物づくり」が必要です。そして、いざというときに避難したり、救出・救助に向かったり、そういうことができるような活動の場を街の中に造る。これは「道路づくり」です。道路がないと活動はできませんから、道路を整備することによって災害時の活動もできる。そういう道路づくりも大事な物的防災力の向上になります。それから「広場づくり」です。これも大事です。広場があることによって、地域の人たちが助け合うことができます。炊き出しができたり、いろいろな救援物資も、広場を使ってみんなに配ったりすることもできる。それから水とか緑を街の中に増やしていくことも、災害に強い街づくりには大事です。水があれば水道が止まっても、飲み水ではなくてもトイレが使えるというわけですから、いろいろな形で井戸を確保したり雨水をためたりして水を確保し、街の中に「水」を増やしておくということは重要なことです。それから、「緑」というのは実は非常に大事で、火災を止めることもできますし、倒れてきた建物を支えるということもできます。実際、阪神でも街路樹が、壊れてきた住宅を支えて道路を確保したという事例がたくさんあります。ですから、街路樹がある、街の中に緑があるというのは、災害に強い街の1つの証拠になっています。それ以外に、火災が出たときに火を消すための貯水槽のような防災的な設備を街の中に造ることもいいですし、地球環境にもやさしいソーラーシステムが街の中にあれば、停電になっても夜、街灯がつくとか、門灯がつくとか、これもすごく大事な防災街づくりにつながっていきます。そうした防災設備とか、施設を造る。そういうようなことを行いながら災害に強い街をつくるということが、物的防災力を向上させることです。

もう1つ、ソフトという面で考えると、人間自身の防災力を向上する、「人的防災力の向上」が必要であると私は考えています。基本は一人ひとりの人間が、災害に対して備えをするということです。自分は何もせず、みんなが他人任せにしたら、誰も助かりません。ですから「人づくり」というのが、まず大事な防災力の向上になります。防災訓練や防災教育というものを考えるときも、まず基本は、「人づくり」から始まります。

次に必要なのが「組織づくり」です。1人ではできないことがたくさんありますので、地域で組織をつくって、みんなで災害を乗り越える。そういう「組織づくり」が大切になってきます。また組織をつくって、防災を考えた場合、「みんなで活動するための活動計画づくり」、これも重要になってきます。それと同時に、防災に強い街づくりのためには「みんなで守れるようなルールづくり」も大切です。みんなで考えながら街を安全にしていこうとするときに、そういうルールづくりの取り組みも非常に重要になってきていると考えています。

防災街づくりを進めるために ~隠し味の防災街づくり~

「防災街づくり」というのは、もう30年前から東京などでは取り組んできていますが、なかなか進展しないというのが悩みどころになっています。しかし「なかなか進展しない」ということを訴えても、何も進展しません。逆にこれからはちょっと発想を変えて、どうやったら進展するか、あるいは進展しているものに防災を乗せてしまおうと、そういう発想で、気軽にみんなが防災を考えていく、そういう防災街づくりが大事なのかなと思っています。

これを、私は「隠し味の防災街づくり」とか「防災風味のまちづくり」と言っています。どうしても防災を研究していると、「危険だ、防災だ」と前面に押し出して言いたいのですが、ただ「防災」と言ってもなかなか世の中が受け止めてくれませんので、むしろ隠し味にしてしまおうと思っています。隠し味にすることで、自然にいろいろな食材に染みこんでいく、そういうような進め方が大事なのではないかなと思っています。

具体的にどういうことかというと、例えば防災を正面に出して街づくりをしようというのは、「防災ラーメン」というように「防災」という言葉を表に出すことになるのですが、実は防災を隠し味にするというのは、「これは福祉ラーメンです。しかし普通よりちょっとおいしい味がするでしょ。そのおいしい味がでるところが実は防災なんです」ということです。このように言うことができると食べ飽きないし、誰でもが食べてくれる。そんな形で防災が進められないかなと思っています。

例えば、家を造るときに「どんな家を造ろう」、改装して新しい生活スタイルを考えるときに「どういう生活スタイルがいいか」と考えると思います。その時に、必ず1回、「防災」ということを考えてみるということです。防災のためだけに家を建てるのではなく、新しい家を考えたときに「もしこの新しい家で地震が起きたら、私はどんな生活になるのか。そのときのために、どういう備えをしておいたらいいのか」。そういうことを、みんなが家を造るときに1回考えるだけで、どんどん安全な家づくりができるようになっていくのではないかなと思います。

これは、いろいろな場面でもいえることですが、ある人が一生懸命「防災」を考えて、防災を実現するのではなく、一人ひとり、みんなが「今日は、防災ということで何ができるのか」を考えてみることが大切です。そのような、毎日毎日飽きない形で防災の取り組みができるような、そういう街づくりを展開していきたいと私は思っています。

この田園都市の沿線にも、いろいろな形でボランティア団体とか趣味の会とか地域のサークルというような地域活動があります。ところが、防災を旗印にしている地域活動というのは、ほんのわずかしかないと思います。従って防災ということを今まで考えてこなかった地域活動の皆さんに、今までの活動に少し「防災」ということを加えて考えてもらうような、そういう取り組みにしていく、そんな仕掛けを作っていくことが大事だと思います。

防災への近道

現在、内閣府では、「民間を活用した防災街づくりの新しい手法」という研究会をやっています。そこでこの間、私は話をしたのですが、実際、街の中、あるいは地域を見ると、田園都市の沿線もそうだと思いますが、街づくりのためのさまざまな活動が行われています。例えば「福祉の街づくり」という活動をしているグループはたくさんありますし、商店街ですと「商店街を活性化するための街づくり」が行われています。最近、犯罪が多いので「防犯の街づくり」というのも、各地で取り組まれています。また、緑を守るとか緑を増やすという「緑の街づくり」、あるいは「公園づくり」や「公共施設づくり」。このようにいろいろなところでさまざまな「街づくり」という活動があると思います。そういう活動の中に「防災」という風味付けをするために、内閣府に「各省庁を超えて、5%でいいから防災を考えるための予算をつけてください」ということをお願いしました。それが具体的にどういうことかというと、福祉であれば福祉部局だけがかかわる街づくりのように思いますが、そうではなく日常の福祉を考え、「災害時に高齢者をどのように助けていったらいいのか」「あるいは、災害の後、福祉というのはどのようにあるべきなのか」ということも考えることが必要になってきます。しかし、そのための予算というのは、実は福祉部局にはないので、内閣府で予算をつけて防災という味付けを対策として進めたらどうかを提案しました。

このような実例として、早稲田の商店街の「疎開パック」というものがあります。商店街の活動というのは、毎日の商業活動を活性化しようということですが、それが災害時につながっていれば、なおいいわけです。実際、早稲田の商店街の「疎開パック」では毎年、契約者が5000円支払っていざというときの疎開先として契約するのですが、災害がないとその金額の6割が疎開先とした地方の物産として戻ってきます。もし、災害が発生して一時的に疎開しようと思うと、契約した提携先がいつでも受け入れてくれて疎開できる、そのようなシステムです。それは商店街の日常の活動の活性化が、災害時につながっているということですので、非常におもしろい商品開発だと思います。

緑の街づくりも同じで、緑を守るとか増やすということだけが課題になっているのですが、「緑を守るということは災害のときにどういう意味があるのだろうか」ということを考えてみる必要があります。ただ単に見た目で緑が多いということだけではなくて、緑が多いということは、密度が低いということですから、もうそれだけで災害のときには安全なのですが、同時に災害が発生した後、木があれば、そこにロープとシートをかけるだけでテントができてしまう。そういういろいろな工夫ができます。緑を守る活動というものが、災害時にどれだけ緑が役立つかということを考えていただくことで、緑を守ることの意味はもっと深まりますし、実際それによって緑が守られていくのではないかと思われます。

そういう「防災風味付け」が、福祉、緑、商業、防犯、あるいは公園造りにもいえると思います。公園を造るときに、常に災害の時にも利用できるように、この公園をどう造ったらいいかを地域の人たちと一緒に考えてると、本当に役に立つ公園ができていきます。

市民が学会とともに考える東京地震防災

そういう形の活動が防災という隠し味で横につながっていくことで、地域の中に新しいコミュニティーがつくられる。そして、そうした人と人のつながりが、被害を軽減する街づくりを地域に実現する。これは防災街づくりにとっては遠回りのように見えますが、実は最も近道なのではないかと思います。そう考えますと私たちの周り、どこからでも防災街づくりが始められる。そういう身近な防災街づくりをどんどん増やしていくことが、すごく大事なのではないかと思っています。

実は「防災街づくりの主役」というのは、私たちのような専門家でもなければ行政マンでもなくて、「市民」そのものなのです。

阪神大震災から10年を迎えることを記念して、建築学会、土木学会、そしてNPOが一緒になって、市民が考えるシンポジウムというのを開きます。2005年の1月8日~9日に、建築学会の会館で「東京は阪神大震災の後、どれくらい安全になったかということを市民の目線で考え、これからの対策を考えてみよう」というシンポジウムです。学会がNPOと共催するシンポジウムというのは、初めての試みなので、ぜひたくさんの市民の皆さんに参加していただいて、実りのあるディスカッションができれば新しい防災の一歩を踏み出せるのではないかと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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