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防災インタビューVol.22

「まち」は住んでいる人の自画像

放送月:2007年9月
公開月:2008年4月

齊間 孝一 氏

東京空気調和衛生工事協会

地震からの教訓

地震からの教訓について、私が実際に現場に行った地震ということに限定してお話しさせていただきたいと思います。

まず大学1年生の時に新潟地震が起きまして、この時には大学に入ったばかりでしたが、飛んでいきました。この地震は地盤液状化ということで有名です。ただ昨今、地盤液状化を誤解されている向きがございまして、臨海部の建物は怖いという話もありますけれども、今日は技術的な問題は省略しますが、臨海部が怖いというのは誤解でして、地盤液状化の対策をする必要があるということでございます。対策をすれば怖くないのです。

2点目は、1994年のノースリッジ地震。これは調査に行きまして、この時の教訓としましては、大地震があったときには、「自分は目覚めがいいから逃げられる」と自信を持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、建物倒壊は瞬間に近い出来事ですから、逃げる時間はないということです。実際に、目覚める間もなく建物が倒壊して下敷きになった人が多くいました。しかも、同じ地区内でも被害状況は異なっていました。自然の力というのは、人間のように裁量の力が働きませんので、弱い建物は被害が大きいし、地区ごとの被害の様子は異なりました。これは中越沖地震のときにも教訓として出ていますが、地震波というのは硬い層にぶつかりますと反射しますので、元の地震波と反射地震波が重なって、被害が大きくなるということです。ノースリッジ地震でも、山麓に近いシルマー地区の所は被害が大きかったということがあります。それと、ノースリッジ地震の教訓の最後でございますが、大地震があった後、ここでは全棟の調査点検を義務化しまして、新しい補強基準に基づいた改修を強制しました。要するに、過去の誤りは正すということです。「誤りに気付いて正さないのは最大の誤り」という言葉もありますように、過去に落ち度があったことを、知ったときは、「急いできちんと」改めるということが必要だという意味です。

それと平成12年、2000年に起こった北海道南西沖地震ですが、この時の教訓としましては津波です。津波は一瞬の判断が生死を分けますので、着替えていては駄目、ただちに逃げるということです。それと、自分は陸の奥の方に住んでいるから津波は関係ないということではなくて、旅行先で遭遇する可能性もあるわけです。旅行先の例としまして、奥尻島の崖下に「望洋荘」という旅館がありましたが、その旅館が崖崩れの下敷きになり、旅館にいたお客さんが亡くなったということがあります。それから、この地震のときは各戸に配布した防災無線が効力を発揮したということです。これはぜひ必要な防災グッズです。それと、もう1点は、延焼防止のために破壊消防を実際に実施したということで、私が知っている限りでは、地震後の火災により破壊消防を実施した初めての事例です。

シューベルトの看板(オーストリア・ウィーン市郊外)シューベルトが下宿していたところが、レストランになっている。

生きていくための「まちづくり」

災害に関しては「自分は大丈夫」ということが皆さんあると思いますが、実際、地震のときに考えるのは、自分のことだけではないのです。

例えば津波の例でお話ししますと、家庭に老人の方がいらっしゃる、子どもさんがいらっしゃる、あるいは車いすに乗っている方がいらっしゃいます。いわゆる言葉で言うと「災害弱者」と言われる方が町には住んでいるわけです。その方を誰かが背負っていかなければいけないわけです。その方を置いてきぼりにするか、背負っていってスピードが遅くなって、2人もろとも津波に飲まれるかという、シビアな大変厳しい判断もあるわけです。自分だけのことを考えるということではなくて、やはり「まちづくり」が大切です。前に申し上げましたが、やはり皆がどういうふうに生きていくかというのは、まちづくりの中で、防災ということも含めて考えていく必要があるということでございます。

建物の性能表示について

最近、建物の性能表示ということがよく言われていますが、実はここが一番難しいキーワードです。性能表示の「性能」ですが、性能という意味は分かりやすいのですが、どんな性能かというところが一番難しいということなのです。

具体的な例で申し上げますと、例えば環境性能表示ということがありますが、これは東京都環境局が1万平方メートルを超えるマンションについては義務化しておりまして、マンションの断熱性、設備の省エネ性、建物の長寿命化、緑、この4項目について、3段階で性能表示をするということです。その3段階を星の数で表したものです。1万平米を超えたマンションは、東京都の中ではこの性能表示が義務化されています。つい最近、1万平米よりも小さなマンションでも、お客様にきちんと性能を表示したいということで、希望者は表示をしてもいいということで7月1日から改正されております。これは環境性能表示です。

それと、消防安全性の性能表示というのがあります。旅行の幹事さんは必ず、最低の自分の役割として、マル適マークがない旅館には泊まらないということを考え、旅館に問い合わせして確認するようになってきています。この適マークができました時に、法律が遡及適用されました。遡及適用というのは、過去には消防法で合法な建物だったけれども、ある一定時期以降、それよりも前に建った建物もマル適マークを取らなくてはいけないということになるということです。なぜこういう厳しい性能表示ができたかといいますと、お客さんが、だいぶあちこちの旅館の火災で亡くなられたという事故が連続したので、人命保護優先ということで遡及適用されたということです。これは消防安全性の性能表示です。

もう1つ、いわゆるホテルでも性能表示が行われています。ヨーロッパに行きますと5つ星ホテルというのがありますが、星の数でサービス性能を表示するというものです。私も昨年スイスに行きました時に、サンモリッツのペンキンスキーホテルという5つ星ホテルに泊まりました。旅行先で、私どもが宿泊予定のところが洪水になりまして、そのまちに入れないということで、急きょ旅行会社が手配したのが5つ星ホテルだったわけです。5つ星ホテルしか空いていないということで、私は初めて泊まりましたが、サービスの水準が違います。偽りはないわけです。

このほかにも身体障害者のマークの性能表示という表示もありますが、これから必要な性能表示もあるわけです。

ウィーンのオーケストラ(オーストリア・ウィーン市)楽友協会ホールでの演奏前風景

耐震性の表示

この性能表示というのには二面性がありまして、性能表示をしますと、高レベルの表示をしたところは社会から好判断がされるということですが、低い性能しか表示できない、あるいは性能表示をしないところは、お客さんからも敬遠されるということになります。このように二面性がありまして、なかなか実行できないわけですが、先ほど言いましたように消防の安全性とか人命にかかわることは、マル適マークという性能表示があるわけですので、これからの建物というのは、できるだけ早く、大げさに言えば一刻も早く、耐震性能の表示をするべきではないかと私は思っています。このことを私はいろいろなところでお話ししていますが、ただこれは難しいところがまだございまして、表示方法を「星の数」にしましても、それの根拠をどうするかというのを考えていかなくてはならないところがございます。

耐震性の表示をすることは、耐震性能の強化をして、強化後の耐震性能を表示していくということになりますが、ここで難しいところは日本の技術社会といいますか、日本の社会として、耐震性の表示についてのコンセンサスができていないということがあります。その表現をどうするかということが問題です。例えば先ほどお話ししましたようなホテルなら、5つ星ホテルと1つの星しかないホテルは、どれくらいサービス水準が違うかということは、泊まってみればはっきり分かるわけです。ところが建物の場合に、例えば星3つの建物と星1つの建物で、いざ大地震があったときにどういう違いが出てくるかということを、今は分かりやすく説明しにくいということがあります。その原因が何点かあるわけですが、1つは、建物というのは上の部分の駆体、構造体をしっかり造るということはもちろん大切なのですが、寄って建つ地盤との関係がきちんとしているかどうかも大切です。地盤の中は実際見えないということですので、それを耐震性の表示として、どういうふうに組み合わせして表示するかとか、そういう技術的な問題が1点あります。

技術的な問題だけではなく、社会的な問題もあります。例えば3つ星の百貨店はお客が増えた、1つ星しかつかない百貨店はお客が来ないということになりますと、営業妨害ということもありますし、これは逆に言いますとビジネスチャンスにもなるわけです。仮に、現在は2つ星しかなければ3つ星、あるいは5つ星になるように耐震補強すれば評価が上がるということです。あるいはマンションで言えば、5つ星のマンションということになれば、なんらかの都合上、自分の財産を売るときに、高く売れるということもありますので、そういう意味ではビジネスチャンスにもなるわけです。これは社会的なコンセンサスを得るということと、何よりもその大前提としての技術的な整理をきちんとしなければいけないということになります。

私は過渡期として、いきなり耐震性の表示ができなければ「文化性の性能表示」ということで、建物を設計した方、会社名、施工者を示すことで、信頼性の表示とはいえないまでも、間接的に信頼性がどのようなものであるかというような「文化性の性能表示」というようなものを表示して、何らかの信頼度を表示する仕組みをきちんとする必要があるという考えを持っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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