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防災インタビューVol.58

都市計画と町づくり ~都市計画的防災の観点から防災を考える~

放送月:2010年10月
公開月:2011年4月

加藤 孝明 氏

東京大学生産技術研究所准教授

運命共同体として

このように自助・共助・公助があるべき姿になっていくと、地域でどんな災害が起きるのかを具体的に考えて、町全体で取り組まないといけない、という意識が自然に芽生えてくると思います。町というのは、言ってみれば運命共同体です。

火災などが顕著な例で、自分の所は大丈夫でも、どこかで火が出たら全部燃えてしまいます。一方で、高層住宅に住んでいる人は、自助だけやっていればいいのではないかと考えると思いますが、必ずしもそうではないはずです。水や電気やガスが止まってしまうと、多分その高層住宅ではもう暮らせません。そうすると町の避難所にお世話にならなくてはいけなくなるわけです。

そういう意味では、それぞれの個人が抱える問題は違うけれども、災害後の対応というのは、やはり運命共同体として取り組んでいく必要があると思います。そのためにも自分の住んでいる町がどういった町なのか、どういった災害が起こり得るのか、というのを知っておく必要があります。

過去の災害から学ぶこと

自助・共助・公助のあるべき姿を実現するための条件がありましたが、そのうちの1つは、地域で起こる災害状況像を自助・共助・公助で同じように理解する、つまり共通の敵を知るということです。これが多分、今すぐに取り組まなければいけない課題ということになるわけですが、では、どうやってそれをやるのかというと、2つ方法があります。1つは過去の災害から学ぶこと、もう1つは行政が地震被害想定という調査を行っていますので、それについて学ぶことが大切です。これは神奈川県の場合だと昨年6月ごろに公表されていますし、東京も川崎も横浜もそれぞれホームページで見ることができると思います。この2つの素材を基にしながら、それぞれの町でどんな状況になるのかを理解していくことができますが、それには実は注意が必要です。

例えば「過去の災害から学ぶ」といったときに、皆さんは阪神淡路大震災を思い浮かべると思います。「地震が起こると阪神淡路大震災の被災地のようになるのだろうな」というふうに考えると思いますが、これは正しいのでしょうか?

町の空間的な特性が変われば状況も変わります。災害の種類も変わってきます。そこで暮らす人が変われば変わりますし、時代が変わればその状況も変わります。情報機器などの使える道具も変わってきていますし、気象条件が変われば変わります。しかし大半の場合は「阪神淡路大震災=都市に起きた地震災害」という構図が成り立ってしまっています。テレビのカメラがライブ中継をしたり、毎年1月になると当時の映像が繰り返し流されます。そのこと自体は非常に重要なことではありますが、その映像がイコール都市における地震災害という形で理解してはいけないということです。

ですから、15年たった今の時代に合わせたり、その地域社会に合わせたり、その地域の空間に合わせるといったような翻訳作業をしないと、間違った敵を知ることになってしまいますので、そこだけ注意が必要です。その地域の過去の災害事例と行政の地震被害想定調査を重ね合わせながら、地域のことを一番よく知っているのは地域の人ですので、その人たちの経験、環境や地域社会を見る目、というのを積極的に使って、その地域で起こる状況がより正しい値になるように、頑張って想像力を働かせて考えていく必要があるのではないかと思います。

地震を想定すること

私はもともと都市計画を研究しており、従来の都市計画的防災というと、地震が起きた後の火災をどうコントロールしていくのか、というのが1つ大きなテーマでした。阪神淡路大震災でも火災が発生し、町も焼けました。皆さんは、あの被害は大きいと思いますか、それとも小さいと思いますか? 関東大震災と比べると火事は非常に少ないと思います。ただ関東大震災のときは、木がむき出しの家ですし、ガスとか電気のない時代ですので煮炊きは裸火で、しかも木で燃やしていたわけです。ですので、だいぶ出火の条件が違うので、今はあれほどのことは多分起こらないと思います。これは以前アンケートしたことがありますが、東京で地震が起こったときに、神戸の火災被害よりも大きいか小さいかと聞くと、大半の人は「大体同じぐらい」という回答をされています。

しかし僕ら専門家から見ると、阪神淡路大震災のときですら、火災被害は非常に少ないという判断なのです。東京の被害想定調査によれば、総量で約百倍ぐらいだと思ってもいいと思います。地震があった後の火事も非常に怖いですが、僕の計算によると東京の、とある山の手の密集市街地の町では大体80%ぐらいの確率で、2万戸ぐらいが燃えてしまうと出ています。このように密集地帯では、阪神淡路大震災では起こり得ないような状況が必ず起こるはずです。ですから、そこの翻訳は皆さんぜひ気を付けてやっていただきたいと思います。

もう1つ、地震被害想定調査が行政から出されていますが、これも非常に参考になります。これはどういうことかというと、起こりそうな地震を設定して、その地震が起こった場合に、今の町がどのような被害を受けるのかというのを、これは工学的なモデルを使って計算しています。これは実はすごい計算をしています。要するにこれは地盤のデータも集めて、地盤にどう地震の波が伝わるか、それが建物にどういう影響を与えるか、ライフラインにどういう影響を与えるか、そうなったときに火災が何軒ぐらい出そうか、さまざまなデータを使って、ものすごい労力を使って実はやっているのです。ただ、多くの市民の方はそれほど知らないし、見られていないと思います。

ここで気を付けなければいけないのは、分かっていることは計算にのせていますが、分からないことはのせていないということです。集められるデータは考慮しているけれど、そうでないのはのっていないわけです。ですからそれも、地域のことを知っているのは地域の皆さんですので、皆さんの目できちんと被害想定調査も翻訳して、具体的な地域の災害状況像というのを描く必要があると思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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