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防災インタビューVol.58

都市計画と町づくり ~都市計画的防災の観点から防災を考える~

放送月:2010年10月
公開月:2011年4月

加藤 孝明 氏

東京大学生産技術研究所准教授

耐震診断は耐震補強を増進させるか?

耐震診断をすれば、耐震補強をする人が増えるはずだと思われていますが、実際に耐震診断を受けた結果、耐震補強をする人は増えているでしょうか? 実際には、それほど伸びてはいません。では「なぜ耐震補強の制度を利用しないか」ということを、構造的に見ていく必要があるのではないかと思います。

そのことは、少し古い7、8年ぐらい前のデータですが、次の2つの質問に対する結果からも分かります。「あなたのおうちは大地震が来たときに、どの程度壊れると思いますか?」また一方で「どれくらいの被害であれば我慢できますか?」という質問に対して、それぞれ一部損壊、半壊、全壊から選ぶようになっています。これを墨田区と世田谷区、半々ぐらいサンプルをとって、それを合わせた数字では、何と20%の人が「家は全壊するだろう」「全壊してもいい」と答えています。この人たちは、耐震診断しても耐震補強を勧めても、どうにも動かない人です。さらにその下のレベルで「半壊するだろう」と思っていて、実際起こったときに「半壊してもいいや」「全壊してもいいや」と思っている人が、やはり20%ぐらいいました。ですからこの合計40%の人というのは、多分いくら耐震診断をしても動かない人だと思います。

なぜ「全壊してもいい」と思うのか。それは災害に対するイメージが実感を持って理解されていないせいもあるかもしれません。ですから、この構造を変える必要があると思います。これまで「半壊、全壊してもいいや」と思っている人に「いやいや、そうなるとまずい」というような気持ちにさせるような何らかの刺激が必要です。

逆に、今まで「自分の家は半壊するだろう」と思って住んでいた人が、耐震診断すると「全壊する」と出るかもしれません。それによって「それではまずい」と気付いて、耐震補強に持っていくことが、もしできるとすれば、これは耐震診断することで若干動く部分ではないかと思います。

このように潜在的にこういう構造があるということを理解した上で、その構造をどう崩すかを考えていくことが重要です。耐震診断、耐震補強、このような制度があることを一生懸命知らせるだけでは、不十分であると思います。危険度は知ってはいても、なかなか動けないのが人間の本質であることを考えると、知らせただけでは、うまくこの重要性が伝わっていかない可能性もあります。

防災の基本 ~自助・共助・公助~

自助・共助・公助という言葉は、もう普通の言葉として社会に普及してきました。自助というのは自分の命は自分で守ろう、個人でやるべきことは個人でやろうということです。共助というのは町の皆で助け合おう、町として備えようということで、公助というのは行政、公がやるべきことをやるという意味です。つまり防災の担い手である個人、それから町、それから行政、皆で防災に取り組んでいこう、防災には自助・共助・公助が必要ですよ、ということです。今、行政のホームページを見ると、必ずこの言葉の説明が書いてあって「自助・共助・公助、3点セットがそろえば防災は大丈夫だ。素晴らしい理想の社会ができるのではないか」と思えるようなことが書いてあります。しかし僕は、これはだまされているような気が、実はしているのです。

実際、自助・共助・公助と見ていくと、自助といっても、家具の固定をしている人はせいぜい3分の1ぐらいだと思います。共助として、町では年に1回、何らかの防災訓練があると思いますが、現役の方はほとんど行っていないと思います。私の住んでいる町でも防災訓練があって、実は私も5年ぐらい前に1度だけ行ったのですが、600世帯で構成されている町会で、寒かったせいもあって、参加者は8世帯でした。その日は、被災した後にどこが壊れているかという点検をして報告する、という訓練でしたので、報告を受ける人と報告する人が3人いましたので、フリーの参加はわずか4世帯という状況でした。一方、公助を見ていくと、市長の施政方針の中で「防災」というキーワードはかなり上の方に位置付けられてはいますが、でも実際は財政の制約の下で「できることから順番にやっていきます」ということです。ですから、公助も本来やらなければいけないことの一部分しかやっていないわけです。

つまり自助・共助・公助があって、皆で力を合わせば何とかなるという話ではなくて、自助・共助・公助もそれぞれ限界を抱えながら今、頑張っている、ということだと思います。ですから、そういう意味で自助・共助・公助を皆で頑張れば、いい社会ができるという理解は間違いで、着実に前に向かって、しかも効率よく前に向かっていけるような自助・共助・公助というのをつくっていく必要があると思っています。

自助・共助・公助のあるべき姿

自助・共助・公助のあるべき姿をつくっていくには、2つ条件が必要だと思っています。1つは、その町で起こる災害の状況というものを、自助・共助・公助において、皆が分かっているという状態にすることです。つまり共通の敵が分からなければ対応もできないわけです。多分、今は行政と町と個人が、違うイメージで災害について考えています。それをまず共通化していく必要があるのではないかと思います。もう1つは、今の自助・共助・公助のそれぞれの力で、誰が何をどれくらいやってくれるのかを、相互に理解しあっておくことが重要だと思います。現在の「行政はここまでやります、あとは自助・共助で頑張ってください」ということではなく、自助・共助はこの程度しかできないということを行政側もきちんと理解して、限られたお金を上手に使って、どうすれば今の足りない自助・共助を補っていけるのか、ということを考えていくことが大切です。単に決められた事業を進めていくのではなく、社会全体の力を見て、その中で防災対策を効率的に展開できるような発想が出てくるといいと思います。一方、自助・共助からいうと、今は恐らく皆は「行政が何とかしてくれる」というイメージがどこかにあると思います。

しかし、この状態ではよくないので「何だ、今の行政は、この程度しかできないのか」というようなことを、きちんと事前に理解しておく必要があります。そうすれば「自分たちもこれだけしかできない」「行政もあれだけしかできない」ということを認識でき、それならば自助・共助をどうしたらいいかを考えて、少しでも前に進んでいく力が働いてきます。つまり、こうすれば自立的に自助・共助が前に進んでいける状態をつくり出していけると思います。

この2つの条件がそろうと初めて自助・共助・公助のあるべき姿になって、この自助・共助・公助が自分自身の力で持続的に前に進んでいけるようになるのではないかと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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