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防災インタビューVol.148

情報を防災に生かして命を守る

放送月:2018年1月
公開月:2018年7月

山﨑 登 氏

国士舘大学
防災・救急救助総合研究所 教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

災害時に役立つ普段の情報

最近の災害対策においては、防災情報の占める比率というか、役割がとても大きくなっています。この「防災情報をどうやって私たちが生かしていけばいいのか」ということを考えたいと思います。まず、情報というのは「何をどう伝えるか」が非常に大事なのですが、その防災情報を伝えられた人が、その情報をきちんと理解して、防災行動につなげて初めて意味があるのです。ですので、伝えた情報がきちんと生かされる所まで、防災情報の伝え手には責任があるというふうに私は思っています。
いざというときの情報で、例えば「津波が来たから避難してください」という情報が出てきますが、その防災情報を生かすには普段の情報がとても大事です。「津波警報が出たから避難してください」と言われて避難できるかどうかは、「津波が怖い」ということを分かっていなければできません。津波が怖いということは、何となくニュースを見たり、被災地の映像を見て分かっている人はいると思いますが、「なぜ怖いのか」ということをもう少し考えてほしいのです。津波には勢いがあるのです。例えば台風の時とか、風が強い時に海岸で、高波、高潮が起こると言われます。見たことがある方もいると思いますが、高波や高潮というのは、気圧で波がちょっと吸い上げられたり、あるいは強い風で波が押し寄せられたりしてできたものです。ところが津波は、海の底の岩盤が動くことによって起きます。そうすると何が違うかと言うと、高潮や高波は海の表面の水が動いているだけで、深海の深い所の水は動いていないのですが、津波は海底の岩盤が動きますから、海底から海面までの、つまり海の水全部が横に動く現象なのです。だから持っているエネルギーが全然違っていて、その津波が押し寄せてくると、被災地の映像であったように、丈夫な鉄筋コンクリートの建物以外は跡形もなくなります。しかも津波はとても速いです。太平洋の平均的な海の深さは約4000メートルあると言われていますが、その深さで津波が発生すると、時速700キロで、ジェット機並みのスピードで動きます。陸地が近づいてくると、少しずつ津波の速さは遅くなっていきますが、それでも新幹線並み、それから自動車並み、陸地に駆け上がっても東日本大震災の津波は時速20キロぐらいあったと言います。ですので、波が来たのを海岸線で見て、波より早く逃げるというのは難しいので、何としても津波から逃げるためには、津波が来そうだと知ったら、危険な所にいる人はより高い所へ、一瞬でも早く逃げる必要があるということになります。これを普段しっかりと伝えておかないと、「津波警報が出ました」という情報で防災行動に移ることができないのです。だから、いざというときの情報を生かすためには、普段の情報が大事だということをぜひ知っていてほしいと思います。

地域のリスクを知ることの重要性

「防災情報を生かすためには普段の情報が大事だ」というお話をしましたけれども、それとともに、地域のリスクを知っていることがとても大事です。例えば東日本大震災の後に、国は今後最大規模の地震とか津波とかを想定して対策を取ることを決めました。過去100年、200年のことを考えてやるのではなく、もっと大きな津波、もっと大きな地震が来たときにどうするのかを考えて対策を取らなければいけないというふうに方針を変えました。それを踏まえて、南海トラフの地震の被害想定を出しましたが、国内で最大の津波が予想される所は、高知県黒潮町で、津波の高さは34メートルと予測されました。「34メートルもの津波が来る」と言われた黒潮町の人たちは、町のほとんどが水浸しになってしまうような被害なので、「こんな津波が来たらこの町に住めないんじゃないか」「こんな津波が来るんだったらどんな対策をやってもしょうがないんじゃないか」と諦めてしまう人も出そうになっていましたが、町長や町役場の人が、少しずつ対策を進めて、この津波に向き合っていこうということで地道な取り組みを始めました。どんなことをしたのかと言うと、津波の危険箇所の全ての世帯で、「世帯別の津波の避難カルテ」というものを作りました。お医者さんに行くと病気になった時に一人一人カルテができますが、それと同じように、一人一人の環境に合わせて、あるいは世帯の条件に合わせて、津波で避難する時に、「ああ、この家には1人で逃げられない人がいるから、誰か他の地域の人が助けに行かなくちゃいけないよ」「この家は誰も車を持っていないから、誰か車で行ってあげないと足の不自由な人が逃げられないね」みたいなことを世帯ごとに全部作っていきました。そのために町の役場の人と住民が千回も超えるような話し合いを繰り返しました。それをやったら、地域のコミュニティが活性化したのです。普段あまり集まらない人たちが集まったり、近所の家のことで「あの家を避難させるにはどうしたらいいんだ」ということを話し合う中で、住民みんなが地域のことをどうしたらいいのかを話し合うようになりました。「この地域はこういう危険があるから、こういう所を直しておかなくちゃいけないね」「もっとみんなで助け合う地域にしておかなきゃいけないね」というようなことが話し合われました。
阪神淡路大震災の時には、たくさんの人が住宅の下に押しつぶされて閉じ込められました。その人たちを救助した警察や自衛隊や消防がニュースでたくさん取り上げられましたが、4人のうち3人は、家族や近所の人が助けているのです。つまり災害が大きくなると、防災機関の手には負えなくなりますので、近所の力、地域のコミュニティの力を高めておくことがとても大事です。
もう一つ例をお話ししますと、災害というのは、地域にもともとある問題を表に出して、それを加速させるという力があります。これはどういうことかと言うと、災害が起きると必ず、高齢者の問題が大きなニュースとして取り上げられます。しかし、「災害が起きたから高齢者の問題がにわかに起こったのか?」と考えてみると、そうではなくて、その地域にもともと高齢者の問題があったのですが、それが災害が起きることによって全部表に出て、それが問題として大きく見えるようになったということなのです。そうすると、災害の時だけ高齢者の問題に対応しようと思っても無理で、普段から高齢者の問題に向き合っていた地域でないと災害の時の高齢者対策は取れないということになります。だから災害情報を生かすためにも、地域のリスクを知る、地域のことをみんなで話し合っておく、あるいは地域の人たちが仲良くなっておく、そういうことがとても大事だということです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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