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医療AIとは?国内病院の動向と自院の課題解決につなげるポイント

画像診断支援AIをはじめ、医療機関向けのさまざまなAIサービスが研究開発され、全国の病院やクリニックでの活用が広がっています。医療AIへの理解を深め、自院の課題解決に役立てたいと考える方も多いのではないでしょうか。

この記事では、医療AIの導入による効果や注意点、国内病院での活用事例について解説します。高額なAI医療機器に限らず、比較的安価なクラウドAIやAI通訳機などの導入も視野に入れることで、AIを上手に活用し、自院の課題解決を目指しましょう。

医療AIとは?現状と今後の展望

医療AIとは、人工知能(AI)技術を医療分野に応用し、医療の質を向上させる取り組みです。問診・診断・手術・遺伝子療法・予測治療・創薬・研究といった多様な領域で、技術開発や社会実装が進んでいます。

国内で活用されている医療AIには、AI問診サービスによる問診時間の削減や、画像診断支援AIによる高精度な病変診断などがあります。さらに、2024年7月には、AI視覚支援プログラム「Eureka α」を用いた外科手術が国内で初めて成功しました。また、国内の製薬企業17社が参加する「DAIIA(産学連携による次世代創薬AI開発)」による創薬AIプラットフォームの開発も展開されており、今後の医療AIの進歩に大きな期待が寄せられています。

医療機関がAIを活用するメリット

医療機関におけるAI活用のメリットの1つは、画像診断支援AIの導入によって、専門医の負担軽減や診断の精度向上が図れる点です。そのほかにも、医師の地域偏在・診療科偏在が招く問題の解消や、医療文書作成支援を通じた働き方改革への貢献が期待されています。

専門医による読影の負担軽減と診断の精度向上

医療機器の技術革新により、患者の診断に医用画像データを活用することが期待される一方で、専門医による読影の負担も増加しています。こうした課題に対応する手段として、国内では画像診断支援AIの研究開発が活発に進められています。

AIは事前に膨大な症例画像を学習しており、内視鏡画像情報などを基に、医師の病変診断を予測的にサポートします。AIによるダブルチェックが可能となることで病変の見逃しを減らし、診断精度の向上にもつながります。

例えば、昭和大学・名古屋大学・サイバネットシステム株式会社が共同開発した「EndoBRAIN(エンドブレイン)」は、大腸内視鏡で取得した画像をAIで瞬時に解析し、治療が不要な非腫瘍を高い確信度で識別することが可能です。

このような診断支援に特化したAIサービスは、多くの国内企業で開発・認証取得が進んでおり、対象とする診断領域も肺・食道・胃・心臓・脳・眼・骨などへと広がっています。

医療格差解消に向けたAIの地域展開

日本の医師数は年々増加しているものの、医師の地域偏在・診療科偏在により、地方における医師不足や一部診療科の維持が深刻な課題となっています。

こうした問題に対しては、医療AIの地域展開が有効です。インターネット環境さえあれば、膨大なデータ基盤を活用して医師をサポートでき、医師不足の解消に貢献します。

例えば、画像診断支援AIを活用することで、非専門医であっても高い水準での病変検出が期待できます。診療科の維持にもつながり、全国どこでも標準的な専門医療を受けられる環境の整備が進むことが期待されています。

働き方改革を支える医療AIの活用

医師の過重労働も深刻な問題となっており、2024年4月には「医師の働き方改革」が始まりました。医師の残業時間に上限が設けられたことを受け、医療情報連携システムなどを活用したDXや、業務の一部を他の医療従事者に移すタスクシフトの取り組みが進められています。

ただし、労働時間の短縮が困難なケースも多く、特にAI技術の活用に対する期待が高まっています。画像診断支援AIに加え、AI問診システムやAIチャットボットによる患者対応のサポート、電子カルテと生成AIの連携による医療文書作成の効率化など、さまざまな領域で医師の働き方改革を支えることが可能です。

医療機関におけるAI活用の注意点や課題


AIは医療従事者の負担軽減などに役立ちますが、医師を完全に代替することはできないなど、活用にあたっての注意点もあります。また、AI医療機器の導入費用と診療報酬制度とのギャップにより、現実的に活用できる領域が限定的になる可能性もあります。

AIは医師を補助するも完全代替は不可

医療AIは、病変の診断予測など医師の本来業務を補助する形で活用できますが、たとえ高精度な診断が可能であっても、それは機械による推論に過ぎません。解析結果を踏まえた上で、追加検査の実施や治療方針の決定などを判断するのは医師の役割であり、AIが医師を完全に代替できるものではありません。

人の生命や健康に関わる領域であることから、倫理的な問題や患者の心証といった懸念も存在します。

さらに、高精度な推論を行うには、大量の学習データが必要です。患者数や検査数が少ない疾病や希少症例では、十分な対応が難しい場合があります。この課題に対しては、NEDO・産総研の事業により、数式から自動生成した大規模画像データセットを活用し、学習済みモデルを構築する技術の開発が進められています。

AI医療機器と診療報酬制度のギャップ

AI医療機器を活用した診療行為に対しては、診療報酬制度の整備が追いついていないのが現状です。AIサービスと医療機器を組み合わせた場合、非常に高額な初期費用が発生することもありますが、診療報酬によってその投下コストを確実に回収できるとは限りません。

医師の働き方改革という観点では、医療機器としての目的を有さないAIサービスから活用を始めることも有効です。画像診断支援AIのようなサービスは、医薬品医療機器等法に基づき規制される医療機器プログラムに該当します。一方で、電子カルテや院内業務支援プログラムなどは規制の対象外であり、医療機器としての扱いを受けません。

こうした事務関連のAIサービスは、AI医療機器と比べて安価に導入できるため、医療機関で働く全スタッフの業務効率化に貢献します。

国内病院における医療AIの活用事例

医療AIサービスは、高度な技術を有する企業が大学や病院と連携しながら、開発を進めています。また、Azure OpenAI Serviceのような汎用的なAIサービスを活用し、多角的に院内DXを推進している病院もあります。

ここでは、医療文書作成支援AIサービスの研究開発事例や、院内DXの具体的な取り組みを紹介します。

治療経過サマリの作成時間が半減

日本電気株式会社(NEC)と東北大学病院が共同で取り組んだ事例です。医師は、治療経過サマリをはじめとする医療文書の作成に多くの時間を費やしています。一方で、医療現場における生成AIの活用には、精度の向上とリスクの軽減が求められています。

この課題に対し、NECはカルテの構造化と文章生成に異なるLLM(大規模言語モデル)を使い分けることで、精度の向上とリスクの軽減を両立しました。試作システムは、東北大学病院の医師10名による評価により、治療経過サマリの作成時間をおよそ半分に短縮できることが実証されています。

この実証結果をもとに、NECは医療文書作成支援AIサービス「MegaOak AIメディカルアシスト」の製品化を実現しました。一連の取り組みは、2024年度人工知能学会「現場イノベーション賞 金賞」を受賞しています。

DXを多角的に推進

愛媛県四国中央市のHITO病院では、2017年から「未来創出HITOプロジェクト」を実施し、院内のDXに積極的に取り組んでいます。生成AI活用の基盤として、全常勤スタッフにiPhoneを支給したほか、院内ネットワークとMicrosoft Azureをセキュアに連携させ、患者情報を匿名化した上で生成AIによる分析を可能にしました。

こうした基盤を活用した具体的な取り組みは、以下の通りです。

  • iPhoneにプリインストールしたCopilotアプリを活用し、Web検索や院内情報から回答を自動生成
  • 糖尿病チームが作成したレシピや情報をSharePointに格納し、Copilot Studioを活用して食事アドバイス用の生成AIチャットボットを作成
  • Copilotのチャット自動翻訳機能を活用し、外国人看護補助者の夜勤単独勤務を可能に
  • Azure OpenAI Serviceと電子カルテの情報を用いて症状詳記を自動生成し、医師や医師事務作業補助者の負担を軽減
  • Copilot for Microsoft 365を活用し、院内で行われるTeams会議の議事録やToDoリストを自動作成、チャットでスムーズに共有

AIに関連する他のトピックが気になる方はこちら!イッツコムが詳しく解説

【クラウドAI×医療】クラウドAIとは?メリットや導入時の注意点を知り業務に生かす

クラウドAIは医療現場に革新をもたらしています。画像診断の精度向上や電子カルテの効率化、患者データの安全な共有を支え、医師の負担軽減と迅速な治療判断を実現するものです。遠隔診療や個別化医療にも活用が広がり、医療の質を高める次世代の基盤として注目されています。

以下の記事では、クラウドAIについても詳しく解説しています。

【関連記事:クラウドAIとは?メリットや導入時の注意点を知り業務に生かす

【外国人患者×AI】AI翻訳とは?RBMT・SMT・NMTの違いやサービスの選び方

AI翻訳は医療現場で言語の壁を解消し、グローバルな患者対応を可能にします。診療記録や研究論文の迅速な翻訳、外国人患者への多言語サポートにより、医療の質と効率の向上を支援するものです。専門用語にも対応するAI翻訳は、安全でスムーズなコミュニケーションを支える重要なツールとして注目されています。

次の記事では、AI翻訳についても詳しく解説しています。

【関連記事:AI翻訳とは?RBMT・SMT・NMTの違いやサービスの選び方

まとめ

病院やクリニック向けのAIサービスは、画像診断支援や医療文書作成支援など多様な領域で研究開発が進んでおり、医師の働き方改革など医療機関の課題解決に役立ちます。

クラウドAIサービスによる遠隔診療や個別化医療、AI翻訳による外国人患者の対応なども、医療機関を取り巻く環境の変化に対応するための重要な取り組みであり、今後の動向を注視する必要があります。

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