感染症を未然に防ぐために
東日本大震災の後の3月31日頃に、私は石巻の渡波小学校にトイレを設置するために入りました。どういう状態かを調査してから設置するのですが、この学校では1階が全部津波でやられていたため、1階は体育館だけが避難所になっており、2階3階の教室を避難所として使っていました。1階の水洗トイレは使えないように全部ロープが張られていたのですが、雨の日や夜などは、外にある仮設のトイレには行かずに、使用禁止になっているトイレで排泄している方が多くいたそうです。私がトイレを設置するために回っていたら、マスクと手袋と新聞紙をたくさん持って被災されたお母さんたちがトイレに入っていって、意を決して手で排泄物を取り除いている場面に出会いました。それを知った石巻赤十字病院の医師たちが、市役所の環境課の方に行かれて、「こんなことをさせて、感染症のアウトブレイクが起きるかもしれない。その怖さを分かっているのか」ということを訴え、「とにかく手洗いと自動ラップ式トイレを用意するので、僕たちに任せてくれ」ということになりました。この時、市役所の環境課の方たちも被災されている状況で、ご遺体をいったん埋葬されるという現場の受付などもされている中で、いろいろなことに手が回らない状態でした。私たちは「ラップポン」をすでに政府から発注を頂いていたので、石巻の方に、とにかく感染症が出る前に何とかトイレを設置して使ってもらおうということで急いで設置をしました。
土足での避難所生活の危険性
熊本地震の際の阿蘇の避難所では、通常の避難所は靴を脱ぐのですが、ここでは靴を脱がないでトイレも土足、体育館の中にも土足で入って、そこでものを食べ、排泄もし、溜まった水で手を洗うような状況で、感染症が今にも出るような状況でした。本当はすでに遅かったのですが、隔離するためにも、弊社のトイレ「ラップポン」を持って行って、部屋を作って個室のトイレを作りました。
実際被災地にトイレを設置するために入って行っても、不特定多数の方が「ラップポン」を使うわけにはいかないので、やはりお年寄りを優先して設置をします。一般の人たちは普通のトイレを使用して、自衛隊が運んできた水をトイレに流し、アルコールか、そこにあった水で手を洗うことになります。土足で出入りする人もいるので、結局トイレを流した床の水が土足でついた状態で体育館の中に入っていくわけです。その中で皆さん食事をもらってご飯を食べるというような光景が日々あって、結局そこに感染症が出たわけです。そこで、どうしたかというと、200人ぐらいいた避難所から全員をいったん外に出させて、塩素で床を拭いて、ブルーシートを床に全部敷いて土足厳禁にしました。最近では、避難所はほぼ土足厳禁で、私がその後行った長野の方でもそうでしたが、靴を脱いで皆さん避難所に入られています。どうしても土足で入ると外の土が入ってきて、乾燥したら粉っぽく砂だらけになりますし、トイレの水が付いて濡れたままですと、どうしてもそれが手に付いたり体に付いたりしますので危険です。
感染症がすでに出てしまった避難所では、外に設置したトイレは感染症の方専用のトイレに指定したり、「ラップポン」の場合は、室内では要介護の方や子どもなどを隔離して別室で使ってもらったり、その現場に合わせて対策をしていましたが、なかなか十分には間に合っていないのが現状でした。