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防災インタビューVol.148

情報を防災に生かして命を守る

放送月:2018年1月
公開月:2018年7月

山﨑 登 氏

国士舘大学
防災・救急救助総合研究所 教授

FMサルースで放送された音源をお聞きいただけます。

温暖化による降雨の変化

私は、去年の夏までNHKで解説委員をして、その前は災害を担当する記者をしていましたが、30年ぐらい前は「1時間に100ミリ以上の雨が降りました」という原稿を書いた記憶がありません。最近は、台風が来ても、梅雨時でも秋雨でも、夏の雷雨の時でも、ちょっと雨が降ると全国どこかで「100ミリの雨が降りました」みたいなニュースがすぐに出てきます。私たちの日常の感覚で「どしゃ降り」というと、皆さんは何ミリぐらいの雨だと思いますか?
私が気象庁で取材をしていた時に、実際に外で降っている雨が何ミリぐらいかを聞いて、傘を差して外に出てみたり、降雨実験室では「1時間何ミリの雨を降らせます」と言ってそこで体感することができました。その体感で言うと、1時間に20ミリから30ミリの雨が降ればもう「どしゃ降り」です。50ミリの雨が降ると、車を運転していてワイパーを目いっぱい動かしても、雨のすだれで前がちょっと見にくい感じです。100ミリぐらいの雨になると、もう傘に当たる雨音で、隣の人と話ができないですし、雨の中に立っていることに恐怖を感じるような雨になっているはずです。そういう雨が最近頻繁に降るようになりましたし、昔のように西日本だけではなくて、東日本、北日本でも降るようになりました。「どうしてだろうか?」というのが気象学者にとっても大きな疑問だったのですが、最近「これじゃないかな」と言われるようになったのが、地球温暖化の影響です。地球温暖化というのは、人間活動の影響で二酸化炭素みたいな温室効果ガスが大気中に広がって、地球の周りをオブラートでくるんだような感じになって、暖まった空気が天に抜けていかなくなります。それで気温が少しずつ上がっていくのですが、この現象が起きると少しずつ暖かくなっていくのかなと思っていたら、「地球温暖化が起きると気象現象が極端化する」ということが分かってきたのです。つまり一つ一つの気象現象が極端になり、雨が降る時には猛烈に降る、降らない時は全く降らない、晴れる時にはカンカン照り、寒い時も猛烈に寒くなったりするというのが、その地球温暖化の気象現象の極端化で、それでも平均してみると少しずつ地球の温度が上がってきているというのが地球温暖化だということが分かってきました。
私たちが防災を考えていくときに、最近私たちの周りの気象が変わってきているということをはっきりと自覚しないといけないと思います。最近、洪水の被害も大きくなっている傾向にあります。例えば鬼怒川が決壊して、住宅が押し流される映像がずっとテレビで生中継されましたし、広島で平成に入って最大の土砂災害も起きました。2018年には、九州北部豪雨もありました。そういう雨を見ているとやはり土砂災害や洪水が大きくなる傾向が見えています。その背景にあるのがやはり「雨の降り方が変わってきた」ということです。雨の降り方が変わって、災害が変わってきたのですから、今度は私たちの意識を変えないと被害は拡大する一方です。それがやはり大事だと思います。

防災の始まり ~まず自分の暮らす地域から~

同じ地震であっても道を挟んで向こう側の家と手前の家では震度が違うということがありますが、同じ町内であったとしても、地盤によって揺れの大きさが変わります。昔、川だったり、沼だったりした所はやはり揺れが大きいですし、宅地を造成する時に、切土と盛土と言いますが、切った所よりも盛った所の方が、揺れが大きいです。私は地盤の専門家に、「100年も200年も前に盛った所は固くなっているのではないのですか?」と聞いたら、「地盤が固くなるためには万という年月がかかる」というふうに言われましたから、江戸時代ぐらいの埋立地はまだまだ駄目だということです。
それから、建物によっても地震の揺れの大きさは違います。例えば、マンションの上の階と下の階を比べると、上の階の方が大きく揺れますし、上の階の方が揺れ幅は大きくなります。そういうことを知っているか知っていないかということが、災害の避難にも大きく影響します。例えば土石流の危険性がある場合は、土石流というのは2階建ての住宅ぐらい吹き飛ばしてしまうくらいの力がありますから、土石流が流れて来る方向にある家に住んでいる人は、何としてもその土石流の流れ出る地域から離れなくてはいけません。川の堤防の近くも、堤防が決壊する時にその勢いで住宅が壊れることがあります。川からかなり離れている地域の人たちで、2階とか、あるいはマンションの3階以上に住んでいる地域の人たちは、もしかしたら避難所に行かなくても上の階に行けば難を逃れることができるかもしれません。つまりその地域性とか地域の条件を知っているということが避難にとってはとても大事です。ところが、最近その「地域を知る」というのが難しい時代になっています。
例えば、皆さんが運転しているときにカーナビを使うと思いますが、カーナビというのは、住所や電話番号を入れると、「次の道を右に行ってください、左に行ってください」と言ってくれて、そのうちに行きたい所に着いてしまう、とても便利な仕組みですが、あれは防災的に見るとちょっと考えた方がいいところがあります。それはなぜかと言うと、自分が南に向かって走っているのか、北に向かって走っているのか、つまり海に近い方に行っているのか、山に向かっているのか、川の近くを走っているのか、まるっきり分からなくても行きたい所に着いてしまうという仕組みだからです。地図を眺めて、「ああ、自分はこのルートを通ってこっちに行くんだな」と分かった上でカーナビを使っている人はいいのですが、カーナビだけだと、自分が一体どこにいるか分からないということが起きるわけです。だから「便利な社会というのは、その分、防災上の課題もある社会だ」ということを私たちは分かった方がいいと思います。
私は子どもの時に、雨が降った日には傘を差して、カッパを着て、長靴を履いて学校に歩いて行っていました。当時はまだ道が舗装されていないために、水たまりができていて、自動車が水を跳ね上げるので、それを避けたりしながら歩いていたのですが、今この辺を見ていても、雨の日でもハイヒールや革靴で、ちょっとした折り畳みの傘を持って歩いている人がたくさんいます。そういう水たまりのない、折り畳みの傘ぐらいで歩ける、便利で安全な町ができたけれども、もしかすると、カッパや長靴と一緒に私たちは防災意識もなくしてしまったのかもしれません。しかしながら、今は昔とは雨の降り方が変わってしまったので、もう一回私たちは防災意識を見直す必要があるのだと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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