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防災インタビューVol.1

行政が進める耐震診断、耐震改修

放送月:2006年12月
公開月:2006年12月

小川 富由 氏

国土交通省住宅局
建築指導課長

耐震改修を促進するために

阪神淡路大震災を踏まえて、平成7年の秋に耐震改修促進法という法律が作られました。
阪神の震災のときに亡くなられた方のおよそ9割が、家がつぶれたり、家具につぶされたりということで亡くなっているという事実がありまして、あの時も火事はありましたが、火事で亡くなった方は1割ぐらいで、多くの方々が建物が凶器になって亡くなられていました。今後、発生すると想定される大地震でも、やはり相当数の方が建物の下敷きや倒壊でお亡くなりになるのではないかと予測されています。阪神大震災のときの建物の被害状況を見ると、古い耐震基準で建てられた、いわゆる昭和56年以前の建物で無傷あるいは、ちょっとした被害で済んだものは3割程度しかありませんでした。残りの7割がかなり大きく壊れ、倒壊までいったものはそのうちの3割ぐらいあるという非常に大きな被害がありました。一方、いわゆる昭和56年以降の新しい基準で建てられた建物については、7割がほとんど無被害ということで、非常に大きな差があったわけです。そうなりますと古い基準で造られた建物が今後同じように大きな地震があると、同じように大きな被害を起こす恐れがあるだろうということで、これはどうしても耐震改修を促進する必要があるということで作られた法律です。
この法律は平成7年に作られて、昨年、長岡、中越の地震を踏まえて、もっと耐震改修を積極的に進めなければいけないということで改正しています。実は耐震改修法を最初に作ったときは、耐震改修は建物の安全を確保するために皆さんが積極的にやるだろうと考えられていました。しかし建築行政のルールがいろいろ複雑で、基準がよく分らなかったり、あるいは、どういう形で正しく改修が行われたかを認定していくかという手続きがしっかりしていなかったので、どちらかというと改修をする皆さん方から邪魔にならない法律を作っていきましたが、残念ながら、その後の10年で耐震改修があまり進みませんでした。中越地震の被害などを見ると、もっと国も自治体も積極的に改修を進めていく必要があるということで、耐震改修促進法を改正しました。
全国に住宅は4700万戸ありますが、そのうち耐震性が不十分な住宅は1150万戸、約25%あるという推計をしています。その他、学校やオフィスビル、そういったものも今ある建物の25%から35%ぐらいが耐震性が不十分だと考えています。もちろん住宅は、このような古い建物を壊して新しいものをどんどん造るということになれば、今の基準に合うことになりますから耐震性はずっと上がるのですが、環境問題など、いろいろな問題があって、スクラップアンドビルドで、いくらでも壊して建てられるという時代は終わっているわけです。今ある建物をいかに有効に使うかということを考えて、改修、補強をしっかりやる必要があると思っています。
耐震改修法の改正をしましたが、これにより10年後には、25%の耐震性が不十分な住宅の割合を1割以下にしたいという目標を掲げて、計画的に全国的に耐震化率を上げていこうということを今考えています。そのためにも国が耐震改修の目標を定めて、それに沿って公共団体の方は耐震改修促進計画を作っていただいて、耐震改修を進めていただきたいと思っています。もちろん耐震性が不十分な25%の建物のうち、建て替えで良くなる部分もあると思いますし、改修で良くなるという部分もあると思いますが、本当に頑張って数字を上げていかなければいけないと思っています。従来の2倍から3倍ぐらいのペースで取り組んでいただかないと、10年後に追い付くことができないと思いますが、地震がいつ来るか分からない、待ったなしの状況ですので、本当に私たちも頑張っていかなければいけないと思っています。
テレビや新聞を見て、どこかで地震があると不安だと思われる方は多いと思いますが、しばらく地震がなくなると忘れてしまうというようなところがありまして、そこをしっかり続けていくためにはコミュニティーの力、現場での力を大きくしていかなければいけないと思っています。そのためにも、いわゆる国民運動として盛り上げていければと思っています。

耐震診断と耐震改修

建物が耐震性があるかどうかをチェックするためには、耐震診断が必要です。マンションなど図面や構造計算書が残っている場合には、かなり簡単に診断ができるのですが、そういうものがないと、少し大掛かりに調査をしなければなりません。戸建ての住宅、木造の住宅などは、建てられてから長期間たっていますと劣化して、木が腐ったり弱くなったりしている部分もありますので、そういう所もつぶさに見ていく必要があります。診断をするには、まず基礎や土台などの地震の力が直接入るような所がしっかりしているかどうかを見ます。地震の力というのは横揺れですので、押したり引いたりするような力ですから、それに一番抵抗するのは壁の部分です。木造の住宅ですと筋交いがあるかどうか、窓のないしっかりした壁がどれくらい入っているかということがポイントになりますので、そういう壁の量を調べて、寸法を測って、計算しておくことが一番のポイントになります。さらに地震の際は横から押されますので、頭が重いと非常に押される力は大きくなります。端的に言えば、住宅の屋根が重いと地震によって押される力が非常に大きくなりますので、屋根の造りがどうなっているのかを見る必要があります。例えば、瓦をふくときに土などを入れながら瓦をふいているような昔の工法を採用していると、非常にウイークポイントになりますから、そういったものが実際どうなっているのかを見てもらい、その結果を総合して、どの程度耐震性があるかを決めていく、測っていくことになります。そして一番大切なのは、その結果を見て、耐震性が悪かったら補強や改修をぜひ考えていただきたいということです。
もちろん古い建物とはいっても造りがしっかりして、筋交いや壁などがきちんと入っているということであれば耐震性もある場合もありますから、古い建物だから全て危ないというわけではありません。しかし古い建物の場合は、耐震性を見るときにしっかり手元に結果を持って、どうするのか、どうなのかということを一度しっかりと診断してほしいと思います。

耐震改修の方法

戸建て住宅を中心にお話をすると、まず建物が重いと地震の力に対して大きな力が建物に働きます。従って、例えば重い瓦屋根を軽い鉄板ぶきの屋根にふき替えると、これは建物にかかる力を非常に減らすことができるわけです。それと同時に、地震の横の力に抵抗するためには壁が非常に重要ですので、そういう地震に負けない、抵抗する壁を増やすことが必要ですが、ただ増やすだけでは十分でなくて、バランスよく増やすことが重要になります。一方だけ吹き抜けていて柱だけで、残りの半分が壁が多い建物ですと、地震で揺すられたときに建物がねじれる現象が起こります。ねじれると一部に力がかかってしまって、非常にウイークポイントとなって、それが原因で建物が壊れてしまいます。壊れ始めると、どんどん壊れて、最終的にバタンと倒れる、つぶれるということが起こりますので、壁を入れるにしてもバランスよく入れることが必要です。その他に柱とか梁をきっちり強く結ぶとか、古い建物ですと基礎の部分がお寺で見られるように大きい石の上に柱がそのまま直接のっている場合がありますので、そうなると土台から外れて建物が飛んで行ってしまうことがあり得るので、基礎を補強するという方法も必要です。
現在は耐震改修の必要性が叫ばれて、いろいろ工法が開発されています。例えば、金具をくぎで打ち付けることによって、かなり強度を増すこともできますし、簡単に1枚のボードを貼り付けることで随分壁を補強できるというような、いろいろな方法が開発されてきています。従って、改修工事といっても本当に家を全部、あるいは半分ぐらい壊して、もう一度造り替えるというようなイメージではなくて、もっと簡便に補強する方法もどんどん増えていますので、自分に合った形を選んでいただくことが必要だと思っています。それから、ただ耐震のための改修だけではなくて、例えば今後ライフスタイルがどういうふうに変わっていくかを考えた上で、介護が必要になるというようなことも念頭に置いて、車椅子が家の中で通れるように直しておくとか、キッチンを使いやすいように直しておくとか、そういう住宅のリフォームと一緒に考えていく、取り組んでいただくというようなアイデアもあるのではないかと思います。
高齢者の家は古い家であることが多いので、「もうそれほど長くないんだから、わざわざお金を掛けてまでそんなことをする必要がないよ」「自分はもう老い先が短いので、死んでもいい」というようなことを言う方もいますが、実はその建物が壊れると家の前の道路をふさいでしまったり、子どもたちの通学路が使えなくなってしまったりということが起こりますし、建物がつぶれてしまうと非常に火災に弱くなるということもあります。その家で火が出なくても周りからの火をもらいやすくなります。そういうことも考えると、これは個人だけの話ではなくて、耐震補強をやっていただかないと、周りの方が皆迷惑をするということも、ぜひご理解いただきたいと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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