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防災インタビューVol.8

ファーストエイドを身につける

放送月:2005年5月
公開月:2007年3月

岡野谷 純 氏

日本ファーストエイドソサエティ 代表

実際の場におけるファーストエイド

JFAS九州地区のインストラクター(一部)

ファーストエイドとは、応急手当のこと。大切な家族やお友達のいざというときに、何でもいいからお手伝いをしてあげたい、これ以上悪くしないためにも、ぜひ学んでいただきたいスキルである。ということを前回お話しました。

JFASではそんなファーストエイドを楽しく学び、たくさんの人たちに広める活動をしています。写真は九州地区のファーストエイド・インストラクターの皆さん(の一部)です。楽しそうでしょう?

さて、ファーストエイド実践の場で一番大切なことは、「無理をしない」ということです。ファーストエイドや心肺蘇生法(人工呼吸や胸骨圧迫)というものは、学んだら全部完璧にやらなければならないというものではないのです。

例えば、誰かが倒れたとき、声をかけて、呼吸をみて、なければ人工呼吸をして、胸骨圧迫(心臓マッサージ)をして・・、と考え始めると、不安になりますよね。ずっと昔に習ったことだし、ちゃんと覚えているかしら。どのくらい吹き込むんだっけ? どのくらい押すんだっけ? 何回押すんだっけ? 何かぬかしていないだろうか?
ダメだ。忘れてる。もし間違ったら? この人がもっと悪くなっちゃう? 訴えられるのではないか?

イベントでの心肺蘇生法デモンストレーション

そんな風に考えが膨らんでしまったらさあ大変。どんどん不安は募り、ついには「じゃあとてもできないや。」「何もしない方がいいのかも・・」という方向に結論付けて、多くの人々が現場で手をだしてくれないということが、多くの機関の行なっているアンケート調査からわかってきました。

「自分にできることだけ、やってあげよう」と思って戴ければ満点です。実際に、人間できることしかできません。

誰かが倒れたら、とにかく119番通報をする。そのくらいならできますよね。自分が不安なら、早くにプロフェッショナルを呼んだほうがいいのです。119番通報をするのに、倒れた人の容態を少しは具体的に伝えた方がいいと思ったら実際に近づいて様子を見てみればよいのです。

どんな風に倒れたのか、ケガをしていないか、出血はしていないか、熱がありそうか、逆に真っ青(或いは真っ白)な顔をしていないか、周囲から見てもわかる分だけを伝えられればよいです。

倒れるときに、胸を押さえていた、頭を押さえていた、大きな声を出した、崩れるように倒れた、なども大きなポイントです。

感染防止用具

なお、患者さんに近づく前に、かならず周囲の様子も確認しましょう。急に近寄って二次災害にあわないように、あなた自身の身を守ることも大事です。

道路なら交通整理を誰かにお願いする、出血をしているなら血液に触らないなど、安全を確保した上でお手伝いをしてください。感染防止用具を携帯し、いざというときに使えるようにしておくと安心です。

119番通報してプロを呼んだけれど、とりあえずもう少しできることがあるかもしれない。と思ったら、次にできると思うことをしてみてください。呼吸をしていますか? 耳を近づけて呼吸の音を聞いてみる、胸やお腹が上がっているか確認をする。そんな方法がありましたね。思い出した範囲でケアをしましょう。

倒れたのが自分の家族や子どもだったら、何でもやってあげたいと思うでしょう。逆に、自分がそのような状態になったとき、誰でもいい、知っている人に助けてもらいたいと思いませんか?

心肺停止(呼吸や心臓が止まって知った状態)になってしまった患者さんは、ほんの3~4分で脳が元には戻らないようなダメージを受ける恐れがあります。一刻の猶予もない危機的状態かもしれません。そのときにはすかさず心肺蘇生法を施すことが必要です。

そのときのために、ファーストエイドや心肺蘇生法を学んで欲しいと思います。できることを増やしてください。また忘れる前に復習しておいていただければ、いざというときに安心です。

そして、周囲に人がいるなら自分で全部やろうと思わないで、周りにもお手伝いいただきましょう。
自分が倒れたときに安全安心なように、家族やお友達にも声をかけて、一緒に習っておくと良いですね。

いざというときのために

では、実際にどんなことをするのか、少し医学的なお話もしてみましょう。
突然、誰かの心臓が止まってしまう、という事態に直面したら、どのようにしたらいいのでしょうか。

実は、隣の人の心臓がいつ止まったのかを知るなんてことは普通の生活の中ではできません。誰かが胸を押さえて崩れるように倒れたのを目撃したときに、「もしかしたら、この人は心停止の状態なのかもしれない」と疑うことができるだけなのです。

心停止とは、心臓がポンプの役割をできずに血液を体中に送り出せない状態をいいます。ですから、よくテレビでみる、心臓の波が「ピーッ」と一直線になる状態(心電図)だけを心停止というわけではないのです。

心停止の心電図

ちょっと本格的な心臓のお話ですが、図にある3つの心電図波形が医学的にいう「心停止」の状態です。下の二つは心電図が動いているし、これなら心臓も動いているだろうと思いますよね。

ここでポイントは、心停止の判断は、心臓が動いているかどうかでするのではなく、実際にこの心臓が血液を体に送り出せているか、ということ、つまり心拍があるかどうかでするということなのです。太い血管の通る左右の喉のあたり(総頸動脈:そうけいどうみゃく)で脈拍を測ってみて、なければ心停止の状態であるということなのです。

ところで、心臓はテレビで見るほどいきなり止まってしまうわけではありません。通常、私たちの心臓はドックン、ドックン、ドックンとしっかり元気に動いています。そのドックン、ドックンという動きが、あるとき突然おかしくなってしまうことがあるのです。ドクドク、ドク、ドクドクとリズムも悪いし元気もなくなってしまう。その状態が続くと、徐々に波も小さくなり、心臓はけいれんを起こした状態になってしまうのです。図の真ん中の絵にあるような心臓は小刻みに震えるだけで、血液を送り出せません。この状態を心臓が細かく動く、と書いて、細動(さいどう)と言います。血液は細胞が生きるために必要な酸素や栄養を運んでいます。身体に血液が回らなくなってしまうと、一番大切な脳にも酸素がいかなくなってしまいます。脳はダメージを受けると元には戻らない器官です。3~4分で脳の細胞は死んでしまいます。ですから、その間になんとかしなければいけないわけです。

そんなことを言われても、皆さんは自分の周辺でそんな人はいないよ、と思われることでしょうか。実際に、どのくらいの頻度で心停止の方がいるのでしょうか。

日本人の死因(平成17年度厚生労働省)・心疾患からの死亡の内訳(平成17年度総務省)

心臓病・心疾患は日本人の三大死因のひとつです。トップは癌ですが、がん患者さんは突然街中で倒れて亡くなることは殆どありません。次に多いのが心疾患なのです。心疾患での死亡者は年間にだいたい17万人ほどいらっしゃいます。その中で、10万人ほどは屋外で倒れ、救急車で病院に運ばれる方だそうです。

その10万人のうち、現場に到着した救急隊が「この方は心臓突然死だろう」と判断した方が半分の5万人強にも上っています。

心臓突然死とは、今まで心疾患も何もなかった方が、突然ばたっと倒れて心臓が止まって亡くなってしまうという状態の死をいいます。朝、「行ってきます」と元気に家を出たお父さんや子どもが、職場や学校で突然胸を押さえて倒れ、そのまま亡くなってしまうのです。5万人を365日で割ると、実は1日100人以上が心臓突然死で亡くなっているのです。

高円宮さまがスカッシュのゲーム中に亡くなったというニュースは国内を駆け巡りました。ワールドサッカーの選手やマラソン中のランナーの死、愛知万博での突然死など、本当に先ほどまで元気に運動や会話をしていた方が、原因もわからずに死亡しているのです。あなたの身近に起こらないとはいえないということをご理解いただけるでしょうか。

これは何とかしなければいけないということで、人工呼吸や胸骨圧迫(心臓マッサージ)が市民の間でも広まってきましたが、実は最近、もっと効果的な治療用具が手に届くところに設置されはじめています。AED(Automated External Defibrillator、自動体外式除細動器)と呼ばれる器械です。

テレビの中で、医師が患者さんの胸に箱のようなものを押し当ててドン!と電気ショックを与えているシーンを見たことがある方は多いのではないでしょうか。心停止にはこの電気ショックが一番いい治療法だと言われています。このAEDがとても使いやすくなり、2004年7月、日本でも一般市民がAEDを使えるようになったのです。

先ほど心臓が震える状態を心室細動(しんしつさいどう)と表現しました。電気ショックはこの心室細動を止める、つまり除く器械なので、除細動器といいます。お医者さんは、ご自身で心電図を解析し、心室細動を確認してから除細動しますが、AEDは医師がするべき心電図を読む作業を器械がしてくれます。除細動が必要ならショックに必要なエネルギーを充電し、使う人に「ショックボタンを押してください」とメッセージをくれます。

本当に簡単な作業で扱える器械です。心臓にショックを与えるのですが、それは手術で胸を切り開いたりせず、皮膚の上から与えるので、名称は「自動対外式除細動器」と呼ばれるのです。

でも、「自動体外式除細動器を持ってきてくれ」と覚えるのは難しいですね。そこで、英語の頭文字をとって「AED」と呼んでいます。

AEDの使い方

空港に設置されたAED

誰かが倒れたのを目撃したときには、まずは自分の安全を確認します。OKならその人のもとに近寄り「大丈夫ですか?」と声をかけます。

返事がなくて大丈夫じゃなかったとしたら、誰かに119番通報を依頼して救急車を呼びます。ここでもう一人別の方に「あなたはAEDを持ってきてください」と依頼します。近くにAEDがあれば、目立つような看板があります。

空港や駅で写真のようなマークをご覧になったことがありますか。公共施設やスポーツクラブなど、AEDを設置している場所はどんどん増えています。ぜひ興味をもって探してみてください。

AEDが到着するまでは、先ほどお話した人工呼吸や胸骨圧迫を続けて、少しでも身体の中、特に脳に血液がうまく回っているような状態をつくっておきます。

AEDが到着したら、まずフタを開けます。中にはボタンが2つか3つしかついていません。緑のボタンを入れると、その後はAEDが状況やすべき行動を伝えてくれます。

最初は「電極を貼ってください」といわれます。袋に入った電極パッドを取り出し、パッドに書いてあるとおり、右側の胸(鎖骨の下)と左下(脇の少し下)にシールをはがして貼ってください。心臓をはさめばいいのであまりシビアに考えず、だいたい写真のように貼れていればOKです。電極が貼られると器械が感知して、心臓の状態を確認するために、自動的に心臓の動きを測り始めます。そのときにAEDが「解析をするのでちょっと離れてください」と言います。患者さんから離れてください。AEDは心電図を解析し、電気ショックをかけるべきを判断します。

AEDのパッドに書かれた貼るべき位置・AEDは裸の体表に貼ります

電気ショックをかけなければならない状態であると判断したら、機械が「電気ショックをかけます。離れてください」と言って、充電を始めます。実際に必要なエネルギーが蓄えられるまでちょっと時間がありますがその間に再度全員が離れているか確認をしてください。電気ショックをかけるのですから、患者に触れていると感電する可能性がありますので、全員が離れているかを慎重に確認します。充電が済むとAEDは「充電が完了しました、点滅しているボタンを押してください」と言いますので、電気ショックのボタンを押します。それだけです。

AEDの操作はどなたにもできます。ただ、全然知らなくて使えるかと言われると、ちょっと怖いですよね。やはり3時間ぐらいの勉強はしておいて戴きたいと思います。電気ショックをかけた後、変化が無ければ人工呼吸と胸骨圧迫を続ける必要があります。もし心臓のリズムが戻ってきたとしても、意識がなければ声をかけ続けなければならないかもしれない。いつまた心停止になるかわからない状態です。

・・というわけで、応急手当てや心肺蘇生法の勉強にAEDの訓練を含めて一緒に勉強しておいて欲しいですね。AED講習はJFASだけでなく全国の消防署などでも開催されています。ぜひ機会をみてご家族みんなでチャレンジしてみてください。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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