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防災インタビューVol.9

自分の命、家族の命を守るためにできること

放送月:2004年1月
公開月:2007年5月

目黒 公郎 氏

東大生産技術研究所 教授

自分や家族の命を守るために

最後に、一番言いたいことをもう一度確認します。地震防災で最も重要なことは、災害イマジネーションの向上と、あるレベルの被害抑止力を確保することです。最近の内外の大規模な地震災害を見れば、どんなに優れた事後対応システムを持とうが、復旧・復興戦略を持とうが、直後に発生する建物被害とそれを原因とする人的被害を大幅に減らすことは不可能だということです。兵庫県南部地震では、全半壊25万棟、一部損壊39万棟の揺れによる家屋被害によって5500余人が地震直後に命を落とし、これがその後の復旧・復興時の様々な問題の本質的な原因になったということです。この教訓を踏まえて、これまで我々が直面してきた問題について、少しお話ししたいと思います。

私は防災研究を実践主義、現場主義をモットーに、これまで実施してきております。マスコミの方もそういうことをおっしゃって災害報道されるのですが、その中で誤解があるかなと思うときが何度もあったので、それを紹介したいと思います。

マスコミの方も実践主義、現場主義ということで、「現場を見なきゃ」ということをおっしゃる。それで現場に行って、インタビュー調査、アンケート調査等々をされるわけです。その結果、出てきたものが何かというと、「被災地では多くの方がきれいな水を手に入れられなくて困っていますよ」とか、「避難所の運営法を事前に考えておかなかったということが、多くの問題を生んでいますよ」というような教訓が出てきます。こういう教訓を聞くたびに、私が繰り返し申し上げてきたことがあります。

それは何かというと、あなたがその教訓を得る手段として使ったアンケート調査やインタビュー調査の中で、「あなたは、今回の地震で亡くなった方の声を聴いていないということはご自覚されていますか」ということです。つまり、ご自身が今回の地震で亡くなったご本人だった場合に、何を最大の教訓として、自分の最も大切な遺族、仲間に伝えたいか、と尋ねられて、「水の確保が重要だとか、避難所の運営法が重要だ」と本当に答えますか、ということです。自分は建物が壊れて死んだのであれば、「家族よ、まず建物の対処をきちんとやりなさい」と言うでしょう。この「声なき声を聞く」姿勢がないと、一番重要な教訓がどこかに飛んでいってしまいます。被災地にいらっしゃる方々だから、被災者であることは間違いないでしょうが、命に別状はなくて、大きな声で文句を言えるくらい元気のある人たちの声を聴いて、これが災害の現状ですよ、実態ですよと伝えているマスコミの方々、それで本当にいいのでしょうか、という問題提起です。

皆さんには、自分たちの生活を守るための場としての住まいや住宅が、災害時には凶器となってあなた自身を襲って、場合によってはあなたの大切な家族やご自身を死傷させてしまうということを、もっときちんと分かっていただきたいのです。その状況から自分や家族を守るためにはどうしたらいいかというと、一番大切なことは、きちんと耐震診断を受けて、耐震補強をすることです。あるいは家具をきちんと留めることです。

それを実現するためにはどうしたらいいか。実はそんなにお金もかかりません。皆さんの周辺にそれを相談できる窓口もたくさんあります。それをまずご理解ください。例えばこの地域でしたら青葉区の区役所に行かれれば、その窓口がありますし、建築士協会さんがあります。あるいは、それ以外もちょっと調べていただければ、相談していただけるような場所がいっぱいあるわけです。そういうところにまず出向いていただいて、自分の最も大切な生活基盤を守る、家族を守るということを実現していただきたいと思います。それをしないでは、「私のところはいっぱい水や乾パンを用意しているから、毛布を用意しているから大丈夫だね」ということにはならないということです。

絵本「地震のこと はなそう」監修:目黒公郎

防災上の最も重要な教訓として、私が皆さんにいつも伝えたいと考えていることは、「地震で亡くなった人がどういうことをおっしゃるだろうか」という「声なき声を聞く」ことです。そして次に、「見えなかった事実を見る」ことです。兵庫県南部地震は1月17日の発災、冬の災害だったわけですが、あれが夏の災害だったらどんなことが起こっていただろうか、曜日や時間帯が変わったらどうか。過去の災害や、異なった地域や条件下での災害の教訓を有効活用するために必要なことは、教訓の一般化、総合化です。つまり自分の防災対策に有効活用するために、自分の置かれた様々な条件に置き換えて教訓を利用できるようにする努力です。これには災害イマジネーションが不可欠です。

自分が地震で亡くなってしまう状況を想像してみてください。何を最大の教訓として遺族に、大切な仲間たちに伝えたいですか?

防災においては、「自助・共助・公助」が重要ですが、「自助」のない「共助」や「公助」は大幅な無駄を生みます。自然災害に関しては、市民に十分な量と質の情報を開示し、自分の置かれた環境やリスクを十分認識してもらうことが重要です。市民は適切な情報に基づいて、「自助」で事前対策を講じるべきですし、「共助」や「公助」も、「自助」を支援し誘発する仕組みになっていることが重要です。事前対策で最も重要なことは、言うまでもなく既存不適格建物の耐震補強です。これが地震大国で現在進行中の地震多発期に暮らす皆さんが自分と家族、そして大切な財産を守るために最も重要なことなのです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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