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防災インタビューVol.20

来るべき災害に負けないように、足下を見て我が身を正そう!

放送月:2007年8月
公開月:2008年2月

福和 伸夫 氏

名古屋大学大学院教授

過去の地震の歴史

ここで地震の歴史を勉強してみたいと思います。私は今、名古屋に住んでいますが、名古屋をはじめとする東海地区というのは、100年位の間隔で大きな地震に見舞われてきました。3回前は1707年に宝永の巨大地震が来ました。このころ、世の中はどうだったかということを考えてみましょう。1702年に赤穂浪士の討ち入り事件がありました。翌年、1703年に元禄の関東地震が発生しました。これでお元禄の豊かな時代は終わっていきました。そのころは生類憐れみの令の時代で、お犬様が大事にされていました。この令は地震のあとに終わりました。その4年後に東海地震、東南海地震、南海地震が1日で起こってしまうという巨大地震がありました。それが、今からちょうど300年前の10月28日です。この地震の時に、紀州藩の藩主だったのは8代将軍徳川吉宗です。彼が紀州藩の藩主だった時にこの地震がやってきたのです。この宝永の巨大地震の49日後、今度は富士が大噴火をしました。これでお江戸は大変なことになりました。飢饉も起き、その後、吉宗がお江戸に出て行って、享保の改革を成し遂げて何とか持ちました。これが3回前です。

2回前は1854年の12月23日に東海地震が起きました。その32時間後に南海地震が起きました。そしてその翌年、安政江戸地震、江戸直下の地震が起きたのです。ちょうどそのころ1853年に日本にやって来たのはペリーです。ペリーがやって来た上に、立て続けに地震が来て、社会は大混乱しました。そして1868年に、江戸時代から明治時代に代わりました。そういった社会の大きな節目に地震が起きているような気がします。

次に、1923年9月1日には関東大震災が起き、10万人の方が亡くなりました。地震が起きる前は大正デモクラシーの時代でした。地震での経済被害も大変で、当時の国家予算の3倍のお金を失いました。その上、その時に出した震災手形が、その後4年後に不良債権化して、金融恐慌を起こしてしまいました。2年後には、1925年に北但馬地震、その年に治安維持法、1927年に北丹後地震、翌週、金融恐慌、1930年に北伊豆地震、翌年31年に満州事変が起こりました。そして33年に三陸沖での地震。36年に2.26事件、37年に日中戦争、41年に太平洋戦争、43年に鳥取地震。44年12月に東南海地震が起こり、名古屋の軍需工場はバタバタとやられてしまいました。そして翌週から空襲がスタート。そのちょうど1カ月後、1月13日に三河地震。これが立て続けに起きて、戦争継続能力を失ってしまいました。そして、その夏に敗戦、翌年に南海地震、そして翌々年に福井地震が起こりました。どうも戦争が始まって、戦争が終わったことと、地震の発生って関係があるように思いませんか?

そのように考えると、私たちの周辺は1995年から何だかにぎやかです。神戸でも、鳥取でも、新潟でも、福岡でも、能登でも地震が起こり、そしてまた新潟です。着々と本ちゃんの準備を整えている気もします。関東の首都直下地震も、東海、東南海、南海地震も心配です。この状態でこれらの大地震が来ると、今の国家予算の3倍弱、200兆円ぐらい失うかもしれないと、国の報告書には書かれています。その時、この国を大混乱に陥れない自信が皆さんにはありますか? これらの地震によって、日本の国そのものがなくなってしまうくらい大変なダメージを受けます。だからそのためにも、被害を圧倒的に減らしておかないといけないのです。

防災教育の重要性

ここで、防災教育の話をしてみたいと思います。今、ある程度の年の方は、ひょっとしたら現役時代に地震と巡り合うことなくリタイアできるかもしれません。でも逃げることができない、必ず巻き込まれてしまう年代の人たちもいます。それは今の子供たちです。首都直下地震の起こる確率は、これから30年で70パーセント、東海地震は参考値ですが87パーセント、東南海地震は60パーセントから70パーセントと言われています。神奈川の方々は、これらの地震で必ず強い揺れに見舞われます。特に今の子供たちは、彼らが現役時代にこれに巡り合ってしまいます。その時、彼らが一番頑張って日本を立て直さないといけません。だからこそ、その時に必ず地震に出合う彼らを、今、しっかり教育しておく必要があります。しかしそれは残念ながら、今の親ではなかなかできません。私もそうですが、右肩上がりの高度成長期に育っていて、大きな災害と一度も出合うことなく、非常に甘えて育ってしまいました。僕の次の世代は、豊かな時代になった後に成長した人たちです。今の子供たちの親御さんの世代です。戦前に生まれた世代の人たちと同じようなたくましさを持たないと、今の子供たちは大きな災害の中で生き抜いていくことが難しいように思います。事前に被害を少なくすると共に、災害後に逞しく生きるために、今、防災教育がとても大事です。

防災教育の基本は、生きる力を授けることです。生きる力を持つためには、敵に負けないことが基本です。そのためには、敵の姿を知らないといけません。敵の姿を知るためには、例えば理科の時間に、なぜ地震が起きるのか、そして、われわれの国では必ず地震が起きること、地震とうまく付き合う必要があるということを、ちゃんと理解すること。それから、私たちの国がどういう歴史をたどり、災害とどう向き合ってきたかを知ること。自分たちの住んでいる町が、どういう弱い点を持っているかということを知ること。これは社会の時間です。そして体育の時間には、いざというときにたくましく生きる体力、人を救う力を身に付けることができます。家庭科の時間、これは、わが家の備えをする一番大事な時間です。家具の固定など家庭内の安全対策を学びます。耐震化もそうです。非常食の作り方を学ぶのも家庭科の時間です。このように、普段、学校の中で勉強していることには、災害にかかわることがたくさんあります。元々、私たちは、自然の中で生きるために学問を作ってきたはずなので、当然と言えば当然ですね。普段勉強したことを、自分たちの身を守るために生かしていくためには、普段の教科の中にちょっとずつ災害とのかかわりを入れ込んでいくと良いと思います。これは、既存の教科学習を生きた教育に変身させることにもなります。残念ながら、今の学校では防災訓練ぐらいしかやっていません。普通の理科や社会の中で防災の問題を扱ってみると、それぞれの教科が生き生きとしたものになってくるでしょう。そして、最後にそういったものを全部一緒にしたまとめ学習を、総合学習の時間にやってみたら、どうでしょうか。地域や家庭にも役に立つ素晴らしい成果がでると思います。

また、親御さんたちの気持ちを動かすには、意外と子供からアプローチするのが効果的です。僕たち大人が親御さんたちに防災対策のことをお願いすると「うるさい先生だな」とカチンとくるようですが、お子さんから「ねえねえ、お母さん、お父さん、何でうちは家具、留めないの?」「本当にうちは安全なの?」などと言ってもらったら、きっとすぐに家具の固定化や耐震化が進むでしょう。ひょっとしたらこれからの防災の主役は子供かもしれません。

専門家がいないと教育は難しいと考える人が多いようですが、実際には先生が少し変身すればすぐに防災教育ができるようになります。今、社会で活躍している防災オタクの人たちも、必ずしも専門家ではありません。皆「何とかみんなを助けたい」という気持ちから、自分で勉強を始めます。すぐにいろいろなことをマスターできて、教えることもできるようになるものです。プロになるのではなく、そのことに関心を持つようにすればいいのではないかと思います。私たちも、ぶるる、と呼ぶ様々な教材を作っていますので、色々な形で応援することが可能だと思います。

振動実験教材「ぶるる」

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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