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防災インタビューVol.30

地震防災研究の実践を目指して

放送月:2008年5月
公開月:2008年12月

翠川 三郎 氏

東京工業大学大学院 教授

リスクコミュニケーション ~CAUSE~

耐震対策の件でも挙げましたが、なかなか地震に対する対策が進まないのは、結局、皆さんが地震に対する危険をどのくらい自分の問題として受け止めているのかどうかにかかわっており、そういう意味で、リスクコミュニケーションが問題であると思います。リスクコミュニケーションというのは、「危険を認識して、それについての対策をする」という一連の流れのことなのですが、その一つに「コウズモデル」というのがあります。これは、この危険の認識から対策までには「CAUSE」の5段階があるということで、コウズモデルと呼ばれています。

「CAUSE」の「C」というのは「クレディビリティー」、信頼性のことです。これは専門家に対する信頼性という意味です。専門家が「地震が起こりますよ」とか「あなたの所はよく揺れますよ」ということを言っても、専門家に対して皆さんが信頼しているかどうかが問題になってきます。またそれは信頼度だけの問題ではなく、われわれがけっこう難しい言葉で言うために分かりにくいということもあります。その意味でも「分かりやすさ」というのが、やはり重要になってきます。

例えば、先ほども耐震補強が重要だということを言いました。耐震補強をやればいいことは分かっているわけですけれども、耐震補強するにはお金が掛かるし、その間、生活が不自由になって引っ越しをしなくてはいけないとか、部屋を片付けなければいけないというようなデメリットもあります。しかし「こういうデメリットがあるけれども、それを上回るようなメリットがある」というように、いいところだけではなく悪い面も併せて説明することで、皆さんが私たちの言っていることに対して、信頼性を高めてくれることになると思います。

次に「A」ですが、これは「アウエアネス」といって、「危険を認識する」ということです。それは、私たちがこういう情報を提示することによって、「自分たちの周りには危険があるんだ」ということに気付いていただくことです。そのために例えば、横浜市では「地震マップ」や「わいわい防災マップ」を作って皆さんにお配りして、「危険がありますよ」ということをお知らせしています。こういうことで、ある程度、皆さんが危険を認識するということは進んでいるかと思います。

次の段階が「U」です。これは「アンダースタンディング」。リスクを正しくきちんと理解することです。「A」というのは「何となく自分のところは危ないんだな」ということを認識するということですが、次の段階では「どんな問題があって、どのくらい危ないのか」ということを、それぞれ皆さんに正しく理解していただくということです。それぞれの人が「自分の住んでいる建物が倒れそうなのか」「建物は大丈夫だけど中の物がめちゃくちゃになりそうだ」という、いろいろな問題をよく理解することがこの段階です。

では、そういう問題があったとしたら、次のステップが「S」になります。これは「ソリューションズ」、そういう問題に対して、どういう解決策があるかということを考えることです。例えば耐震補強の場合には、対策を行うにはいろいろな工事のやり方があって、いろいろなお金が掛かります。いくらぐらい掛かるか、150万円ぐらい掛かるのか、というようなこともありますし、一部には悪質な業者もありますので、信頼のおける工務店さんはどんなところにあるのか、というような情報を行政が提供することが重要になってきます。

そういう状況がそろうと、最後が「E」です。これは「エンアクトメント」といって、実行という意味です。要するに対策を実行するということで、今までの段階で「CAUS」がきちんとそろえば、最後の「E」の「エンアクトメント」で実行に移せるわけです。その意味でも、われわれとしては最初の4つの段階をいかにきちんとしていくかということが重要になってくると思っています。

防災対策は研究者・市民・行政が背中を押し合って

今まで、この「CAUSE」の「E」がうまくいっていないということは、それぞれの段階で問題があったということです。例えば「C」、「クレディビリティー」については、今まで私たち研究者が分かりやすい言葉で皆さんに語り掛けていなかったことに原因があると思います。やはり皆さんに分かりやすい言葉でお話をしなければいけないんだと思います。それから次の「A」、「アウエアネス」については、横浜市の「地震マップ」のような資料を皆さんに配っていますが、ただ配布するだけではなく、例えばこれに対する説明会を行って、もっと皆さんに危険に気付いてもらえるように努力をしなければならないと思っています。そういう情報が伝わったら、次は「U」の「アンダースタンディング」です。要するに、深く理解することが必要です。これは、今度は市民の皆さんの側なので、こういう情報をきちんと受け止めて勉強していただいて、自分たちの身の回りにはどんな危険がどのくらいあるのかということを調べていただくということが必要です。そのためには、基本的な知識もつけていただかないといけないので、「防災教育」というのが非常に重要になると思います。皆さんが理解をしたら、「S」の「では今度はどうしたらいいのか」という話になります。いろいろな耐震補強の方策があるとか、信頼できる業者さんはどこなのかとか、というような情報が必要です。こういうことは行政などがきちんと皆さんにお教えするシステムをつくる必要もあります。

横浜市鶴見区と東工大との防災対策推進活動のための協定

そういうようなことを念頭において、われわれの研究者もそうですが、皆さん市民の方々も勉強していただかないといけないし、行政の方もそういう環境を整備していただくというようなことをやっていただく必要があるということです。みんなで努力しあってやらないと、こういった地震防災というものはなかなか進まないものです。そういう意味で、みんなで背中を押し合いながら、「みんなで頑張りましょう」という意気込みで防災対策を進めていくことが必要だと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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