1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. まちづくりと建築土木
  6. 地震による斜面崩壊と液状化
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.37

地震による斜面崩壊と液状化

放送月:2008年12月
公開月:2009年7月

谷 和夫 氏

横浜国立大学工学研究員教授

地震により崩落する斜面災害の特徴

大きな地震では強い揺れが数十秒間にわたって継続しますが、この揺れが作用している最中ないし揺れが治まった直後に斜面の移動が始まります。地震力が作用しなければ安定した状態にある斜面も、強い地震力が作用するとバランスが失われて崩壊してしまいます。2004年の新潟県中越地震では3千箇所以上の自然斜面が崩壊したと言われています。

地震による斜面崩壊については、地震の震源との距離や、地震の揺れが強く作用する方向と斜面の向きとの関係、そして斜面の形状や内部の構造によって、その発生のし易さに違いがあります。1995年の兵庫県南部地震の時に「震災の帯」という言葉が良く使われましたが、内陸地震の場合には地表が強く揺れる範囲は、地震の原因となった活断層(震源域)に沿って帯状に分布します。一般的には震源域から遠ざかるほど揺れは小さくなりますので、斜面の崩壊も震源域の直上の狭い幅に集中します。それから、地震の揺れが強く作用する方向に斜面は移動しようとしますので、斜面の向きも崩壊のし易すさに関係します。また、斜面の表面が出っ張った凸型の斜面とえぐれた凹型の斜面を比較すると、凸型の斜面の方が崩壊し易いことも知られています。凸型の斜面は自由に揺れますが、凹型の斜面では揺れが拘束されるからだと思われます。

地震の際の斜面崩壊で特徴的な現象として「すべり面液状化」があります。地震時に砂地盤が液状化することは良く知られたことですが、普通は平坦な地盤で多く見られる現象です。しかし、もし斜面の中に液状化しやすい地層があった場合には、液状化した地層の上に載った斜面が非常に長い距離を移動することになります。2003年の宮城県沖地震の築館町や1995年の兵庫県南部地震の仁川において、何十メートルも斜面が下流に流れてしまったという事例があります。

地震に関係なく発生する斜面移動の場合には、その移動距離は小規模な場合ですと数メートル程度、非常に規模が大きい場合でも100メートルを超えるような移動は稀なことです。しかし地震によって発生する斜面移動では、場合によっては数キロメートルも下まで斜面が流れ下ってしまうことがあります。急な勾配、風化した地層、高い地下水位、液状化しやすい地層の存在などの条件が揃ってしまうと、地震によって動き出したすべり面より上の地層が移動中にばらばらに成りながら岩砕流として長距離を移動します。1984年の長野県西部地震の時に、「御岳崩れ」と呼ばれる非常に規模が大きい山体崩壊がありました。3,000万m3以上もの火山砕屑物が、約2,000メートルの標高差を平均時速100km近いスピードで約10キロメートルも流れ下りました。

1984年の長野県西部地震で発生した御岳崩れ

南関東で地震の時に崩壊しやすい斜面や崖

南関東には、特に横浜から横須賀にかけては、岩石から成る急な勾配の斜面や崖があります。岩石と言っても比較的に弱く軟らかい部類の軟岩で、泥岩・砂岩から成る堆積軟岩です。南関東に分布する堆積軟岩は、特に「土丹(どたん)」という名前が付いています。ちなみに、横浜のランドマークタワーなどの高層ビル群の多くや、東京のレインボーブリッジは、この「土丹」を基礎として建設されており、基礎地盤としては充分な支持力を有する地盤です。

南関東では、この土丹を覆う形で分布する赤茶色~茶褐色の粘土っぽい地層から成る数メートルから十数メートルの崖も良く見かけます。関東ロームと呼ばれており、関東地方を取り囲む火山群からの火山灰が堆積した後に風化して形成された火山灰質粘土です。この関東ロームの特徴は、空隙や含まれる水(間隙水)の量が多い割に強い粘土で、数メートル程度の鉛直に近い地山の露頭面(切土によって形成された切り立った崖)が安定しています。粒子間の結合力が強いからだと言われています。しかし、この結合力を破壊してしまうと、つまり建設工事などによって乱してしまうと強度が著しく低下してしまい、降雨などによって、どろどろの扱い難い粘土になってしまいます。

多摩地方から西東京、それから横須賀から横浜にかけては、関東ローム層や土丹層などの堆積軟岩から成る勾配が急な斜面や崖が数多く存在しています。これらは安定している場合もありますが、下部を切土したり風化が進行したりすると安定性が低下して、強い降雨や地震の強い揺れによって崩れてしまう虞があります。各地方自治体では、前述した「急傾斜地崩壊危険区域」を指定して、崩壊の可能性が懸念される場合には、近くに家を建てたり土地改変を伴う開発行為したりするときに、適切な補強や擁壁などの抗土圧構造物の建造を義務付けています。

南関東も西の箱根の方に行きますと、上記とは異なるタイプの斜面災害が多くなります。箱根の辺りは温泉がたくさん有りますが、この温泉水が岩石を徐々に弱くしてしまう場合があります。温泉の元になる高温の地下水と岩石の化学反応が原因で岩石の性質が変化してしまうことは「熱水変質」と呼ばれています。この反応が進行すると、硬い岩石も粘土鉱物(温泉余土とも呼ばれる)になってしまうことがあります。箱根では、数十年に1回程度の頻度で規模が大きい地すべりが発生しています。1953年には早雲山の麓(須沢)で発生した地すべりによって強羅温泉で多数の犠牲者が出ました。火山の近くでは、このように熱水によって地盤が脆弱化している可能性があり、地震によって多数の斜面崩壊が発生することが懸念されます。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針