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防災インタビューVol.43

アメリカ式 子供達への危機管理教育プログラム

放送月:2009年7月
公開月:2010年1月

長谷川 祐子 氏

在日米海軍司令部予防課長所

Great Escape(大脱走)

このGreat Escape(大脱走)というプログラムは、私がアメリカの火災予防の教育の中で一番素晴らしいと思っています。とても楽しく、そして本当に日本の方たちが夢にも思っていないようなことを、子どもがやってのけるというプログラムです。これを今、皆さまにお伝えできるということを、とてもうれしく思っています。ぜひ皆さんに聞いていただきたいと思います。
「大脱走」、この言葉は、ある程度のお年の方は、きっとお分かりになっているかもしれませんが、スティーブ・マックィーンの映画で『Great Escape(大脱走) 』というのがありました。ドイツの収容所から、スティーブ・マックィーンたちが大脱走して逃げ出すという、ハラハラドキドキのものですが、この映画から取って名前を付けたものです。このプログラムは1986年のアメリカで全国的なキャンペーンとなり、全州の80~90%の消防隊が参加するような大きなプログラムになりました。
このプログラムでは、火災時にどのように逃げるかを体で覚えさせます。火災での死亡原因の多くが有毒ガスの吸引ですから、このプログラムは大変有益です。実際の家や教室にスモッグマシン、煙を発生するマシンを持ち込みます。ぜんそく持ちの子どもには名乗り出てもらって、教室の窓から、外から見てもらう。とにかく楽しく進めるというのが一番のキーポイントになります。
まず皆さん、ちょっと目をつぶってみてください。寝ています。ここは寝室です。寝る前に寝室のドアは必ず閉めて寝てください。すると、煙感知器の音、ピーッピーッピーッという音が聞こえます。「みんな起きて!」。起きたら「じゃあ、これ何の音? みんな分かりますか?」と私は聞きます。日本の子どもはなかなか手を挙げてくれませんが、アメリカ人はすごいです。分からなくても手を挙げるときがありますけれど。子どもたちからは「はい、Fire Alarm(火災報知機)」、「Smog Detector(煙感知器)」「アラーム」「ベル」いろいろな名前が出てきます。「あれが鳴るっていうことはどういうこと?」と、子どもたちに聞くと「Fire(火事)」だと、みんな分かります。そうすると私が言います。「みんな、じゃあ逃げなきゃいけないよね」「うん」「よし、じゃあみんな逃げよう。ドアに行こうよ」「分かった」「じゃあみんなドアにおいで、行くよ」
ドアを開けようとする子どもに私が言います。「あっ、開けちゃダメ」「えっ? だって逃げなきゃ」「待ってね。ドアが熱いかどうかを調べなきゃいけないの」「どうして」「だって、もしドアの向こうが熱かったら、すぐ隣、ドアの向こうって火災だよ。開けちゃったら火と煙がうわーって部屋の中に入ってくるじゃない」「ああそうか、どうすればいいの?」「それはね、あなたの手を使います。手の甲、表側と裏側があるとしたら、つかむほうじゃない、表側の手の甲のほう。これがすごく繊細で、温度がよく分かります。だから、手の甲のほうでドアをチェックして。熱いか熱くないか、こうやってチェックしてみてください。さあ、ドアのノブのところを触りますよ。熱いことにしよう」「あちい」「そう、熱かったら隣が火の海です。じゃあもう一つのドアに逃げよう」「分かった」「じゃあ行くよ」。今度は子どもたちは自分でドアのチェックをします。「熱くないよ、先生」「OK。熱くなかったらそーっと開けてみようね」「分かった」「じゃあみんな低くなって」「どうして?」「だって外は煙でいっぱいでしょう。煙感知器が鳴っているよ。煙は上の方に上がるよね。床の方はきれいな空気が残っているから、みんな小さくなって、そこの下を抜けよう」「分かった」。こう言って、そーっと開けます。「みんな逃げるよ。あっちが出口。行きましょう」こういう形でGreat Escape(大脱走)の第一段階が終わります

Great Escape(大脱走)プログラムの様子

これがまた面白いのは、もう2つステップがあることです。両方のドアとも熱かったら「じゃあどうするか」ということですね。両方とも熱いわけです。そうすると子どもたちが「どうしよう!」と言います。「窓がありますか?」と私が聞くと「ああ、窓あるよ」、そう言うのは1階とか2階に住む子どもたちです。すぐに手が挙がります。アメリカ人は遠慮はしないですから。「ぼくんち5階」「ぼくんち6階」「ぼくんち9階」こんな感じです。窓から逃げ出すことができるのは1階もしくは2階ですよね。3階・4階・5階の子はどうしたらいいのか。ドアは両方とも熱くて、開けて逃げることはできません。そうするとここは寝室です。ベッドの上にシーツがあります。「みんな、シーツを持ってきて。ドアのところに行くよ」「えっドアに行くの?」「そうだよ。ドアをよく見て。ドアというのは後からつけたものだから、必ず少しあいているの。そこから煙が入ってくるんだよ。煙っていうのは、みんなの体にとって、とっても毒で、1口、2口みんなが吸っちゃうと、体がもう動かなくなってしまうの。『逃げたいな』と思っても、もう動かないの。だからいい? 煙を部屋の中に入れちゃいけないの。だからみんなが持っているシーツでドアのすき間を全部埋めちゃいましょう。煙が入らないようにしましょう。テープでもいいよね」「うん」「みんな埋めた?」「そうしたら今度はもう1枚シーツを持って窓を開けましょう。窓からシーツをポーンと外に出してください。そして「お~い、助けてくれ~」ってそのシーツを大きく振って、「助けて、助けて。僕ここにいるよ」って言ってください。必ず消防署やほかの人が助けに来てくれます。そうすることによって、子どもは泣いていないのです。どこにも逃げられないからといって泣くのではなく、自分から「自分がここにいる」と発信させるのが、このGreat Escapeなのです。
これで解決したと思っていると、実は1人の子どもがそーっと手を挙げます。「ぼくんち、窓がないんだけど。ドアも1つしかないの」というときには、私が答えるのは、先ほど言ったように煙が入ってこないように、まず詰め物をするということです。ドアと壁を比べると、ドアのほうが火に対して持つ時間が短いです。だからドアが一番弱いわけですから、ドアから離れた所に行って、子どもを座らせます。そして、ろう城させるわけです。でも、ろう城させるといっても、ただ黙って待っているだけではありません。子どもたちは、壁や床とかをドーンドンドンと何か物でたたいて、定期的な音を出して、消防士やほかの人に知らせるわけです。壁や床は、2階、1階につながっています。だから、その音がどんどんと響いていくのです。最初から「助けて、助けて」と言っていると余計な煙は吸いますし、いざ肝心なときに声が出なくなると困るので、今みたいな音を出して、自分で場所を知らせるということをやります。
このようなプログラムはとても面白いです。ぜひ日本でも広げたいと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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