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防災インタビューVol.44

災害から一人ひとりの命と暮らしを守るために できることから始めよう!

放送月:2008年10月
公開月:2010年2月

浦野 愛 氏

レスキューストックヤード理事

災害時要援護者の避難所での生活

災害時要援護者の問題を考える上で、もう1つ重要なのが避難所の問題です。避難所の多くは学校の体育館や地域の公民館というケースが多いため、基本的には板張りです。物資の不足により毛布1枚だけしか敷かずに長期間寝ていたり、人が密集するため通路もままならない状況です。寒い時はドアを締め切りにしてしまいがちなので、空気もよどみ、埃も舞い、さらに食べる所と寝る所が一緒のため、非常に不衛生な環境です。その中で特に要援護者を取り巻く状況は過酷です。

例えば車いすの場合、通路が確保されない中では移動はできず、少しの段差があるだけで、人を呼んで手伝ってもらわなければなりません。目の見えない人は、掲示板で情報提供されたものについては分からないですし、耳の聞こえない人は放送が聞こえません。避難所での要援護者対策は非常に深刻で急務の課題ではありますが、まだ手が付けられていない部分が多いのが現状です。

それに対し、日ごろからの目配り、気配り、心配りを働かせることによって、少しでも住民レベルで改善できる部分は無いものかと考えていました。2006年に名古屋のある町内会で、住民がアイディアを出し合い、要援護者を含めて皆が過ごせる避難所環境づくりを進めていこうということになりました。具体的には、避難所の階段の所に板を加工してスロープを作ったり、住民手作りで障がい者や高齢者も使える様式の仮設のトイレを作りました。この仮設トイレは様々な工夫が凝らされていて、廃材のオイル缶に便座の上の座る部分をかぶせ、木材で手すりも取り付けてありました。また、聴覚障がい者への配慮として、名簿への記入や、物資の配布時間などの大事な情報を大きく紙に書き掲示しました。地べたに座れない足の悪い人に対しては、平均台をいす代わりに使いました。あるものを最大限に活用すれば、知恵と工夫と協力で問題を解決することができるということを、住民自身が気付いたのです。どれもちょっとした配慮ですが、住民が自ら考え実行したことに大きな意義があったと思います。こういう訓練を重ねていくことによって、要援護者と地域住民の間に出会いの場ができます。恐らくこういう取り組みを一度でもやった地域は、実際の災害時にも、きっと目配り、気配りの大切さを理解しながら、互いに支え合える避難所環境を作っていけるであろうと期待しています。

アレルギーを持つ方への対策の必要性

災害時要援護者のことを考える際に、忘れてはいけないのが、アレルギーのある方に対する配慮です。これは非常に深刻な問題で、阪神・淡路大震災などの被災地でも、アレルギーのあったお子さんたちは、過酷な状況に置かれていました。災害時には自衛隊やボランティアの炊き出しが振る舞われますが、アレルギーのあるお子さんの場合「炊き出しの中に何が入っているのかが分からず、全く手が出せなかった」とコメントしています。

中でも食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は、災害時には深刻な状況に発展しやすいものです。食物アレルギーは、卵、牛乳、小麦が最も多く、他にもピーナツやフルーツなどに反応する場合もあります。重度のアレルギー患者の場合中には2リットルのペットボトルに1滴のアレルゲンが入っただけで重篤な発作を引き起こして亡くなってしまうというケースもあります。

またアトピー性皮膚炎は不眠やストレス、食事などによってもかなり悪化します。アトピー性皮膚炎が他の人に移ることはあり得ません。しかし、阪神・淡路大震災の時には、アトピーの方が、自衛隊が設営した仮設風呂に行ったところ、周りの人から「あんた、うつるから入らないでくれ」と言われ辛い経験をしたという実話もあります。このような知識不足や偏見が次の災害で少しでも軽減されるように、災害時要援護者の重要な課題の一つとして、地域の方々とこの問題を共有したいと思っています。

例えば、お年寄りや障がい者と同じように、アトピー性皮膚炎のひどい人でもお風呂や着替えをする所を優先的に使えるような配慮が必要です。また炊き出しにおいても、ただ「カレー」や「豚汁」などメニューだけではなく、調味料のパッケージに添付されている原材料の表示や食材などを並べて、何が入っているのかを細かく掲示することができれば、当事者側の選択肢が広がります。場合によっては、一般の炊き出しとほぼ同じ調理過程に少しの手間をかけるだけで、アレルゲンだけを取り除いた除去食を作ることも可能です。どれもそんなに難しいことではありません。少しの知識や配慮で、アレルギーを持っている方への負担が軽減できる可能性があるのです。これらはアレルギーのお子さんを持つお母さんたちから実際にお話を伺って提案しているので、地域の要援護者対策の課題としてぜひ取り入れていただきたいと思います。

皆が助け合える地域づくりのために

私たちの団体の活動の柱は、地域防災力の向上と災害時要援護者支援です。災害時に失われる命を一人でも減らすために、また、一日も早く被災者が元の生活を取り戻すためには、日常からの備えが非常に重要だと感じています。

2005年3月に、内閣府から「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」が発表されました。その後都道府県市町村では、災害時要援護者を早く安全に避難させるための仕組みづくりを住民と共に推進しています。このガイドラインは、地域の中で支援を必要とする人を事前に把握して、その人を誰がどんな方法で避難誘導をするのかを具体的に考え、実際に計画が機能するのかを防災訓練を通じて確かめるという、3つのステップが提案されています。

2009年から愛知県岡崎市でもこの取り組みが進められています。主に地域の町内会長や民生委員、福祉推進委員を通じて、避難に不安を感じていらっしゃる方に「いざというときには地域で皆さんの安全を守れるようにお手伝いしますよ」と声掛けをしてもらいます。中には「いつ死んでもええわ」と言って、地域とのかかわりを拒否する方もいますが、その場合は時間をかけて信頼関係を構築していきます。「皆で助かる地域づくりをしたい」「あなたが大切なんですよ」ということを、いろいろな形で伝えながら、少しずつ当事者の気持ちをほぐしていくことを積み重ねています。実際に避難誘導のお手伝いをするのは、要援護者の近くに住む地域住民ということになりますが、支援をする側は「自分がその時に生きているかも分からないのに、人のことまで責任は負えない」という不安を訴える場合が多くあります。しかし、この仕組みは自分の身を犠牲にしてまで責任を負わなければならないものではないこと、その上で「自分と家族が安全で、もし自分が動けるときには、ぜひ1人で困っている人に手を差し伸べてほしい」と丁寧に説明していくと、「そういうことだったら手伝うよ」と支援に同意して下さる方が必ずいらっしゃいます。基本的には、「誰かの役に立ちたい、困っている人がいたら何とかしたい」という思いは、誰もが持っているはずなのでこのような取り組みを通じて、人が本来持っている優しさや思いやりの心が表面化し、行動に変えていけるお手伝いができればと思っています。

要援護者と支援者が決まった後は、実践として避難誘導訓練を行うわけですが、訓練の中ではいかに楽しめる要素を取り入れるかを工夫しています。例えば芋煮会と銘打って炊き出しをやってみたり、防災クイズや子どもが喜ぶような紙芝居をやったり、非常持ち出しグッズや過去の被災地の写真を展示したりしました。皆が参加して「面白かった」「楽しかった」「また来たいな」と思えるようなプログラムになるように工夫しました。その結果、最初は乗り気ではなかった要援護者からは「次も参加したい」「皆が自分のことを心配して来てくれてうれしかった」というコメントが出てきました。主催者である地域からは、要援護者に対して「あなたが参加してくれたから、訓練も盛り上がったんだよ。ありがとう」と感謝の言葉を投げかける場面もありました。災害時には支援の必要な要援護者であったとしても、日常は地域を支える一員として、社会参加ができたのです。このような方法で顔の見える関係を地道に重ねていくことでしか「皆が助け合える災害に強い地域づくり」は実現しないと思います。なかなか一足飛びには行きませんが住民の皆さんの頑張りで確実に成果を生んでいる事例が沢山あります。このような取り組みがぜひ、他の地域でも広がっていくことを願っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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