1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. まちづくりと建築土木
  6. 住宅の耐震補強について ~新宿区の耐震補強制度から学ぶ~
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.50

住宅の耐震補強について ~新宿区の耐震補強制度から学ぶ~

放送月:2010年1月
公開月:2010年8月

押切 等 氏

新宿区耐震補強推進協議会事務局長

新宿区の耐震診断、耐震補強について

私は今、新宿区の技術者派遣として在籍している建築士事務所の管理建築士とともに、新宿区内の耐震に不安を持たれる方々の相談や無料診断を行っていますが、その中で非常に感じるのは「家は人とともに年を取っていく」ということです。現在は高齢化、核家族化の進行という話をよく聞きますが、まさにその通りだと思います。実際に訪問すると老夫婦世帯、一人暮らしのおばあちゃんだけ、という家も非常に多くなってきています。また最近いろいろな場所で地震が起こっていますし、地震に関する情報も結構入手されており、非常に不安がられているというのが現状だと思います。そのような状況の中で、我々ができることというのは、まずは耐震診断、そして自宅のどこが危険なのかということを認識していただいて、その後に、できることだけでも対策をとっていくためのアドバイスをすることくらいです。
そのような中で、今の活動を進めていくひとつの契機になった経験がありました。非常に老朽化し、かつ耐震性に不安のある建物に、一人暮らしのお年寄りの女性が住んでいました。そこで「耐震補強をやりましょう」という話をしたところ「自分では判断できないので娘さんに相談したい」ということで、娘さん同席の上で「今のお宅は耐震化が必要です。一刻も早く補強工事を進めましょう」というお話をしました。しかし2つの要素で反対されました。1つは、老朽化している住宅に対して、数百万の費用を掛けるというのは経済的に全然合理性がないのではないかということ、もう1つは、自分の母親はいつまで生きているのか分からないということでした。その2点から「もっと現実的な生活にお金を使うべきじゃないか」という娘さんなりの心配もあって、実際には耐震化には至らなかったという経緯がありました。
新宿区は耐震補強に関しての助成金があるので、一足飛びにブレイクして耐震化が進むものだと思っていましたが、いろいろな方々の思いや環境、そういった部分を理解していかないとなかなか進んでいかない、ということを痛感しました。自分自身の至らなさも当然痛感しつつも「これは大変だ」と思いまして、そこからいろいろな形で啓発活動、周知のPR活動、相談などに積極的に入り込んでいきました。
ただ、もうひとつ問題になるのは、助成金があったとしても最初から受け取れるのではなく、費用のすべてをいったん支払ってから、領収書を持って行くと後で振り込まれるという形であるということです。また助成金は工事に対して4分の3ということになっていますので、400万の工事をしたときに300万が支払われるということです。差し引きだと100万円あれば工事はできますが、いったん400万を用意するというのが結構大変です。

耐震化を進めるために

先程お話ししたショッキングな出来事を自分自身が経験してから、耐震化を進めていくことについて、ちょっと迷いに入った時期がありました。その時期にいろいろ頭の中を整理してみました。「家は人ともに年を取っていく」わけですが、実際に我々がやっている活動において、高齢者の方だけに判断や負担を求めていたのではないかと思います。実際に必要なのは、現役世代に対するPRです。核家族化が進行している中で、親御さんたちは木造住宅、子供たちは比較的耐震性の高いマンションなどに住んでいるので、地震に対しての恐怖感が全然違うのではないかと思います。それ故、現役世代の意識啓発を進めない限り、この問題は進んでいかないのではないかという結論に至りました。

アニメーション「東京マグニチュード8.0」

現役世代に対して、地震に対する啓発が大切であるとお話ししましたが、残念ながら、30年間の発生確率が70%と言われている首都直下地震について知ってはいても、本当は地震に向かっていく覚悟は、皆さん実際にはあまりないのではないかと思います。大切な人を失わないための震災に対する対策ができていないというのは非常に残念な話です。
このままでは自分自身、もしくは大切な人、場合によっては財産、そういったものを失っていくだけの未来になっていくのではないかと思います。そこでフジテレビで昨年放映した『東京マグニチュード8.0』というアニメーションとタイアップして、9月に早稲田大学の大隈記念講堂で防災シンポジウムを開催しました。このアニメは、エンディングで大切な人を失ってしまうという話になっており、賛否両論です。ですが、アニメを通して、そういった感覚を知ってほしいという思いで、このアニメを題材にしたトークセッションをした後に、この番組にも出ていただいた危機管理アドバイザーの国崎信江さんに講演をしていただくというシンポジウムを開催しました。これについては「非常に分かりやすい」「今日から、家に帰って何かしら自分でできる対策をとってみよう」という声が非常に多く寄せられました。
実はこの内容は、我々が主催する「新宿耐震フォーラム」のイベントの中心となり、もう1回やらせていただくことになっています。

耐震化が必要な建物とは

今、国で重点的に耐震化を進めようとしているのは、昭和56年以前に建てられた建物です。これは、いわゆる旧耐震基準で建てられた建物です。実際に想定していなかった大地震が起こるたびに、建築基準法は変わってきていますが「最低でも阪神淡路大震災後の建築基準法を満たしていない建物から、まずは重点的に耐震化を進めていきましょう」というのが現状になっています。
町を歩いていて、外壁がモルタルであったり、雨戸を収納する戸袋が外壁と同じモルタルで仕上げてある建物は、56年以前に建てられた可能性が非常に高いと思われます。それ以外にも「建物はもともと足腰がしっかりしていないともたない」と言われていますが、そういう建物であるにもかかわらず日本瓦のような重い屋根をのせているもの、もともと平屋だった建物を不法建築で2階建てに増築したりといったものがいろいろありまして、そういう意味では、今すぐに対策を打たなければいけない建物が数多く現存しているというのが実態です。
何年前に建てた建物かというのは、建築確認申請、中間・完了検査の履歴を見れば分かります。不動産を所有する場合には、資産価値を知るためにも、そういった履歴が必要となります。まず対策を打つにも、現状を知らなければ何も講じられないので、築年数にかかわらず生活の拠点の状況を調べるということは、非常に重要だと思います。その中で何が危険なのかということを把握すれば、おのずと対策はとれるはずです。
また建築年数だけではなく、建物の形も重要です。建物は構造計算により安全に造られているはずですが、よく言われるのは、ピロティ形式といって1階が駐車場になっていたり、設計上無理をした建物というのはよろしくないということです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針