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防災インタビューVol.50

住宅の耐震補強について ~新宿区の耐震補強制度から学ぶ~

放送月:2010年1月
公開月:2010年8月

押切 等 氏

新宿区耐震補強推進協議会事務局長

老朽化した木造住宅密集地域の問題点

老朽化している木造住宅の密集地域というのは、新宿でも非常に多く存在していますが、それの何が問題かというと、単純な話でいけば地震の後の火災です。地震で建物が倒壊して命や財産をなくすことがありますが、それに追い討ちをかけて火災が広がっていくと、密集しているので逃げ場がない、空き地がない、という状況になります。老朽化した木造住宅が密集した地域は、延焼の可能性が非常に高いということです。
もう1点は、密集地域の特徴として、建物が建っている道路の幅が非常に狭いことが挙げられます。今の基準法では道路幅は4メートル設けなさい、ということになっていますが、狭い所ですと3メートルもなかったり、2メートルを切っている所もあります。道路が狭いと消防車や救急車などの救急車両が入れないし、消防隊が付近までは行けても実際の消火活動ができない、ということが容易に起こり得るわけです。
耐震補強を行ったとしても、補強費はあくまで現行の建物に対しての補強という形ですので、道路幅員は広げることはできません。ただ、広がらない道路幅員をそのまま見過ごすのではなく、例えば耐震補強をした所に関しては難燃性の石こうボードなどを使って、中から火を出さないような仕掛けをすべきではないかと私自身は考えています。
耐震補強という、筋交い、構造用合板といった補強がメジャーになっていますが、壁倍率という、いわゆる耐震化に非常に効果があると言われている石こうボードや内装材も最近は出てきています。在来工法と言われる従来の手法に加えて、新たな技術も取り入れた上で、ここの地域においては、どういった内容や方法が適切なのか、というのを建築士だけではなくて、住んでいる方も含めて真剣に議論しながら進めるべきであると思います。
しかし行政は縦割りということもあり、耐震と延焼を防ぐような不燃化、類焼化に関する取り組みは、多くの場合は別々の部署でやっています。本来であれば、そういったところを1つの流れとしてつくっていくというのが大事なのではないかと思いますし、我々もそういった提言を積極的にしていきたいと考えています。

新宿区耐震補強推進協議会について

新宿区耐震補強推進協議会は、全部で9つの団体で構成されています。まずこの団体を設立するに当たり、東京都建築士事務所協会、設計事務所の団体が、新宿区と一緒に活動しました。また実際に補強工事などを担う地元の工務店などの建設団体が4団体入っています。従来であれば協議会の構成団体はこのくらいなのですが、耐震化を進めるには、やはり地域の方々の協力がないとなかなか進まないということもありまして、ここでは町会連合会という町会の団体も入っています。ちなみに新宿区は住居表示していない所や昔の地名がある所もあり、実際にはそんなに大きくはないのですが、町会数としては200団体あります。加えて新宿区商店会連合会、こちらは区内に94の商店会がありまして、こちらも大きな組織になっています。その他、東京商工会議所新宿支部、信金協議会ということで、全部で9つの団体から構成されています。
私は事務局長になる前に、活動をやるに当たって、いろいろな会議などをやっていました。平成21年度の予算と活動計画を行う際に、団体などといろいろ話をしました。活動計画に関しては積極的に皆さん「やりたい、やりたい」と言いますが、実際に予算という形になると、各団体の中で耐震補強は優先順位がそれほど高くはなく、実はそのあたりで非常に苦労した経験があります。そういう意味では、耐震補強推進協議会で一番大事なのは、やはり耐震補強をメーンテーマに持って、そこに対して推進しようという熱意を持ったメンバーの集まりでなければならないということです。
いろいろ苦労してきましたが、実は新宿区の協議会だけでは解決できず、平塚や墨田などの諸先輩方、各協議会の事務局長、理事長の方々にご相談して何とかやっているという状況です。所属団体数は結構ありますが、実際にメーンとしては7、8名ぐらいで活動しているのが現状でして、その中で私も本来の業務があるのですが、ほぼボランティアのような形で事務局業務をやっているというのが現状です。

地域との連携

新宿区耐震補強推進協議会では「耐震化を進めていこう」ということを目的にして活動していますが、組織が大きくなりすぎると、その組織内での優先順位が上がってこず、苦労しました。その後、平塚や墨田区の方々、優秀な各地域の耐震補強を推進するリーダーと会うことができまして、いろいろな貴重なアドバイスを頂きました。その中で私がたどり着いた考え方というのが、大きな組織に依存するのではなくて、まずは小さなところから始めて、そこで既成事実をつくった上で、いろいろなイベントを打って、皆さんに一人でも多く認めていただこう、という手法です。それまではどちらかというと事務局で、一人でもんもんとして活動していまして、それは自嘲気味ではありますが、劇団ひとり、というような状況になっていました。実際に各地域のリーダーの方々とお話をすると、自分だけではなかったということを知り、勇気づけられます。その地域の中で活動していくのも大事ですが、そういう先達たち、素晴らしい方々と出会うことによって、その人たちからいろいろ学んでいく、こういったことで自分自身のモチベーションを高めながら、新たなステップを踏み出して今に至っているのではないかと思っています。個人ができるだけレベルアップしながら、まず今は顔の見える付き合いを通じて、その中での考え方などを擦り合わせていきながら、これから区民の方々の期待に応えられるような団体にしていきたいと考えています。
実際に今、毎月1回行っている耐震無料相談会の事前周知のためにチラシをポスティングするということも、実はその一環です。効率ばかり重視しても、この手の活動というのは絶対に成功しないと思います。やはり「体感して共有する」、そういった共通項がないと、人とのつながりというのは深まっていかないのではないかと思います。そういうことを理解している方は、活動への参加率が非常に上がってきています。その活動の成果を見ていただくためには、ただチラシを配るだけではなく、何軒配って、翌月の相談会で何人来たか、そういった結果を分かち合うことも必要ですし、それだけではなくて、終わった後でいっぱいやるというような飲みニケーションも込みでやっていかないと、なかなかこういったボランティアというのは続かないので、自分なりにいろいろ工夫してやっています。

「自助、共助、公助」ではなく「自助、自助、共助」

新宿区の耐震化推進活動をやっていく上で、一番大きいのは助成金制度です。ただ、前述のような助成金をめぐっての問題もありますし「全額を立て替えて、後で戻ってくるのではなく、自己負担だけ払えればいいのに」という声もあります。また助成金を申請するために、本来必要でないようなことまでやらなければならなくなることもあります。要はその助成金を使うというのは公金であるからこそ、そこに対しての縛りが常について回ってきます。
助成金自体を否定するわけではありませんが、やはり公助を頼って耐震化をやった場合に「公助がなければやらない」というのはナンセンスであると思っています。特に行政の場合は、現在の民主党政権になって歳入不足の話が出てきていますので、いつまでも同じような助成金制度を続けられる保証はないので、助成金だけに頼ることは危険だと思います。そういう意味では徹底的に、個人が率先してやっていくような環境づくりをすべきであると思います。
耐震補強がどんどん当たり前になっていき、そういった当たり前の認識を持っている人たち同士がつながっていくことで、より強固な連帯ができると思います。場合によっては木造密集地域の問題も、そういうことで解決できるのではないか、という期待を持って考えています。そういう意味で、一般的には「自助、共助、公助」と言われていますが、私は「1に自助、2に自助と、その歩留まりとして共助がある」と思っています。逆に「行政は、そういった現状を見て適切な対策をとれるように、ちょっと後ろから見て、そっとしておくというような感覚が本来いいんじゃないかな」という考えを持っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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