1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. まちづくりと建築土木
  6. 過去の震災からまちづくりのこれからを考える
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.61

過去の震災からまちづくりのこれからを考える

放送月:2011年3月
公開月:2011年7月

久田 嘉章 氏

工学院大学教授

発災対応型訓練

毎年、防災訓練をやって、とにかく消火が最重要だというのを確認していきますが、その訓練を実際の災害時にどう結び付けていくかがとても大切です。従来やっている防災訓練では、近くの小学校や避難所に集まって一通りの訓練をやりますが、参加するのはお年寄りばかりで、夏の9月の暑い時でマンネリ化して、なかなか集まらないという問題がありました。しかし新しいタイプの防災訓練として、町中の発災対応型訓練というのがあります。それは地域の特性に応じて「ここで火災が発生しました」「ここにけが人が出ました」という看板を作って、それを防災訓練の直前に町の至る所の電柱にぶら下げて、参加する人に対応していただくというものです。例えば、火災の看板があった場合は、10分以内に消火器10個を集めてきてもらいます。そうすると消火器がどこにあったのかが、ある程度頭に入っていないと集められません。それから声を出して、周りの人、近所の人たちに「ここは火事だ」と知らせます。そうすると、とても臨場感が出て、ものすごく盛り上がった訓練になるわけです。小学校で訓練する場合は、D1ポンプという、町の人たちが使えるポンプがあるのですが、それを使います。これは通常の訓練では、役員さんなど、やる人が決まっていますので、それは必ずうまくいきます。しかし町の中で同時発生でやると、ポンプを持ってきたけれどできる人がいない、水にホースが届かない、あるいは道が狭くて、階段があって持ってこられない、などという問題がいろいろ出てきます。こうすることで臨場感が出て「これじゃ全く対応できない」というのが分かりました。そこで、この町の方々は消防署と相談して対処方法を考え、スタンドパイプの使用を提案しました。これは通常、消防士さんしか使えないものなのですが、消火栓を開けて、スタンドパイプを差し込んで、ホースを付けて、バルブをねじると、すごい勢いで水が出てくるもので、これを自分たちで使えるようにしました。このような訓練をしていくことで、かなり臨場感が出て、その地域特性に応じた対策が進みました。

高層マンションでの防災訓練

新宿区に戸山ハイツというちょっと古い高層マンションがあって、そこでも防災訓練のお手伝いをしたことがあるので、そこの紹介をさせていただきます。やはり、やることは同じで、まず皆で町を歩き回って、何が一番危険なのか、あるいは役に立つものがあるかという視点でマップを作りました。高層マンションにはいろいろな方、いろいろな知識を持った方がいますし、しかもここは高層マンション群なので、木造密集地とは全く違って火災の心配はあまりありません。しかしマンションの中には、お年寄りや身障者の方がたくさんいるので、震災のときはエレベーターが止まってしまうと非常に大きな問題が発生することが分かります。その際に、どうしたらいいかというようなことを話し合って、年に1回の防災訓練をやりました。

今までは火災を前提にして、皆で避難場所に集まって初期消火訓練などを行っていましたが「本当にそれでいいのか」ということを話し合いました。マンションで火災が発生したら、煙が上がってくるので全館避難しないといけないですし、飲食店があったりすると火災の発生は高いのですが、全てが全て火事が出るわけではありません。高層マンションの場合は震災で室内にかなりの被害が出たりするかもしれませんが、火災さえ出なければ慌てて避難する必要は全くありません。そこで今回の防災訓練では、まず各フロア、次にマンション単位で皆が声を出しあって、下敷きになったり閉じ込められている人がいないかどうかを確認しました。動けない人やお年寄りは、エレベーターが止まってしまったら非常階段で下りるのは絶対に不可能なので、無理して連れてこないで、どの部屋で、どういう人がどういう状況になっているかを調べて、避難所に情報を集めて持ってきて、皆で対策を話し合いましょうという訓練をしました。これは通常私たちが考えている避難訓練とはかなり違ったものになりました。

通常の避難訓練は、火災が起こった際のものになっています。しかし実際には、何から避難するのかをよく考える必要があります。東京などの関東圏ですと圧倒的に火災、大火災、延焼火災が問題になりますが、地域によっては昔とはかなり特性が変わってきているので、どこもかしこも延焼火災が起きるわけではありません。地域を知って、それに対応した訓練を行うこと、逃げる前にまず対応する、ということが重要です。そして、もう一つ重要なのは隣近所のお付き合いです。やはり防災訓練のときにはなるべく参加して、声を出していくことも大事です。防災訓練というと、どうしてもお年寄りが多くなってしまいますが、情報を集めるには、やはり若い人たちの力が必要ですので、訓練をもっと面白くして、若い人が参加してもらえるようにしていくことも重要になると思います。

超高層ビルでの防災対策

もう一つの地域特性とそれに対応した対策の話として、新宿の超高層ビル群にある、うちの大学での取り組みを紹介させていただきたいと思います。災害時には、やはり自助と公助と共助がそれぞれ必要になりますが、まず自助をどうしたらいいかということを考えています。

うちの大学のビルは28階建ての超高層ビルです。2009年に消防法が改正されましたが、それまでは火災対策しかやっていませんでした。訓練というと火災発生時、全館避難をいかに速やかに実行するか、ということばかり考えてきました。しかし実際に震災が起こったときに、とにかく避難を第一として行動すると、結構大変なことが起きるのです。例えば、地震が起きて「とにかく逃げるんだ」ということで皆逃げてしまうと、万が一、上の階で誰かが閉じ込められたり、けが人が出ていたときに、どうしようもありません。非常電話はあるけれど、防災センターや警備室につながるものが1、2回線しかなく、誰かが電話を始めると、もうつながらなくなってしまいます。普通の電話もほとんど輻湊して使えなくなるので、エレベーターも止まっている状況だと、一度逃げたら後でやろうとしても、もう無理になってしまいます。まず逃げる前に対応できることはしないといけないと思います。

今の防災センターの施設は、火災には対応できます。火災探知機、煙探知機が設置されていて、その情報により、どこに火災が発生したかがすぐ分かり、防災センターの職員、警備員が駆け付けて対応して指示を出して、消防署にも電話して消防車も来てくれます。従って我々が訓練するのは初期消火と避難訓練だけで、基本的にはプロにお任せでよかったのです。火災のときにはそれだけで大丈夫でしたが、震災のときには誰も来てくれません。防災センターの職員も来ることができないので、自分たちで、目の前に倒れている人を助け、閉じ込めに対する対策も全部自分たちでやらないといけません。そこで自衛消防組織と呼ばれる組織をつくって、自分たちで全てをやるための訓練を行うという取り組みを現在、うちの大学で行っています。

やり方としては、まず点検マップを作ります。各フロアで役に立つもの、危険なものを全フロアでチェックして、消防法で決められている自衛消防組織をつくり、救護班、初期消火班、連絡班などを決めて、普通はペーパーだけになっているのですが、防災訓練のときには実際に役割を与えて動いてもらいます。その防災訓練も発災対応型で、高層ビル特有の状況の看板を置いていきます。火災もありますが、けが人が出た、閉じ込めが出たという想定で、それに対応する方法を考えます。例えば「閉じ込めが出たときに使用するバールはどこにありますか?」「1階の防災センターにあります」「タンカはどこにありますか?」「地階にあります」と言われても、実際には運んで来られません。そうすると、やはり3階おきぐらいのフロアにきちんと置いておかないと全く対応できませんし「救急用具はどこにありますか?」と言われても、すぐに思い浮かびませんので、マップを作って皆さんで共有しておかないと対応できません。ここでは防災訓練のときに、そういう訓練をやっています。

とにかく火災が発生したら、すぐに火を消すというのは最重要ですが、もし家事が発生していなければ、そんなに慌てないで全部皆で見回ってチェックして、何かあったら自分たちで対応し、応急手当てをして、いざとなったら若い力で何とかタンカで運んで来るということができるような対策が大切です。

うちの学生は、基本的には年1回の訓練は全員参加ですので、教職員も全員参加でやっています。また、うちの大学では授業の中で、このような教育訓練もやっています。学生たちはいざとなったら頼りになるし力になる、そういう知識もあるし実際動ける、そういう人に育てることにも取り組んでいます。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針