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防災インタビューVol.61

過去の震災からまちづくりのこれからを考える

放送月:2011年3月
公開月:2011年7月

久田 嘉章 氏

工学院大学教授

新宿駅周辺の防災対策

皆さんご存じの通り、新宿駅は昼間に非常に人が多い所です。この新宿駅周辺で、どのような震災対策をやっているのか、私も少し調べてみました。ここには地域防災計画があって、一応、区や都で対策はできているということですが、実はその対策の対象は地域住民です。いわば、これは新宿駅周辺に住んでいる人に対する対策で、昼間働いている人、遊んでいる人の対策というのは何もありません。これは地域で働いている人たち、学んでいる人たちが、自分たちで対応するしかないということです。実際に地震が来ると駅周辺に、ものすごくたくさんの人たちが滞留しますので、都に働き掛けて、協議会をつくる取り組みを始め、新宿がその1番目になりました。その際に、うちの大学にも声が掛かってきまして、専門のことでもありますので、取り組みを今、始めているところです。

新宿駅は東口と西口で地域特性が全く違っており、西口は超高層ビルがたくさんあり、どちらかというと組織化ができている所です。東口は歌舞伎町があり、非常にたくさんの方が来るのですが、どちらかというと組織化がされていない所で、全く違う特性があります。我々は今、西口を中心に取り組んで、まず組織化されている所から対策をとっており、年1回、地域の防災訓練を東口と西口で同時にやっています。自助と共助の訓練も同時にやっており、自助の訓練は先ほどお話ししたような訓練を行い、火事が出なければ外に出さないということにしています。今までの火災訓練というのは全員外に出してしまいますが、ここでは、なるべく外に出さないようにします。前回の地震でも駅周辺に、ものすごくたくさんの人たちが出てきましたが、基本的にはビルからなるべく外に出さないために、ビルの中では低層階に避難させます。高層階は揺れたり、空調が止まったりして、どうしても下に降りなければなりませんが、低層階に収容して、そこで安否確認を行って、その中で、できればボランティアの学生、働ける人たちを募って、地域に出て活動しましょうという自助の訓練をやっています。

共助の訓練はいろいろやっていますが、そのうちの一つは「地域の拠点をつくりましょう」というものです。工学院大学1階が西口の現地本部になって、地域の事業者の方々と情報共有をして、どこに被害があって、どこに被害がないのか、あるいは駅前に出る大量の滞留者、帰宅困難者を駅ではなくて西口の中央公園に誘導するという訓練をやっています。このもともとのきっかけは、千葉で地震があった際に電車が止まっている状況にも関わらず人々が駅に殺到して、ホームから人が落ちそうなくらい新宿駅が人であふれかえったことがありました。それ以降、なるべく駅に人が集まらない方策をしましょうというのが、今の主な取り組みの一つです。駅で情報を出すと、そちらに人が集まってしまうので、なるべく正確な情報を地域で集めて、東口は新宿御苑、西口は中央公園に帰宅支援ステーションをつくって、そこで情報を出すことを考えています。どこの電車が止まって、どこが動いているか、どこまで行くと帰宅支援ステーションがあるか、帰るルートがどうなっているか、そういう情報をなるべく駅から離れた所で出しましょう、という訓練をやって、うちの大学でボランティアができる学生がいたら、そこに行ってお手伝いをするということもやっています。

新宿駅周辺の緊急時の医療体制

新宿駅周辺の対策の取り組みの一つとして去年から力を入れているのが、緊急時の医療体制についてです。地震が起きて、駅周辺でたくさんの人がけがをしたら、どうしたらいいのか、これも先ほど紹介した地域防災計画では全く抜けているところです。例えば今、東京都では一応、災害時の医療体制というものが考えられています。これには重要な拠点が2つあって、一つは医療救護所、もう一つは後方医療施設としての災害拠点病院です。基本的には病院と医療救護所という2カ所が重要だといわれています。医療救護所というのは、避難所になっている小学校などのうちのどこかが指定されています。災害時には周辺のお医者さんは恐らく、普通の診療所ですと治療ができない状況だと思われるので、指定されたお医者さんは救護所に集まって、そこでトリアージという負傷者の選別をしてもらいます。ここに集まったお医者さんが、まずけが人を見て、本当に危ない重症の人なのか、あるいはここで手当てをすれば済む人なのか、というトリアージをやって、重症の人たちを後方医療施設である病院に運ぶというものです。従って基本的には、病院は重症者以外は受け付けないということになっています。しかし皆さんは自分の近くの医療救護所はどこだかご存じですか? 多分ご存じない方も多いと思います。体制そのものが知られていないというのも問題ですが、まずこの体制が夜間人口ベース、住民向けになっています。例えば新宿駅周辺で、この医療救護所はどこかと調べてみると、住宅地の中にあり、駅から2キロぐらい離れた西新宿小学校という所です。新宿駅周辺の夜間人口は3万人ですが、昼間人口は70万人と言われています。しかしながら駅周辺には医療救護所はありません。病院は比較的ありますし、災害救援病院は幾つかあって、今の対策だとけが人などは皆、病院に連れていく状態になってしまいます。そうすると病院が大混雑して、阪神大震災のときもありましたが、まず軽症者がどんどんやってきて、しばらくたって重症者が運ばれてきて、どうしようもなくなる状況になってしまいます。それに対する対策を去年から話し合って、現在始めているところです。

まず地域に医療救護所が必要なのですが、医療行為が入ってくるため、なかなか敷居が高く大変なのですが、うちの大学の1階に少し広いスペースがあるので、そこを地域の応急救護所として提供することにしています。原則は周りの各ビルでも軽症の対応はやってほしいのですが、できないという人たちを運んで来て、周りにクリニックや診療所はありますが、恐らくそこでは治療はできないので、お医者さんにこちらに来てトリアージをやってもらいます。しかし、それだけでは全く人手が足りないので、うちの学生や周辺の事業者の方にも上級救命士などの資格を取ってもらったり、あるいは日赤の講習会を受けてもらって、応急手当てと搬送は何とかやりましょうというものです。それに加えて、医療関係ではありませんがボランティアはたくさんいますので、どういう人たちが運び込まれて、重症者がどこの病院に運ばれたかという情報の収集をする人たちと一緒に組んで、応急救護所の中で選別をして、重症者を病院に搬送して、残された人を手当てしていきましょうという訓練を去年、実際にやりました。

しかし実際にやってみると、いろいろな問題点が見えてきます。地域のお医者さんに、いきなりトリアージをお願いしても、なかなかできません。普段は、たくさんの看護師さんたちと、じっくり一人一人診ていくのですが、とにかく1人当たり5分以内に全部判断しなくてはいけないので、お医者さん自身も訓練が必要だということも分かりました。また、お医者さんが医療救護所に行って、1人、2人で孤立して生死の判断をするというのは、とても怖いそうですが、ある程度の知識があるボランティアがいてサポートしてくれるというのは、非常に心強いと言っていました。地域の拠点病院でも、軽症者を地域で見てくれることで重症者だけを搬送するという体制もできるので、非常にありがたいということです。まだまだ始まったばかりですが、何かのモデルにならないかということで、こういう取り組みをまた今年もやっていきます。

「地域減災セミナー」の開催

うちの大学では、これまでご紹介したような自助や共助、自治体などが一緒になってやるような取り組みも行っていますが、もう一つ「地域減災セミナー」という地域の事業者の方々を巻き込んだセミナーを開催しています。残念ながらこれは文科省の都合で今年で終了になってしまうのですが、2年間のセミナーを通して実際に訓練にも参加してもらって、今までやっている火災中心の対策と全く変わった新しい防災の取り組みをしていこう、というのが広まってきました。新宿駅周辺防災対策協議会で今年から研究会をつくって、このセミナーを継続して地域全体で取り組もうということになっています。今までは一部の事業者しか参加していなかったので、防災は地域全体で取り組まなくては対応できない話ですので、もっともっと広げてつなげていこうということで、現在、新宿でやっているところです。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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