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防災インタビューVol.65

防災まちづくり ~東日本大震災に学ぶ~

放送月:2011年7月
公開月:2011年11月

渋谷 和久 氏

国土交通省総合政策局政策課長

ボランティアとして現地に入る前に…

文部科学省が通達を出しまして、大学生が被災地でボランティア活動をすると、それ自体が単位になるという仕組みが5月にできています。ぜひ大学に確認していただいて、せっかくの制度ですので活用して、特に若い学生さんたちにボランティアに行っていただければと思います。

ただ、ぜひ気を付けていただきたいのは、現地のボランティアセンターは人手が非常に足りないので、いきなり電話をして「どんなニーズがありますか」と尋ねるのではなく、インターネットを通して、それぞれホームページの情報を調べて、自分たちで確認できるところはまずは確認をして、その上で最終的な確認をするいうルールを守っていただきたいと思います。

ボランティアに行かれる方に、ちょっとした注意事項をお話ししたいと思いますが、その一つ目として、ボランティアはまとまって行ったほうがいいと思います。1人、2人でマイカーで行くというのもいいのですが、最近はボランティアバスというのが増えています。ボラバスと僕らは呼んでいますが、これはコーディネーターが引率して、バスで皆がまとまって行くようなツアーです。こういうバスで行くといいことが幾つかあります。まずは、まとまって活動ができるということと、コーディネーターがバスの中でいろいろなガイダンスをしてくれ、注意事項もいろいろ言ってくれるという点です。また、たくさんの車で行くのではなくてバスでまとまって行くので、被災地にあまり迷惑も掛けないという利点もあります。

このようにボランティアバスといっても、いろいろなパターンがあり、バスの中でずっと寝泊まりするような強行軍のものもあれば、観光も兼ねて、現地で泥出しのボランティア活動をした後、近くの温泉でのんびりするようなツアーもあります。現地で買い物をしたり、観光地で温泉に入って、おいしい物を食べたりするのも立派な被災地の応援になりますので、ボランティア活動と併せて、そういうこともセットでというツアーもたくさんできています。

市町村によっては、送り出す側でボランティアのガイダンスやセミナー、講習会をやるようなところも増えてきていますので、まずは、お住まいの市町村などに確認をして、そういう機会があれば、ぜひ出ていただいて、その上でボランティア活動に参加するということが大事だと思います。

ボランティアといいますと学生などの若い方が力仕事をしていると思うかもしれませんが、かなり高齢の方や女性の方も大勢、現地で活動されています。ボランティアの仕事は、がれきの処理や泥出しなどの力仕事だけではなく、避難所でじっと被災者の方に寄り添って、一緒にお話を聞いてあげるようなものもありますし、足湯といって、足をお湯でさすってあげるというのもあります。そのようなことを通して被災者の心を癒やし、本音を聞き、それを逆に行政の僕らのほうにも伝える、こういうような形でのボランティア活動もありますので、力仕事だけではなく、いろいろな形のボランティアがあるということを、ぜひ分かっていただければと思います。

現在は、避難所から仮設住宅への移行が急ピッチで進んでいますが、仮設住宅へ移ったら移ったで結構、被災者の方も苦労されることが多いと思われます。そういう仮設住宅の周りで被災者の方々からお話を聞くだけでも、大変な被災者のケアになりますので、ぜひやっていただきたいと思います。ただ、そうしたことも個人で勝手に行ってもどうか、という説もありますので、そこはやはりコーディネーターの方とよく相談をして、やってみたいという人はぜひいろいろなルートで探していただければいいのではないかと思います。

高層マンションの防災対策

今回の大震災においては首都圏も大変揺れましたので、特に高層マンションに住んでいる方など、随分怖い思いをされた方もいると思います。特に上の方のフロアの方は、いったん1階や外に避難するとエレベーターが止まってしまって上に上がるに上がれず、結果的に1階で一晩過ごした方も大勢いらっしゃるというように聞きました。

では、高層マンションの防災というのは、どういうふうに考えていったらいいのでしょうか。最近のマンションは、新しい耐震基準で造られていますので、かなり揺れはするけれど、倒れたりする心配はありません。ただエレベーターが止まってしまった場合のことなどは、やはりそのマンションの住民が皆で、自分たちの防災対策をどうするかということを、ぜひ考えていただくことが必要だと思います。

マンションによっては、先進的な取り組みをしているところも幾つかありまして、例えば高層マンションで5階とか10階ごとに避難スペースを設けて、そこに食料や毛布を備えておき、1階から40階までは上がれないけれど、5階とか10階まで来ればそこで取りあえず避難できるというような場所を設けているところもあります。それから特に一人暮らしの方は、安否確認をしなければいけませんが、マンションの管理組合や自治組織の中で日ごろからお付き合いをして、防災対策をきちんと取るという活動は非常に重要です。

一つ先進的な取り組みをご紹介しますと、兵庫県の加古川に加古川グリーンシティという7棟、600世帯ぐらいの大きなマンションがあります。ここの自治会は、防災会といいまして非常にユニークな活動をしています。まずは飲み会、懇親会というところから始めて、楽しく防災をやろうということで面白い活動をしています。会ってはいるけれど会話はしたことがないというマンションの住人同士が、日ごろから顔の見える関係をつくるために皆で声掛け挨拶、小さな親切運動をやろうということが第1歩でした。2歩目はチャンピオン大会というもので、マンションに住むいろいろな方の得意技を事前に登録してもらおうというものです。例えば、お医者さん、電気の技術のプロ、外国語ができる人など、それぞれ皆さん得意技をお持ちですので、その得意技をあらかじめ登録しておいてもらって、いざというときにその能力をマンションの人たちのために活用してもらおうということです。これだけ大きいマンションなので、よそから助けを借りなくても自分たち住民の中に専門家がたくさんいるわけです。これは使わなきゃ、ということで始めたそうですが、とても面白い事例だと思います。

マンションというのは、ある意味一つの大きな町ですから、これも一種のまちづくりです。平面的な町ではなくて立体的な町ですが、まちづくりという観点で、防災というものをどういうふうに考えていくかということを、ぜひ考えていただければと思います。防災といっても、防災訓練だけではつまらないので、加古川のように懇親会などを含めて、日常的なお付き合いというのを大事にする、これがポイントではないかと思います。これはもちろんマンションだけではなくて、普通のコミュニティーでも同じことが言えると思います。

防災まちづくりが日常生活から

災害というのは非日常です。日常にはない異常な事態が起きるわけですが、それにどう備えるかということは、実は普段からやっていないとうまくいかないものです。ある町が一人暮らしのお年寄りに、いざというときのためにお貸ししますということで携帯電話を配りました。受け取ったお年寄りは、町からもらった大事な携帯電話だからしまっておかなければいけないということで、奥にしまって、いざというときに使えないという、笑うに笑えない話があります。普段から使っていないものは、いざというときに使えません。これは何にでも言えることだと思います。

まちづくりの中で防災活動をしていこうとしても、防災訓練だけやっていくのでは長続きしません。特に、防災というのは息の長いマラソンのようなもので、楽しくなければ続かないし、日ごろからそういう活動をしていないと役に立ちません。コミュニティーを大事にしようとか、顔の見える関係を構築しようとよく言いますが、それを防災のためにやってもなかなかうまくいかないので、むしろ防災ではなくて、もっと普通のまちづくりをしていくことが大事だと思います。例えばリサイクルやエコ、教育、環境、あるいは防犯とか、身近なことでまちづくり活動をしていく中で、ちょっとそこに防災の味付けをしていくことが、活動が長続きする秘訣ですし、普段から築いている人との関係が、いざというときにすごく役に立ちますので、やはり日常的な関係というのはすごく大事だと思います。

兵庫県神戸市では阪神淡路大震災の後、「防災福祉コミュニティ」という活動が行われています。普段からお互いに支え合うような福祉活動をしていくことが、いざというときに防災に役に立つのだ、ということだと思います。

防災まちづくりのキーワード ~「つなぐ」ということ~

政府の復興構想会議の提言は「つなぐ」というキーワードで整理されています。人と人をつなぐ、人とコミュニティーをつなぐ、地域と地域をつなぐ、東日本と西日本をつなぐ、いろいろな意味で使われますが、この「つなぐ」というのはまちづくりのキーワードでもあるし、防災のキーワードでもあると思います。

知らない人同士でも、お互いにちょっとした異変に気付いたら、すぐ「どうしました?」と声を掛ける、そういう日常的な支え合いが、まさに「つなぐ」ということだと思います。このことは、いざというときに大きな力を持つということだと思います。

江戸時代の末期に日本に入ってきた欧米人が、「江戸はガーデンシティだ」というふうに言いました。それは単にきれいな町ということではなくて、町民の人たちが、自分たちで自分たちの町を守るために、さまざまな活動を行っていたということです。江戸の町を守っていた火消しも町民の活動です。自分たちの町は自分たちで守ろう、そういう活動の中で町をきれいにしていこうということになり、結果的にすごく町をきれいすることにつながるわけです。アメリカのニューヨークも昔はすごく犯罪が多くて危ない、しかも汚れた町だと言われていましたが、街区ごとに組合をつくって、まずは防犯活動をしよう、清掃活動をしようということで町をきれいにして、安全な町にするという、まちづくりに取り組みました。こうすることは、実は防災にもすごく役に立つということだと思います。

この他にもさまざまな取り組みがあります。僕は昔、福岡にいましたが、天神の街の商店街に「We Love 天神協議会」という集まりがあって、その人たちがさまざまなイベントをやっていました。そうしたイベントや取り組みが、実際に福岡県西方沖地震の時にとても役に立ちました。ここでは、いざというときに外から来たお客さんをこうやって誘導しようとか、住んでいる人たちはここに避難しようとか、あらかじめ取り決めがあって、それがあったために非常時の対応もとても円滑に進んだということもあります。

普段のまちづくり活動において、商店街、PTA、自治会、いろいろな組織がありますが、そういう組織の人たちを皆横につなぐ、つながるということが防災の意識を高めることに非常に大きな力を発揮するのではないかと思います。ぜひ皆さん、今日からでもそういう活動をしていただければと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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