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防災インタビューVol.65

防災まちづくり ~東日本大震災に学ぶ~

放送月:2011年7月
公開月:2011年11月

渋谷 和久 氏

国土交通省総合政策局政策課長

「津波」から町を守るために

「津波防災まちづくり」というのは僕たちが作った言葉で、津波防災とまちづくりを合わせた言葉です。今回の東日本大震災の大きな特徴は、ものすごく大きな津波が広範囲にわたって町を襲ったということです。ありとあらゆる物を津波が飲み込んで、しかも引き波で全部それを流し去ってしまい、町がほとんどなくなってしまったという状況です。陸前高田や南三陸では、市街地という市街地が全て壊滅的な被害を受けました。町によっては高台の市街地が被害を受けずに残っている例もありますが、人口16万の石巻のような都市では、ほとんどが平地で、市街地が壊滅的な被害を受けてしまったという状態です。

そういう中で今、各市町村を中心に、どうやってこの町を復興していこうかということで、復興のまちづくりの絵を描こうとしているところですが、「またあのような津波が来たら一体どうするんだろうか」「本当にこのまま平地で住み続けていいのだろうか」ということが出てきました。高台に移転するのも、もちろん選択肢としてありますが、全ての人が高台に移れるわけではありません。そこで、津波災害を少しでも減らして、何としても命だけは守るという「津波防災まちづくり」をどう考えていくかが課題になってきています。

この地域、三陸地域は明治、昭和、そして1960年のチリ地震の時に3回ほど大きな津波の被害を受けています。明治と昭和の津波の後、かなりの人が高台に移転し、その後、海の中には防波堤、陸側には防潮堤が整備されたので、1960年のチリ地震の時は、ちょうど3メーターぐらいの津波だったということもあって、防波堤、防潮堤が津波をブロックしました。この時期は高度経済成長期で、このような構造物で国土を守ろうという時期でもあり、防波堤、防潮堤があれば津波は大丈夫だというように僕ら自身も含めて思ってしまったところがあるかもしれません。

ただ今回の津波は想定をはるかに超える大きさで、防波堤、防潮堤を超えるような津波がやってきました。何度も何度も押し寄せてくる津波は、いわゆる表面の水だけが動く台風の時の高潮とは違い、海の底から水が丸ごと全部動いて、まるで100キロぐらいのスピードの鉄板のような大きな水のかたまりが押し寄せて来ますので、ものすごい破壊力です。防波堤、防潮堤はある程度ブロックをして津波の高さを抑えたり、逃げる時間を少し稼いだという分析結果はありますが、何度も何度も津波が来て、しかも引き波のものすごい力で、かなりの防波堤、防潮堤が壊されてしまったわけです。そうすると、堤防がない全く無防備な状態で津波が町に押し寄せるという、非常に悲惨な状況になってしまいました。

防災から減災へ

6月25日に政府の復興構想会議がありまして、五百旗頭(いおきべ)座長以下、有識者の方が総理大臣に提言書を手渡しました。この提言書のサブタイトルは「悲惨のなかの希望」というものでしたが、この中で一番重要なテーマが「減災」ということでした。これは聞き慣れない言葉だと思いますが、この減災という考え方で、津波防災についての新しい考え方を紹介しています。

防災という言葉はよく聞きますが、防災というのは災害を防ぐと書きますが、これは防波堤、防潮堤のような構造物で津波自体を止めてしまうということで、まさに防災という考え方です。この防災においては、あくまで想定された高さの津波はブロックできますが、それを超えるようなものが来たときにどう対処するかということが大切になってきます。津波そのものは来てしまうわけですから、建物やいろいろなものがやられてしまうかもしれません。でも「最低限、命だけは何としても守るんだ」ということを基本として、少しでも被害を軽減するために対策をとるのが「減災」という考え方です。すべての力を防災という形でブロックすることはできないけれども、少しでも被害を軽減させるための「防災のまちづくり」をしなければいけないということだと思います。

「防災まちづくり」を実現するために

津波に対する減災の基本は「逃げる」ということです。とにかく逃げなければいけない。逃げるためには、まず「逃げましょう」ということを浸透させる防災教育をすることも大事ですが、逃げるためのさまざまな対策をとらないといけません。まずは避難路を整備し、避難場所を整備することが大切です。その一つとして、ある学校の校舎の裏手には、盛土をした道路がありましたが、たまたまPTAからの要望があり、国土交通省が、その盛土の道路までの階段を設置したという事例がありました。その小学校の子どもたちは助かったわけです。そういうちょっとした工夫も含めて、避難路あるいは避難場所を確保したり、「津波避難ビル」と呼ばれる、津波でも倒れないような頑丈な4階、5階建ての構造物に逃げることで、何とか命は助かるというようなものを民間のさまざまなビルを含めて整備することで、いざというときに命だけは何とか助かるように考えていく必要があると思います。 また、仙台平野には仙台東部道路が通っています。その道路の所で、ちょうど津波が止まりました。通常、平野部の津波の場合は若干、破壊力が落ちることがありますが、盛土の道路がちょうど津波をそこで止めたわけです。これは内陸にある道路ですが、平野部にあっては、内陸に盛土の構造物、道路や鉄道があれば、津波を止める第2の堤防の役割を果たしますので2番目の堤防ということで、これを二線堤と呼んでいます。道路を造るときにも、せっかく造るなら盛土の二線堤のような構造にして、その道路よりも陸側に住むようにすれば、「防災のまちづくり」ができるわけです。

これから国土交通省では、この「津波防災まちづくり」を基本にした新しい法制度をつくり、一刻も早く被災地の方々に、津波に対して命だけは守るというようなまちづくりを進めるには、どうしたらいいかという考え方を示したいと考えています。先日7月6日に審議会議から、この「津波防災まちづくり」に対する緊急提言を頂きました。この津波防災まちづくりの考え方は国土交通省のホームページにも載っていますので、被災地だけではなく全国の海岸沿いに住んでいらっしゃる方は、どこでも津波の被害の可能性があるわけですから、ぜひご覧いただいて、まちづくりをする際に、この「津波防災まちづくり」ということを大勢の方々に考えていただきたいと思います。日本では国土の関係で、どうしても海岸沿いの平地、低い所に住んでいる方がたくさんいらっしゃるので、ぜひこれは本当に大勢の方に考えていただきたい問題だと思っています。

内陸部での被災 ~地滑りによる被害~

今回の東日本大震災では、津波による被害が大きくクローズアップされていますが、実は内陸部もかなり被害があったということです。例えば、仙台市の郊外の昔のニュータウンのような所では宅地ごと地滑りをして、その上にある住宅も一緒に変形をして、住めないような状態になっているような大きな被害が出ています。首都圏でも浦安などでは、液状化による被害で家が傾いてしまった所があります。今回の地震では津波以外にも、そういう宅地の被害が非常に多かったというのが特徴的です。

この宅地の被害というのは1995年の阪神淡路大震災の時にもあって、西宮の西川で宅地が大きな地滑りを起こして37名の方が亡くなりました。しかしながら阪神淡路大震災の時は住宅が倒れて、つぶれて、多くの方が即死をされたということで、6千人以上の方が亡くなったということが非常に強調されていたために、西川の災害はあまり注目されませんでした。30度を超えるような急な斜面は崖崩れを起こしやすいのですが、西宮はそんなに急な崖ではなかったのに崩れてしまったということで、「これは一体何だろうか」ということで学者の方々がその後、地道な研究をして、これは実は盛り土といって、山を削って宅地開発をしたことで起こったものではないかという仮説を立てました。市が尾もそうですが、切土盛土といって、宅地開発というのは山を削って、その切った土で谷を埋めて平らにしており、この盛土の部分が、実は地震の揺れで大きな地滑りを起こすのではないかという仮説が立てられたわけです。その後、新潟県の中越地震が起きて、この時も宅地がたくさん被害を受けました。これがまさに西宮の地滑りと同じような状況で、いろいろ調べてみますと、やはり盛土造成地が危ないということが分かってきました。

大規模な盛土造成地は、普段は平らなので一見すると全く危険だとは思えませんが、谷を埋めているので、もともとの地形と埋めた盛土の間に地下水がたまると、その地下水がちょうど滑り面になって、ローラーコースターのように地震の大きな揺れで揺らされると、まさに上の盛土ごと全部滑らせてしまう状況になってしまいます。そうなるとどんなに住宅を耐震改修したとしても、家ごと流さてしまうわけです。これを何とかしなければいけないということで、新潟県中越地震の後、宅地造成等規制法という法律を改正しました。大規模な盛土造成地を滑らないようにするには、実は簡単な工事です。地下水を抜けばいいのです。そのため、その地下水を抜く工事を国が補助をする形でやるという仕組みをつくりましたが、残念ながら、まだ全国で1件しかその工事を適用した事例がありません。 今回の東日本大震災の被災地でも、今後またさらに災害が起きるかもしれないので、造成の際に水抜きの工事ができないかどうかについて、今現地の自治体と相談をしているところです。日本中のすべての場所、津波と関係ないような所も含めて、自分の土地は「今、平らだから大丈夫だ」と思わずに、ぜひ一度きちんとした形で調べたほうがいいのではないかと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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