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防災インタビューVol.84

多角的視点で防災を捉える ~消防科学総合センター職員の目から見た防災~

放送月:2013年2月
公開月:2013年4月

黒田 洋司 氏

消防科学総合センター調査研究第2課長

自分への戒め ~魔法の言葉を使わない~

私たちは報告書などを書くことが多いのですが、問題があって何か改善しなければいけないときの文章の使い方で、ついつい油断すると「連携」や「共有」というような言葉を使いがちです。例えば「どことどこが連携して対応することが必要だ」「情報の共有化か望まれる」「認識の共有化が望まれる」というようなことをついつい書いてしまうのですが、そう書いてしまいますと、何となく「連携」とか「共有化」ということで全てが解決したように思ってしまいます。本当はどういう方法で連携するのか、どのように共有化を図るのかを言わないと、単に問題を指摘しただけにとどまってしまい、具体的にどのような対策をとればいいのかまで頭が及ばないときに、ついこういう言葉を使いがちになります。自分自身への戒めということで言えば、こうした「魔法の言葉」を安易に使わないようにしたいと思っています。

ただ、これは私の問題だけではなく、広く一般的にも言えるのではないかと思います。例えば、東日本大震災を踏まえて今後の防災対策の在り方を検討するために、中央防災会議が設置した「防災対策推進検討会議」というのがありますが、これは13回の議論を経て、昨年の7月に最終報告がまとまりました。この報告書は48ページのものになっていますが、「連携」という言葉をキーワードに検索をすると48ページの中に30カ所、「共有」という言葉で検索すると22カ所で使われています。具体的に言うと「各行政主体及び民間事業団体等が連携し、物資を円滑に調達し供給する体制の構築を図るため、調整、調達、輸送に必要とされる物資の単位や荷姿などの情報を共有する調整システムを整備すべきである」このようなことが書いてあります。また、このような国の機関だけではなく、福島原子力発電所の事故に関してもいろいろな報告書が出ていますが、民間事故調が出した報告書の中でも同じような形で「各機関が十分に連携した対応を行うことができるに多くの課題が見つかった。今後は大規模災害時における我が国全体の連携体制のありかたを早急に見直していかなければならない」という形で「連携」という言葉が使われています。こういう報告書などで「連携」や「共有」という言葉に接したときには、魔法に掛からずに「ん? これはどういうことなのかな?」というように1回立ち止まって、一般の人たちの立場に立って考えることが大事ではないかと思っています。関係者が読めば、この言葉の内容は大体理解できるのですが、具体的にどうするかというところまでは書かれていないので、実際にそれが実現できるのか分かりません。ただ、この言葉を使うと、何か全て丸く収まったような印象が報告の中で持たれてしまうのではないかと思います。

1人の100歩より100人の1歩

著名な防災研究者の山村武彦さんという方が、地域での防災の取り組みに関して出された本の中で「1人の100歩より100人の1歩」ということを言われていて、私自身、非常に印象に残っている言葉です。どういうことかと言いますと、防災というのは一握りの役員だけが先に100歩進むのではなくて、100人が1歩ずつ進むようなことが大事だと、一部の人が一生懸命でも、気付いたら、後ろを見てみると誰も付いてこないという事態を避けることが大事だということです。

今はインターネットなどを通じて、さまざまな情報が非常に入手しやすくなっています。そのため、勉強したい人は以前以上に多くの知識を得やすくなっていますので、防災の関心の薄い人との間で、知識の格差が大きくなってしまいます。防災関係に詳しい方が、さらに知識を得て「実際の自分の地域に生かしていきたい」と考えるのは、人間の素朴な欲求だと思いますが、一方で、防災の取り組みというのは自分1人だけではなくて、周りの人と一緒に進めていくことが大切なわけです。しかしながら知識を持ってしまうと、どうしても自分が得た知識を押し売りしてしまい、後ろを振り返ってみたら誰も付いてきていなかったというようなことになるのではないかと思います。だからといって勉強が不要なのではもちろんなくて、せっかく得た知識を100人の1歩、100人の10歩にする知恵を考えていく必要があると思っています。

少し話がそれるのですが、日本では、宴会に遅れて来た人にお酒を勧めるときに「駆け付け三杯」という言葉で勧めていることが多いのではないかと思います。本来の意味は全然違うのかもしれませんが、私自身は、これは宴会に遅れてやって来た人が気後れしないように配慮をするという昔の人の知恵ではないかと思っています。防災の輪を広げるためには皆が付いてきやすいように「駆け付け三杯」という言葉につながるような知恵が、もっと生まれるといいのではないかと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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