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防災インタビューVol.84

多角的視点で防災を捉える ~消防科学総合センター職員の目から見た防災~

放送月:2013年2月
公開月:2013年4月

黒田 洋司 氏

消防科学総合センター調査研究第2課長

身元不明の恐怖

地震については、帰宅困難者の問題がよく話題になりますが、私自身としては外出先で亡くなってしまった後のことも、とても気掛かりな問題です。外出先で大きな地震に遭い、運悪く生き埋めで亡くなってしまった場合、自分がここにいるということを家族は知らなかったら、どこにいるのか分からないまま、つまり身元不明のままで家族はずっと苦しむのではないかということです。東日本大震災は平日の午後発生しましたが、昨年の12月までのデータでは、亡くなった方が15878名、行方不明の方が2713名という状況です。遺体として見つかっている15878名のうち338名の方は、身元がいまだに不明というデータもあります。行方不明で見つからないままの方もいれば、見つかったけれど、その方がどこのどなたなのか分からないという状況の方もいるということです。東日本大震災のときの津波災害だけではなく、東京や横浜の大都市での大地震のときも起きる可能性があるのではないかと思います。

90年前、関東大震災は土曜日の正午ごろ発生しましたが、あるデータによりますと、東京の中で行方不明になった方は約1万人ということになっています。横浜でも2千人近くの方が行方不明になったとされています。また別のデータでは地震から1カ月後、10月5日までに警察署に提出された捜索願の数は、東京の中だけで36634件あったというデータがあります。阪神淡路大震災は平日の朝早く起きました。この時の行方不明者は3人ということですが、地震の起きる曜日や時間帯によっては、生き埋めや火災によって身元不明の方が多数出てしまう可能性があるのではないかということです。例えば、3月の送別会シーズンの金曜日の夜11時ごろに大きな地震が発生したら、渋谷や横浜の繁華街で無数の身元不明の生き埋め者が出てきてしまうかもしれません。携帯電話の普及により最近は、家族がどこに行くのかを聞くことが少なくなってきていると思います。聞かなくても必要なときは電話すればすぐ分かるからです。そうしますとますます、大きな地震が起きたときに自分の家族がどこにいるか分からないという可能性が高くなると思いますが、これについては実際にどうすればいいのか、特に特効薬はまだない状況です。携帯電話で位置を特定できるというのもありますが、充電が切れてしまえばそれが難しくなりますので、まめに家族と会話するということが、小さな防災対策と言えるかもしれません。社会的に見れば、捜索や身元確認などに相当の時間、お金、労力がかかりますので、何らかの新しい技術が生まれないかと思っています。例えば、電源がなくても身元を特定できるような素材を歯の中に埋め込んでおくとか、そういう新しい技術が生まれると、身元不明というようなものについて新たな対策がとりやすくなるのではないかと思っています。

公助 ~公への支援~

最後に「公助」についての話をさせていただきます。「公助」というのは、自助、共助、公助の公助ですが、消防、警察、自衛隊、市役所という公的な防災機関による消火や救援活動を指すわけです。普段の生活の中では119番通報をすると消防車や救急車が来て、私たちの危機を救ってくれるのですが、大きな災害になると、あちらこちらに現場が同時に発生し、さらには道路が通れなくなったり消火用の水も出なくなるという状況が起きて、なかなか公助だけでは対応できないということも起こってきます。通常では、公助というのは公に助けてもらうことを指しますが、大きな災害に際しては「公の活動を助ける」という視点も必要ではないかと思っています。

東北方面総監部の須藤さんが出している「自衛隊救援活動日誌」という本の中で、東日本大震災の後の出来事が赤裸々に語られています。これを読むと、3月30日にこのような記述があります。「大槌町役場では職員の約4分の1の30人が亡くなったり、行方不明になり、町長さんも亡くなってしまった。役場も流された。一方で当然のことながら、災害対応に関する業務は飛躍的に拡大する状況になっている。役場は高台の公民館におかれたが、それをサポートするために駐車場付近の交通の整理や職員の人たちへの炊き出し、こういったような活動をボランティアの人たちがやった」ということです。言うまでもなく、大災害の時は市の職員の皆さんも被災者となる可能性が非常に高いですし、そうした状況の中で避難所での対応や物資の確保、運搬、いろいろな活動をすることになるのですが、どうしても自分たちの食料の確保や家族の世話といったような部分は、後回しになるという状況になります。東日本大震災のように行政の機能もまひしてしまうような途方もない災害に直面した場合は、自助、共助、公助がばらばらに対応するのではなく「公への支援」を含めて、皆で助け合って支えながら、全体で苦しい状況を乗り越え、災害を乗り切るべきではないかと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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