1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報
  4. 防災インタビュー
  5. 行政の危機管理
  6. 多角的視点で防災を捉える ~消防科学総合センター職員の目から見た防災~
  1. ホーム
  2. 東急沿線の地域情報
  3. 安心・安全情報

防災インタビューVol.84

多角的視点で防災を捉える ~消防科学総合センター職員の目から見た防災~

放送月:2013年2月
公開月:2013年4月

黒田 洋司 氏

消防科学総合センター調査研究第2課長

10人の10歩

先ほど「100人の1歩」ということでお話しさせていただきましたが、「10人の10歩」でもいいのではないかというお話をさせていただきたいと思います。「1人の100歩よりも100人の1歩」という言葉について聞かれた方は「実際にそんな甘いものではないよ」「現実的ではないよ」という意見も当然あると思います。この言葉は基本的なスタンスを言っているものであって、実際にはさまざまな歩み方があると思います。そのような中で「10人の10歩」というものを考えてみたいということです。

これはどういうことかというと、大きな災害が起きた後、人の動員に関して、40年ほど前にアメリカの著名な災害研究者が「全ての人が前もって組織されているべきだという考えは空想にすぎない。組織のなすべきことは災害に対して生ずる自発的な大衆の反応を、より効果的に利用することである」と言っています。要するに、地域で災害に立ち向かう考え方として、自主防災組織をつくって全ての人をその中に組織化しておくというのは、現実的ではなくて空想にすぎないということです。むしろ、いざ災害が起きたときには、その場にいる周りの人に声を掛けて、戦力として消火や救助を行えるようにすることを考えるべきだということだと思います。

皆さんも記憶にあるかと思いますが、JR西日本の福知山線で事故があり、それについてのさまざまなルポが出ておりますが、あるルポにこのようなことが書いてありました。「列車が脱線した際、5両目も激しい衝撃を受けた。座席に座っていた小川も通路に吹っ飛ばされ転がった。腰を強打したが幸い無事だった。非常レバーが引かれてドアが開いた。線路に出た小川の目に惨状が飛び込んできた。すぐ無意識のうちに駆け出した。後ろを振り向くと誰も付いてこない。一瞬目を疑ったが『助けるぞ、救助するぞ』と大声で叫ぶと、若い男女十数人が後を続いてきた」ということです。こういう言葉を聞くと、いざ実際に大きな災害が起きたときに声を掛ければ、いろいろな方が手伝いに駆け付けてくれるのではないか、ということです。やるべきことというのは声掛けができる人を少しでも増やすこと、地域ごとに10人でも5人でも、少数精鋭でいいので、そういう声掛けをできる人が存在すれば、それが10人の10歩という形で災害の時に大きな役割を果たすかもしれないと思います。

「恥ずかしい」が命取り

今、緊急地震速報が鳴ったら、皆さんはどうしますか? まずキョロキョロと周りを見渡すことはありませんか?

非常の際には、最初の行動をどうすべきかは何となくは分かっているのですが、その一つ前に「恥ずかしい」というふうに、一瞬ためらうようなことがあるかと思います。これは地震だけではなく洪水などのときもそうですが、警戒して早めに避難することや、いち早く難を逃れることが消極的だとか弱虫、臆病者などと思われるのを恐れて「恥ずかしい」という気持ちが働いて、なかなか実際の避難の行動に移らないのではないかと思うわけです。もちろんそういう行動をとっても、実際に大きな事が起きないで空振りになることも多いわけですが「いち早く身を守る行動」というのは周りの人もそれに付いて行くきっかけになるので、高く評価するべきではないかと思っています。

私自身の話をさせていただくと、後期高齢者の私の両親は九州の田舎に住んでいますが、家は川のそばにあり、半世紀以上前は何度も台風で家が流されたというような場所に住んでいます。その後、堤防も整備され、時々あわや、ということはあるのですが、大きな被害はないといったような状況です。最近はインターネットで川の水位が、東京に住んでいる自分でもリアルタイムで確認することができるようになっていますし、地元自治体の防災メールに登録して情報の配信を受けています。それだけでもすごい時代になったと思います。2、3年前、台風と長雨で川が増水して、私の両親が住む地区に避難勧告が出されました。水位がかなり上がっていることがインターネットで分かったので、私は電話で両親に対して避難を促したのですが、「周りは誰も避難していないし、みっともない」と言って、なかなか避難しませんでした。何度も電話をして、いろいろ情報を伝えて、ようやく重い腰を上げたのですが、それまで何をしていたかと聞いたら、避難する時に持っていくおにぎりにするための米を炊いていたと言っていて、がくっときました。結果的、にはその時も堤防を越えたりするようなことはなかったのですが、一歩間違えば笑い話では済まないわけです。特にうちの両親の場合は後期高齢者ということもあって避難はすぐにはできないので、少しでも早く避難することが大事だと思うのですが、恥ずかしいとか、おっくうとかいうことで、ちょっとためらって命を失うことになるのではないかと思います。特に地震の場合などでは、頭をかばうというのは一瞬の行動になると思うので、少しでも恥ずかしいという気持ちが働いたら、物が頭に当たって死んでしまう、手遅れになってしまうこともあるのではないかと思います。その意味でも、「防災」に関しては「恥ずかしがらずにやる」ということが大事なのではないかと最近思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

会社概要 | 個人情報保護方針