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防災インタビューVol.95

災害知識の再考 ~災害対応時の人の動きを理解するために~

放送月:2013年10月
公開月:2014年3月

関谷 直也 氏

東洋大学 准教授

正常化の偏見

東日本大震災が起きてから、もう2年半以上たち、だんだん震災に対する意識が薄れてきています。災害から時間がたつと、どうしてもつらいことから目をそらしたいという気持ちも出てきますし、テレビ、新聞などでも、だんだん皆が飽きてきているので、ニュースとしても減ってきます。被災された方も、毎日それをずっと考え続けるのでは生きていくのはつらいですから、だんだんと記憶から忘れていくのが自然なことです。人間というのは、つらい出来事を忘れようとするのは災害に限ったことではありません。例えば失恋したときというのは、その場ではわっと感情的になりますが、ある程度時間がたつと忘れるものです。災難や自分にかかっている苦労も、時間がたつと忘れてしまいますし、社会的にも風化されて、同じことを繰り返してしまっているのが今の日本の災害です。これは専門的に言うと「正常化の偏見」「ノーマルシー・バイアス」ですが、私たちはやはり日常に戻っていこうとするということです。災害というのは異常なことなので、異常なことを毎日考えながら生活をしたり、毎日考えながら生きるというのは、人間には難しいことです。時間がたっていくと災害を忘れていってしまい、結果、災害に備えないで、次の災害を迎えてしまう。これが「正常化の偏見」といわれる災害時の心理の一番大きな問題です。

災害の直後は家を耐震化したり、災害を忘れないように訓練をしたりします。東日本大震災の後も、やはり怖がったり、変な雰囲気というか異常な事態というふうな感覚があったと思いますが、それがどんどん日常の生活に戻ってくれば、いつの間にか、あの時の経験は忘れてしまうわけです。関東大震災も江戸時代の地震も、多分そういう状態だったはずですが、何年かたつと、そういう記憶は忘れて、いつの間にか平時に戻っていく、そしてまた次を迎えるということを繰り返してしまいますので、これをきちんとどこかで断ち切ることも大事です。人はこのように災害を時間とともに忘れてしまうということを認識して、震災などの大災害に備えていかないといけません。自分たちはそのような感覚に陥りやすいのだということをきちんと分かって、災害に備えていくことが大事です。

私たちは災害が起こる前には、何も特に不安に思いません。これを「正常化の偏見」「ノーマルシー・バイアス」と言うのですが、いざ災害が起こったときには不安になります。これを「カタストロフィー・バイアス」と言って、震災後はものすごく極度に不安になるので、うわさが飛び交ったり、普段信じないような「どこかで窃盗事件が多発している」「レイプが続発している」というようなデマを信じてしまったり、過度に敏感になってしまう傾向があります。東日本大震災の時にも東京で「千葉にあるガス工場が爆発して有害物質の雨が降る」「石巻で外国人の窃盗団がうろついている」「避難所で餓死が続いている」というようなうわさがネットで広まったりしました。皆が異常な事態になって心配をしていますし、これから何が起こるか分からないという不安と情報が足りないこと、その二つを原因として起こるのがうわさです。

水と食料の備蓄の必要性

東日本大震災の際には東京や大阪の都心部で、コンビニやスーパーから品物がなくなってしまいました。これは不安なので買いだめをしたというのもありますが、流通がストップしてしまったことによる品物の不足ということもありました。都心部ではコンビニやスーパーとかは流通に頼っているので、交通が動かなくなってしまうと商品は賄えなくなります。

私たちが震災後にアンケート調査をとって分析した結果によれば、乾電池やガソリンについては、ものすごく不安になって普段より必要以上に買ったという人は多いのですが、それ以外は「意外とまあまあ普通どおりに生活していた」という人が多かったのです。買いだめ、買い占めをしたという人は1割以下でした。しかし1割以下の人がわずかでも買おうとしたり、普段だったら都心部のコンビニエンスストアで昼飯しか買わないのが、帰れないから昼飯も夕飯も明日の朝ご飯もというような形で買っていたら、それだけで物がなくなってしまうわけです。それくらい脆弱な場所に生きているのだということを理解することが大事です。自分たちは買いだめしないようにしようとしても、多分物不足は震災後は絶対に発生しますので、そのために普段から1週間分の水、もしくは食料全部というのは難しいかもしれないので、ある程度飢えをしのげる程度のものを準備しておくことが大事になってくると思います。

東日本大震災の時は「買い占めして、みんなひどかった」と思い込んでいる人もたくさんいます。皆が「あの時は買い占めをして、よくなかったから、何とか自分たちで頑張って、ああいうことをしなければ震災は乗り越えられるんだ」と思いがちですが、これはある意味、精神論の世界です。そうではなく、普通の生活が送れなくなるのが震災なので、精神論で乗り切るのではなく、事前にきちんと水や食料を買っておいて備蓄しておくことが大事です。特に水が必要です。震災で、飢えで亡くなることは少なくとも近代の日本ではないので、脱水症状にならないように水は必要です。1人1日2リッター分を用意しておけばいいですし、風呂に水をためておくだけでも相当な分量になりますので、それでも大丈夫です。災害時にはライフラインがストップするので、慌てないように日ごろから備蓄と心の準備をしておいていただきたいと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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