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防災インタビューVol.96

災害と保険 ~防災とBCPの違いからリスクマネジメントまで~

放送月:2013年11月
公開月:2014年4月

高橋 孝一 氏

損保ジャパン日本興亜リスクマネージメント取締役

防災とBCPの違いと関連性

上場企業の社長と話をしたときに「安否確認システムを入れました。非常用発電機も買いました。耐震補強もしました。あと何をすればBCPが完成しますか?」という質問をされました。私は「社長、これだと何にもBCPについてはやっていません」と答えると、「エッ、だって三つもやっているじゃないか」と言われるのですが、実はこれら全ては防災対策です。安否確認システムは、従業員がまず無事か否かを確認する仕組みですし、耐震補強をして建物が壊れないようにすれば、中にいる従業員やお客さまは無事に過ごせます。非常用発電機があれば、停電したときに電気を供給することができます。しかし、これは全て防災のための対策です。このような対策をしていても、それらがもし全てうまくいかなくなってしまったときに、どうやって供給責任を果たすかを計画するのがBCPです。企業としての責務を果たして、事前に全ての防災対策をしっかりやった上で、さらにその上をいくような災害や想定外の疫病が流行した際などに、どういう形で物やサービスを供給し続けるかを知恵を絞って考え、その策を紙に落としたものがBCPで、それを実際に実行できるようにするには訓練が必要です。

例えば、中小企業の方が「お金がないので耐震補強もできないし、発電機や安否確認システムが入れられないのでBCPができない」と言われることが、よくあります。しかし、もし自分の工場が壊れてしまっても、例えば金属機械工場でしたら金型というものがあって、それに鉄板を入れて、いろいろ加工すると部品が出来上がります。金型は金属機械工場の命です。「その金型を持って逃げて、他の金属加工工場に行って、職人さんと一緒に加工すると製品ができますか?」と聞くと、ほとんどの方は「できる」と言われます。それはもう立派なBCPです。この会社では金型を持って職人さんと一緒に逃げて、他の会社で造らせていただく、これでBCPは完成です。防災は特にやっていませんし、耐震補強をしているわけでもないのですが、端的に言えば、それでも十分BCPは機能することを伝えながら、中小企業の社長さんに希望を持っていただくようにアドバイスをしています。

もうかるBCP

私は必ず企業の経営者の皆さんに「もうかるBCP」ということを伝えていますが、もうかるという言葉を入れると経営者の皆さんはすぐに反応されます。防災というと「もうからない金食い虫」というイメージが湧きますが、BCPを作って、しっかりそれをお客さまにアピールすると、お客さまに信頼され、その品物を買ってもらったり、取引がまた新たに始まったという事例がたくさんあります。これが「もうかるBCP」です。これには、もう二つキーワードがありまして、「役立つBCP」それから「誇れるBCP」です。「もうかる」「役立つ」「誇れる」と、この三つがそろうと、きちんとしたBCPができますし、経営者の皆さんは非常にやる気が出てくるというものです。

「もうかるBCP」というのは、BCPを作ったら必ず経営者がそれを持って、いろいろなお客さま、今までの取引先、新たな取引先を回って「うちはこういう形で供給責任を果たせます。BCPをしっかり作って、訓練までしている会社です。ですから、どうぞ新たな取引先として入れてください」と営業に回り、トップセールスをしていただくと、これによってもうかるというものです。BCPというのは、どちらかというと有事に役立つものですが、平時から使わないと意味がありませんので、平時から役立つBCPを作ることが大切です。

また今、中小企業を中心によくやられているのは、1人がいろいろな仕事ができるように多能工化するということです。経理ができたり、製造ができたり、システムがいじれたりという形ができると、Aさんが来なくてもBさんができるという形になるので、効率化も非常に進み、平常時から役立ちます。このように平常時の会社の中でもきちんと役に立ちながら、BCPの中の代替要員として用意しているという戦略があるので、これもBCPとしては有効なわけです。

BCPを作っているにもかかわらず、日本の企業はアピールの仕方が下手なところがあって、「うちはBCPを作って、しっかりとしています」ということをホームページや会社案内に載せていない場合が多いです。実際に企業のホームページをクリックしても「BCPがしっかりできています」と書いてある企業は本当に少ないので、欧米から見ると「日本というのは自然災害が多い国だけれど、本当に大丈夫なのか」と見られてしまいます。それをきちんと払拭するためにも、日本の企業もしっかりBCPに取り組んで、3.11を乗り越えてきたのだということを、どんどん世界に向かってPRしていくことが必要です。これをやることによって海外との商売につながり、結果的にもうかることもあります。役立つBCPを作って、誇れるBCPで社外PRをして、それでトップセールスをして、しっかり平時からもうけていただくことが重要です。「もうけるためにBCPを使うんだ」というのが認識できれば、もうけたくない企業はないので、BCPに取り組まない企業はなくなると思います。また、耐震補強や発電機の購入などを事前に行うために銀行から融資を受ける際に、BCPの目的で使うお金を借りる場合は、0.1~0.3ぐらい金利が安くなる地方銀行や政府系金融機関も結構ありますので、まずは取引をしているメーンバンクに、BCPに取り組むということで問い合わせをしていただくといいと思います。

デリバティブを利用して、強い企業にBCPの準備の際に使える金融機関からの融資のほかに、事前に契約をしておいて、災害などが起こった際にお金が下りるものもあります。よく知られているのは保険ですが、その他にちょっと耳慣れない言葉ですが「デリバティブ」と呼ばれるものもあります。これはどういうものかと言うと、例えばビール業界にとっては、夏が寒いとビアガーデンは全く閑古鳥でビールは売れません。清涼飲料水やアイスクリーム、それからアイスクリームの下のコーンを作っている会社や夏物の服を作っている衣料の業界、夏のプールをなりわいとしているレジャーランドなども、夏が寒いとお客さんが来なくなりますし、商品が売れなくて困ります。そういう時に事業継続するのには、お金が必要になります。例えば「お天気デリバティブ」という補償では、気温が25度以上にならない冷夏になった場合にビールも飲みたくなくなるので、その際には1億円下りてくる、というようなものがあります。日本は自然災害の国ということで地震や台風に目が行きがちですが、お天気、いわゆる気温がその業界のリスクになるというのも幾つかありますので、それに備えるものとして、金融の派生商品になりますが「デリバティブ」というものが出てきています。

デリバティブと保険の違いの一例として、お茶を栽培している農家を考えてみると、農園に台風が通過すると茶葉が駄目になってしまいます。しかし、どの程度の損害が出るかは事前には分からないので、保険を掛けるのは難しいのですが、例えば「静岡県に台風が二つ通過したら自動的に何千万円出てきます」というデリバティブ商品があります。静岡県というと熱海から豊橋までの地域になりますが、この地域に二つ台風が通過すればいいというような商品は「静岡県に台風が二つ来たんだ、だからうちは補償金がもらえるんだ」というようなもので、お客さまにとっても非常に分かりやすいです。それを掛けているお茶の農家も結構います。このように自然災害があっても事業は継続していかなければなりません。農家も生き残るためには何らかの資金繰りは必ず必要になりますので、デリバティブというのも一つの方策だと思います。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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