「防災教育」小学校から地域へ
現在、小学校で防災教育をしていますが、その波及効果をとても期待しています。先ほど「親への波及効果」についてお話をしましたが、その後は「地域への波及」も考えています。
「地域への波及」の必要性としては、災害の際は地域皆で助け合わないといけない部分が出てくると思いますが、現在はあまりよく近所の方を知らないという状態になっています。小学校の授業で災害メカニズムを子どもたちに学んでもらって、それからどういうふうに避難するかを考えてもらうだけでは駄目だと思っています。その後、自分たちが住んでいる所がどうなっていて、どこが危険なのかを知らないと、実際に子どもたちは行動に移せないと思います。その時に地域の方、特に昔その地域で何が起こったかを知っているお年寄りたちに、今は暗渠になっていたり、コンクリートになっていて水害が起こらなくなってはいるけれども、昔水害が起こった所というのは、やはり危ない所なので「ここでは昔こういうことが起こったんだ」という話を子どもたちにしてもらうことが大切です。子どもたちが地域の方の話を聞いて「ここは危険なんだ」という想像力を増しますし、世代間交流もできるので、地域の人と顔見知りになります。そうすると「あのおじちゃんに教えてもらったんだよ」と親御さんたちにも話すようになりますので、それまでなかった親御さんと地域の方との関わりが、子どもによってつながるのではないかと期待しています。
また、地域には自主防災組織があり、小学校などで活動していても、実際に子どもたちとの交流はありませんし、学校の先生がお手伝いする程度で、防災組織に入っている人たちだけが活動している状況が多く見られます。これも非常に残念なことなので、もっと子どもたちと地域との触れ合いが持てればと思います。
実際に、子どもたちの学んだ防災教育が地域に広がっていけば、地域間の交流も広がって、いざというとき、何かが起きたときに助け合える仕組みができるのではないかと考えています。それにはキーパーソンが必要です。地域の方で、学校に働き掛けをしてくれて、学校の先生が「子どもたちも参加させましょう」と言ってくだされば、活動のきっかけになっていくと思うので、ぜひ音頭を取って活動を進めてくれる人が出てきてくれればと期待しています。
防災を通した地域の活性化
私は現在、子どもたちを中心に、子どもから親、親から地域社会への広がりを期待して防災を研究していますが、今後は地域社会もだんだん高齢化していきます。その際に地域社会が高齢化によって疲弊するのではなく、防災を通して活性化していくことが最終目的だと思っています。
例えば地域には、地域文化や伝統工芸品があって、それを継承していくのはとても大変なことだと思いますが、実際に文化や工芸品を継承しているといっても、そこの地域が活発に何かをしているのかというと、そうでもない地域も多くあります。その地域を活性化させるために防災教育が何かに携われないかを今、考えています。
もし特産品はあるけれど他の地域との差があまりなくて、全国的には知られていないものがあったとして、その地域で防災教育をやって、地域の人たちが一体になって取り組んでいって全国のモデルケースになったとします。すると日本中の行政が視察にやってきて、そこの特産品も有名になりますし、観光地化するわけです。そういうことで経済的にも潤って、地域の人たちも自分たちの町にどんどん愛着を持っていきます。そういう循環、いいスパイラルができないかと考えているところです。
どうしても今、東京を中心に物事を考えがちなのですが、そうではなくて、災害も地域によって違いますし、地域の特色も自分たちが中にいるときには見えないけれど、外の人から見たら資源は本当にたくさんあります。その資源は一つだけでは弱いかもしれませんが、いろいろなものを組み合わせると、他にない自分たちの町だけの、自分たちの地域だけの何か、というのができると思います。それをうまく防災教育と絡めて、地域の活性化ができないかと考えています。それには、お子さんを通して地域間のつながりが深まって、「じゃあ、何かやろう」というエネルギーにつながらないかと思っています。
防災教育の標準化
この話の最初でもお話ししましたが、防災教育というのは学校によって、地域によっての格差があってはいけないと思います。皆さん平等に機会を与えてあげるべきものだと思うので、防災教育を受けている子と受けていない子で運命が変わってしまうというのはあってはいけないと思います。
現在は、防災教育は学校現場に任されていますが、子どもたち全員に同じ防災教育を可能にするためにも、最終的には防災教育が学校教育現場で標準化されることになればいいと思っています。