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防災インタビューVol.97

防災教育の標準化 ~子から親、地域へ~

放送月:2013年12月
公開月:2014年5月

中井 佳絵 氏

法政大学大学院地域創造システム研究所 特任研究員

都内の小学校の現実と課題

今年から調査地を広島から都内に拡大して、既に二つの区で実施していますが、広島では年に1回しか避難訓練をしていません。その避難訓練も毎年、防災のことをやっているわけではなく、火災の避難訓練だったりするわけです。広島の場合は、防災の避難訓練に触れるのは何年かに1回になるのですが、都内の場合は1カ月に1回は避難訓練をしていますので、やはり子どもたちの地震や火災に対する知識は、広島よりは高いと感じることが多いです。首都圏では、首都直下地震がずっと危ぶまれていて、それに対する対策がとられているので、学校現場でも防災に対する教育には力を入れていることによるところが大きいのだと思います。それに加えて東日本大震災で防災意識はすごく高くなっているので、そういう意味で東京都内のほうが地震や火災に対する知識は一定程度高いと感じています。

東日本大震災後に、全国的に防災教育の必要性を文部科学省も認めているのですが、時期的に脱ゆとり教育とちょうど重なってしまって、今まででしたら総合学習の時間に防災教育を受け入れてもらえたのですが、そういう時間もだんだんなくなって、一般の授業をしなくてはいけなくなりました。そこで防災教育は保健体育の中で学ぶことになりました。ただ保健体育は、他にもいろいろしなくてはいけないことがありますので、どれくらい防災教育に時間を割けるかは、学校側の判断によるものとなります。学校側が「じゃあ防災教育をたくさんしましょう」と思えばできますが、「もっと他のことをやろう」ということになったときは、防災教育の時間は減らされるわけです。そういう中で、ちょっとずつ格差が生まれてくるのではないかという懸念は持っています。  特に最近は、塾で防災のことを教えるところがあり、塾に行っている子は防災について学んでいるものの、塾に行っていない子は習っていないので分からないということです。

今回の授業中にも、ものすごく答えられる子がいて、「どこで習ったの?」と聞いたら「塾で教えてもらった」と言うのです。私が行って防災の話をしなかったら、塾で習っていない子はずっと知らないままだったのかと考えると、ちょっと怖いことだと思います。

現状として防災教育は学校側に委ねられているので、学校側にやる気のある先生がいるところはやるけれども、防災はよく分からないと考える先生だと、子どもたちになかなか伝えられないということが起きてしまうのです。 それ故、教育する側の意識も少しずつ変えていかないと、実際に教えられないと思います。学校の先生はいろいろやることがあって、とても忙しいと思いますし、その中で防災の知識を再度自分で勉強してから子どもに伝えるのでは、かなり負担が大きいと思います。

体系的な防災訓練

都内で実施した学校の事例を紹介したいと思います。前にもお話ししましたが、東京では、今回は地震、今回は火事というように毎回テーマを持って、避難訓練をしています。先日、木造密集地域で防災授業を行ったとき、学校の先生のリクエストが「木造住宅が密集している場所では、地震が起きた後、火災が起きる恐れがあると言われているので、そのお話もしてもらえないでしょうか」ということでしたので、それを加えてお話をしました。子どもたちに「火事が起きたらどういう行動をとる?」と聞くと、やはり毎回訓練をしているだけあって、すぐ答えられます。「じゃあ、地震が起きて同時に火災が起きたとき、どういう順番で自分の身を守る?」と聞くと、子どもたちは混乱してしまいます。

家で火事が起きた場合、皆さんはどうしますか? 消防の方は、まずは「火事だ!」と叫んで周りに知らせてから、消火活動をするのがいいと教えています。子どもたちもこのことはよく知っています。でも「地震が起きて、火事が同時に起きました。では、どうしますか?」と聞くと子どもたちは、地震が起こったときには、まずは机の下などに逃げて身を守るということは分かっているけれども、先に火事の話をしていると「ガスこんろの火を消します」という話になってしまいます。「まず自分の身を守る」ということにならなくなってしまうわけです。

このようにテーマ別に訓練をしていると、同時に何かが起こったときに優先順位が分からなくなり、応用力がなくなってしまうことになります。それで、今までは火災だったら火災、地震だったら地震という訓練をしていましたが、同時に起きることもあるという想像力を子どもたちに想起させるような授業をしていかなければいけないのではないかと考えています。そういう体系的な防災訓練を学校でも取り入れてほしいですし、私たちもその地域に行ったときは、なるべく子どもたちが応用力を付けられるような授業をしていかなければいけないと思っています。

災害はいつ起こるか分かりません。学校にいるときに起こるかもしれないし、通学路で起きるかもしれません。その時には親は子どものそばにはいられません。そのような時でも、子どもが自分で自分の身を守れると思うと、親御さんは離れていても安心です。いつ災害が起こっても子どもが自分の身を守れるような教育が必要です。どんな災害が起きても、こういうときには、こういうふうに逃げたらいいというイマジネーションが子どもにできれば、他にもいろいろな意味で、いい影響が出てくるのではないかと思っています。今、日本の子どもたちは国際的に見ても応用力がない、読解力がないと言われていますが、体系的な防災訓練をしていけば応用力も養われていくので、そういう意味でも防災教育というのをぜひ役立ててほしいと考えています。

水害教育の必要性

最近は都市型の水害が非常に増えていますが、都内の子どもたちは地震に対する教育はされているのですが、水害に対してどう避難するのかについては、極端に知識が低いので危険だと感じています。マスコミの報道などで、水害についても触れる機会は多くなってきてはいますが、都市の場合は山が見えているわけではないですし、コンクリートで覆われていますので「コンクリートだから大丈夫だ」と思ってしまいます。ただ、コンクリートも年々風化して弱くなりますし、そのコンクリートの後ろはすぐ崖になっている所もあります。水が染み込んでいって、ある一定の水の量を超えてしまうと、そこが崩れることもあり、コンクリートが弱くなっていれば土砂災害の危険性があるわけですが、子どもたちはコンクリートに覆われていたら絶対大丈夫だと思っているので、本当に危険だと思います。きちんと風水害に対する教育もしていかなければいけないと、最近すごく感じます。

特に都市における水害は、アスファルトで覆われているために、水がなかなか土と違って染み込みにくいです。そのために、きちんと地下に貯水できるような施設がたくさんあるにはあるのですが、最近の雨の降り方は尋常ではないので、一気に流れ込んでしまいます。特に川では水が染み込まない分、上に上がってくるので、目黒川や神田川が反乱危険水位までいくということが何回もありました。そういうことをきちんと知っておかないといけないと思います。また、都市型で怖いのが、雨が降ったときに、どうしてもぬれたくないので、屋根のある所に逃げようとすることです。東京は特に地下鉄が発達しているので、地下に潜ることが多いのですが、水というのは低い所、低い所に流れますので、地下が一番危ないわけです。でも雨が降ったらぬれたくないという人間の心理があるので、つい地下に行ってしまいがちですが、頑丈なビルの高い所のほうが安全です。実は私もこれだけお話をしているのに、大雨に遭ったときに地下に逃げ込もうとしたことがあります。大雨のときは地下が危ないということを知るためには、何回も何回も、耳が痛くなるぐらいまでお話をしていかなくてはいけないのではないかと思います。そのためにも、水害に対する教育もきちんとしていきたいと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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