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防災インタビューVol.97

防災教育の標準化 ~子から親、地域へ~

放送月:2013年12月
公開月:2014年5月

中井 佳絵 氏

法政大学大学院地域創造システム研究所 特任研究員

災害に対する東西の意識の差について

私は法政大学大学院を受験したのが2011年2月で、3月に合格したのですが、その1週間後に東日本大震災が起きました。余震も続き、生活用品が不足している状況でしたが、大変なことが起こったと感じていました。その直後の悲惨な状況を見たら、子どもたちに災害メカニズムを伝えることがいいのかどうかという葛藤が、自分自身にもすごくありました。やはり東日本の子どもたちはまだ心のケアがうまくできていないだろうから、もしかしてそれが逆効果になるのではないかと悩んだ時期もありました。その後、震災から1年たっていなかったと思うのですが、一つの研究成果を目にしました。それは、東日本大震災後に「何メートルの津波であなたは避難しますか?」という調査をした結果、東日本よりも西日本のほうが高い津波が来たときでないと逃げないという報告がされていました。それを見たときに、私は西日本の出身なので、津波は本当に1メートル以下でも危ないのに、西日本の人たちが8メートル、10メートルの津波が来たときでないと逃げないとしたら、ほとんどの子どもたちが死んでしまうのではないかと心配になりました。「津波というのは1メートル以下でも怖いんだ」「大変なことになるんだ」という話をして、そういうバイアスをきちんととってから災害メカニズムの話をしていかなければいけないと感じて、教材を作って広島で調査を始めました。

この東西の差が出てしまった理由としては、実際に体験した人は津波の恐怖が分かりますが、西日本の場合はメディアを通してでしか津波の情報を見ていません。メディアでは8メートル、10メートルの津波が来たというのがニュースで言われているので、それを聞いていると、そのくらい大きな津波が来たから子どもたちは皆、流されてしまったのだと感じるようになったのではないかと推測しています。

本当は津波が起きたらすぐに高台に避難するのが大切なのですが、それは分かってはいても「1メートルだったら大丈夫かな」と西日本の子どもたちが感じているのであれば、それは非常に怖いことだと思います。広島では津波の想定がそれほど高くないので、学校の先生たちでさえ、高い津波が来なければ大丈夫だと思っていました。そこで、まず先生にそうではないことを分かってもらい、子どもたちにもそれを伝えるために調査をお願いしたという経緯があります。東日本大震災のときも、関東にいる人は本当に身近な災害として実感があったのですが、西の方では実感としてそれほどなかったために、距離的、空間的に違いが生じてしまったのではないかと感じました。

体験型教材と映像型教材の比較

西日本と東日本での防災に対する格差をなくすための防災教育については、修士論文にも取り上げており、調査の仕方を考えていました。その際に8メートル、10メートルの津波の映像を見て、メディアの影響を受けた西日本の子どもたちに対しては、映像を使った防災教材で教えた場合と体験・実験を通して災害メカニズムを教えた場合で、その効果が違うのではないか、きっと体験型のほうが子どもたちにとって防災教育がより深まるのではないか、という仮説を立てて、広島で調査を行いました。

体験型といっても災害をそのまま体験してもらうわけにはいかないので、津波の原理模型という災害を再現した模型を使って災害のメカニズムを教えた場合と、ニュース素材を使って、それを見て災害メカニズムを説明した場合、どちらが子どもたちの防災教育に効果があるだろうか、というのを調査しました。

その調査に当たっては、防災授業をする前後にクイズを行って、その伸び値を測りました。子どもたちの行動に対するクイズの答えは、映像型よりも体験型の教材のほうが優位であることが分かりました。これは、期待した結果のとおりでした。やはり子どもというのは、実感してきちんと見て、それから感じることがすごく大事だと感じました。

体験型の授業では三つの実験を行いました。その中で子どもたちは、とても喜んでやっていたので、先生方が「子どもたちは、ふざけて遊んでいるんじゃないか」と思われるほど楽しく実験をしていました。一方、映像型のほうでは最初に、阪神淡路大震災の映像を子どもたちに見せました。これは子どもたちの生まれる前の出来事で、津波も起きていないのに、こんなに人が亡くなって大変なことが起きたというのを見たときに、子どもたちの表情がガラッと変わり、それまで騒いでいた子どもたちの目が真剣になっていました。その映像を見た後も真剣に話を聞いてくれているので、私は最初、映像型のほうが高い効果が出るのではないかと思っていましたが、実際にデータを分析してみると、体験型のほうがより子どもたちのテストの点が伸びていました。

子どもたちにとっては、映像というのは恐怖の体験だったようで、それを見せて災害メカニズムを教えても、なかなか頭に入らなかったのだと思います。しかし体験型だと、自分で見ながら、手で触ってみて「実際の津波だったら、水の固まりが一気に押し寄せてきて危ないんだ」と気付くことができます。そして、その後、「どのように行動すればいいのか」まで考えてくれたのは、とてもうれしいことでした。

「子助」の大切さ

防災においては「自助」「共助」「公助」がとても大事だと言われていますが、それにプラスして「子どもの力」というのが重要になってくるのではないかと考えています。その子どもたちに対して、どういうふうに防災教育をするべきかということで、体験型教材と映像型教材を使った教育効果の比較調査と、それぞれの追跡調査をしました。体験型の教材を使って授業をした子どもたちの中で一番テストの伸び値が高かったクラス、それから映像型の授業をして一番伸び値が高かったクラス、この二つを追跡調査しました。子どもたちに「家に帰って、この防災授業を受けたことを家族に話しましたか?」というアンケートを取ったところ、映像型のほうのクラス20人のうち「はい」と答えたのが5人、「いいえ」と答えたのが15人で、家で話をした子どもが非常に少なかったということです。一方、体験型のほうは、35人クラスで「はい」と答えたのが何と31人、「いいえ」が4人でした。比較してみると、映像のほうはほとんど子どもたちが話していない状況でした。楽しかったことはつい人に話したくなりますが、思い出すと怖いものはなかなか話せないものです。私も広島出身なので、原爆資料館に子どもの頃からよく行っていたのですが、見た後に話をすると思い出してしまうので、親と話をすることができませんでした。親に「見に行ってどうだった?」と聞かれても、「うーん、なんかすごかった」としか答えられませんでした。逆にキャンプのような楽しい体験ならば、「お母さん、こうだったよ」「お父さん、こうだったよ」とつい話したくなります。恐らく体験型の授業で実験をしたことが、子どもたちにとっては、とても楽しかったのだと思います。実はこの後に、子どもから話を聞いた家族の反応についても聞いてみたのですが、「はい」と答えている子どもたちの家族は、ある一定程度の関心を見せていることが分かりました。「あっそう」で終わるのではなく、「ああ、そういう授業やったの。うちでもちょっと防災のことを考えないといけないね」というように答えていました。今まで防災に関心がなかった親に対しても、一定程度の関心が持たせられる可能性がここで出てきました。

現在、各地に自主防災組織がありますが、なかなか働く親の世代が参加してくれず、高齢化が問題になってきています。そのような中で、子どもが防災についての話を親にしてくれることで「防災にも関心を持たないと」と思ってくれて、無関心層が減るだけでも、かなり違うと思っています。子どもの教育や、子どもが言うことには親はある程度反応するので、子どもが皆の防災意識を高めるひとつの要素となったわけで、これが「子助」だと思います。子どもは親にとって、それまでは「守らないといけない存在」だったわけですが、今後は「親に教えることができる存在」になり得るのではないかと思っています。

※今回のインタビュー記事は、「FM salus」が過去に放送した「サロン・ド・防災」の内容を、一部改定して掲載しています。

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