船舶を利用した「防災スマートグリッド」についてのまとめ
防災スマートグリッドには三つの柱があります。一つは再生可能エネルギー、風力とか太陽光をうまく使うにはどうしたらいいのかを検討するのが一つの柱です。もう一つは、エネルギーを使う市民の方々が、うまく使うために電力の見える化をして、市民が自分でエネルギーを使っているのだということを意識しながら生活することが二つ目の柱です。それから三つ目が、久慈市の話とか原発の話でしましたが、緊急時に船から電気を送る仕組みをきちっとつくっておきたいというのが三つ目の柱になります。特に災害時に電気がなくなると生活は非常に不便になります。海洋国日本の周りにある船には、非常にたくさん電気を作れる能力があるので、それをうまく使って電気を供給したいというのが三つの柱です。これらの防災スマートグリッドについての本を出してから、もう10年たちましたので、少しずつこのシステムができつつあります。非常時の電源に関しては、豊洲の新豊洲病院や横浜の八景島に、船から電気を送る仕組みをつくってあります。そのようなサイトをだんだん増やしてきていますので、うまく緊急時にも電気を使う仕組みが次第に広まってくるのではないかと思っています。
日本の海の広さは世界6位、海水の量だと世界4位、さらに5千メートル以上の海水の量だと世界1位です。日本の海は非常に深いのです。それに伴って津波なども引き起こされる可能性もありますが、逆に自然環境を利用して、それに立ち向かうのも大事です。また日本には災害が多いですが、それは火山が多くて、温泉が多いということにもなります。私の研究室でも、今まで捨てていた温泉のお湯を使って発電する方法に着手しており、もうじき売り出すことができると思います。このように災害が多いけれども、それをうまく利用して発電することもできるので、その意味では日本は非常に資源に恵まれていると思います。
市民力を生かした「スマート構想」
スマート構想の中には三つの柱があるという話をしましたが、そのうちの一つ、電力の見える化をして市民力を生かす実例についてお話ししたいと思います。
2011年、震災の年に、皆さんご存じのように、政府から15%の電力抑制のお願いがきました。その時に我が東京海洋大学では、キャンパス全体の電気を見える化しました。私はレッドゾーンとイエローゾーンというのを引きまして、それをWeb上に公開しました。レッドゾーンというのは契約電力量で、これより上げてしまうと違約金を取られるという電力ですが、イエローゾーンというのは政府の要請に従った15%削減の電力です。そして皆さんに、イエローゾーンに近づいたら、政府との約束だから部屋の冷房の温度を少し上げたり、部屋の電気を少しカットしたり、できればバッテリーで使えるノートパソコンを使ってくれというお願いをしただけなのですが、朝から電気が上がってきてイエローゾーンに近づくと、皆さん意識して行動して、きちんとイエローゾーンに入らないで政府の15%削減を守れていました。実際に中で何が起こっていたのかというと、イエローゾーンに近づいてきたのが見えると、皆さん徐々にエアコンの設定温度を上げていくのです。1度上げると電力は10%ぐらい減っていきます。大学というのは結構変な人というか個性の強い人がいて、実際には難しいかと思っていたのですが、15%削減ラインを1回も超えることがありませんでした。本当にすごいことだと思います。私の同僚たちにも個性の強い教授がいっぱいいるのですが、この人たちはもしかしてすごく良い人なのだと、その時初めて思いました。そうすると何か絆ができて、一夏乗り切ったという達成感を感じることができました。
これをマンションでもできないかということで横浜や横須賀のマンションに導入して、1棟全体の電力をWeb上に公開しています。横須賀のマンションでは、それを住民の皆さんが見て、電力を5割ぐらいカットできないだろうかということで、今年の夏に実験をやってみたいという話もされています。そうすることによって、きちんとエネルギーを自分たちで使っているという意識を持ち、もし政府から要請が来た場合にも、きちんと削減できるのであれば、計画停電は必要がなくなります。無理に全部停電するのは文明的な方法ではないので、自分たちで15%の削減というように、自分自身でコントロールする社会ができると、もう少し文明的な世の中になるのではないかと思っています。
一人一人が少しずつ、ちょっとずつアクションを起こすことによって、ものすごく節電できるわけです。10%の電力の削減というのは大型原発18機止めることに相当しますので、日本の人たちが少しずつエネルギーを調整していくことこそが、私は非常に大事なことだと思います。